健康保険証の新規発行は、あと2か月余りで停止となる。

 だが、マイナンバーカードに保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」のトラブルは今も続いている。

 岸田首相は保険証の廃止について「国民の不安払拭(ふっしょく)が大前提」と強調してきたが、現状は、不安が払拭されたと言えるのか。政府は虚心に議論し直すべきだ。

 政府は12月2日から紙の保険証などの発行を停止し、原則としてマイナ保険証に一本化する。

 それ以降も現行の保険証は最長で1年、使用できる。また、マイナ保険証を持たない人には、申請がなくても自治体や健康保険組合が保険証と同じように使える「資格確認書」を交付する方針だ。

 政府がマイナ保険証の普及を急ぐのは、医療分野のデジタル化を進め、将来的に医療費の抑制につなげる狙いがある。

 マイナ保険証には、過去の検査結果や処方された薬の履歴を閲覧できる機能がある。医師がそうしたデータを把握すれば、患者の持病を考慮した治療が可能になる。検査や薬の重複も避けられる。

 患者は、より適切な医療を受けられるようになるだろう。

 マイナ保険証の保有者は、今年7月時点で国民の59%に上っている。だが、病院や薬局での利用率は11%にとどまっている。

 マイナ保険証を巡っては昨年、他人の個人情報が紐(ひも)付けられるトラブルが頻発した。そうした問題は解消されたが、今も通信エラーで本人確認ができず、患者がいったん医療費を全額請求された、といった報告は後を絶たない。

 そもそもマイナカードの交付が始まった2016年当時、政府は、個人情報の漏洩(ろうえい)を避けるため外出時にはカードを携帯しないよう呼びかけていた。だが今は、情報漏洩の心配はないとして常時、持ち歩くよう求めている。

 これでは国民がマイナ保険証の信頼性を疑い、利用率が低迷するのも無理はない。

 保険証の廃止は、河野デジタル相が2年前、唐突に表明した。その後の政府の場当たり的な対応を見ると、デジタル機器に不慣れな高齢者などにどう配慮するか、といった視点を欠いていたと言わざるを得ない。

 政府は来春、運転免許証とマイナカードを一体化させた「マイナ免許証」の運用を始めるが、この免許証は現行の免許証との併用を認める方針だ。それができるなら、マイナ保険証と現行の保険証の併用も可能ではないのか。