海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」(後方は「さみだれ」)=2009年6月撮影

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 海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」が25日、自衛隊発足以来、初めて台湾海峡を通過したことがわかった。

 中国は8月の情報収集機による日本領空侵犯などで軍事的な威圧を強めており、それらの対抗措置として中国をけん制する狙いがある。岸田首相が政府内で検討を進めた結果、護衛艦の派遣を指示した。

 複数の日本政府関係者が明らかにした。さざなみは25日午前、東シナ海側から台湾海峡の通過を開始し、十数時間をかけて南方向に向けて航行して同日夜に通過を完了した。これに合わせ、オーストラリアやニュージーランドの海軍艦艇も台湾海峡を通過した。

 海自は26日から、南シナ海で両国海軍との合同演習を予定している。

 8月以降、中国軍は日本周辺での軍事活動を活発化させている。同月26日に情報収集機が長崎県・男女群島沖の領空を侵犯した。9月18日には、中国海軍の空母「遼寧」が与那国島と西表島の間を通過した。中国軍機の領空侵犯や、中国空母による日本の接続水域の航行が確認されたのはいずれも初めてだ。

 首相はこのまま何も対応を取らなければ、中国軍の行動がさらにエスカレートする可能性があるとみて、海自派遣に踏み切った。

 台湾海峡は最も狭い部分でも幅が約130キロ・メートルある。国家の主権が及ぶと国際的に認められている水域は、沿岸の基線から12カイリ(約22キロ・メートル)の領海で、米国などは台湾海峡について、どの国の領海にも属さない国際水域だとの立場をとっている。

 ただ、中国は台湾海峡を国際水域と呼ぶことに反対しており、日本の歴代政権はこれまで、中国側の反発を考慮し、海自艦艇による台湾海峡の通過を控えてきた。これまでも東シナ海に展開する海上保安庁の船が台風接近を避けるため、台湾海峡の公海で待機することはあったが、海峡の通過はなかった。

 米国やカナダなどの各国軍艦は「航行の自由」をアピールするため、台湾海峡を定期的に通過している。ドイツの軍艦は今年9月、22年ぶりに台湾海峡を通過した。

日本の安全保障環境に危機感

 海上自衛隊の護衛艦が台湾海峡の通過に初めて踏み切ったのは、日本の主権を脅かす中国軍の活動に対し、毅然(きぜん)とした態度を示すためだ。

 中国習近平(シージンピン)国家主席は2027年までに台湾侵攻の準備を整えるように命じているとされ、中国軍の最近の活発な動きはその一環とみる向きもある。

 日本政府は軍事的緊張を高めるべきではないとして、海自艦艇の台湾海峡通過に慎重な立場を取ってきたが、岸田首相は日本の安全保障環境に危機感を強め、そうした姿勢では平和を守れないと決断したようだ。

 今月23日には、北海道・礼文島北方でロシア軍機も領空を侵犯し、航空自衛隊は強い光と熱を発する「フレア」を使用した警告を初めて行った。中露が緊迫度を高めているのは、首相の退陣表明後の「政治空白」を狙い、反応を試しているとの見方もある。

 今後は中国側の反発が予想され、対抗措置に出てくることも想定される。27日投開票の自民党総裁選で選ばれた新総裁は早速、対中政策のあり方を問われることになる。(政治部 谷川広二郎)