「いまがいちばん楽しい」と語る世良公則

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「声も若い頃より出ているし、ギターも効率よく弾けるようになった。いまがいちばん楽しい」と世良公則(68才)は語る──。デビュー45周年を迎えた2022年には、「サザンオールスターズ」の桑田佳祐(68才)の発案で企画された「時代遅れのRock’n’Roll Band」に、同学年の佐野元春(68才)、Char(69才)、野口五郎(68才)とともに参加。5月23日にチャリティー配信シングルが発売されると、6月6日付のオリコン週間デジタルシングルランキングにて初登場1位を獲得。この年の『NHK紅白歌合戦』に出演した。

【写真】来年に古希を迎える世良公則。若かりし頃のスタンドマイクを使った独特の歌唱スタイルほか

 デビュー時期が近く、当時から交流があったという世良と桑田。ユニット結成の裏側とと、自身のこれからの活動について世良が語った。【前後編の後編。前編を読む】

構想は10年以上前から

 年に何回かは連絡を取り、誕生日や節目などを祝い続けてきたという世良公則と桑田佳祐。そしてお互い50代を超えたあたりで、自分たちに憧れた若いロックバンドが続々登場するなどして、世間でロックが“当たり前の音楽”として認められてきたと実感できるようになると、桑田から、

「同世代のアーティストと“何か”やりたい」

 という話を聞くようになった。

「なぜ同世代だったかというと、ぼくたちは皆、同じ時代を生き、愛するロックミュージックがどう扱われてきたかを知っているからです」(世良・以下同)

 とはいえ、立場や忙しさから実現には至らなかったという。

 潮目が変わったのがコロナ禍に入ってから。感染防止のための自粛生活により、音楽業界はもちろん、世の中が疲弊し始めた。

「桑ちゃんから直接連絡が来て、“長い間やりたかったことを、もういい加減にやりたい”と。もうがまんできない、という感じでしたね。それで、“桑ちゃんが動けば世の中は動く。ぼくは無条件にあなたの案に乗るよ”と言ったら、1週間後にはもう“こんな曲でやりたい”って、作って持ってきてくれた。

“いいねえ”なんて盛り上がっていたら、“じゃあ、メンバーを集めるね”って、桑ちゃんは自分がリスペクトする人たちに直筆の手紙を書いて、直接会って説得し、仲間に入ってもらった。それが、例の3人だったんです。ぼくはそれまで、彼らとの交流はあまりなかったのですが、音楽の話をしだすと、すぐに意気投合しました」

 暗く落ち込んだ世の中を、かつて偏見を受けていたロックの力で盛り上げよう、音楽で世の中を動かす、その象徴になろう──そうした熱意のもと、還暦を過ぎた一流ミュージシャン5人が集まったのだ。

あの佐野元春も笑顔に! それほど楽しい演奏だった

『時代遅れの〜』の結成意図は、世良がロックを続けてきた原動力そのものだったが、加えて、「いまこそやらなければならない」という危機感もあったという。

 というのもこのとき、コロナ禍の影響で軒並みライブは中止に。ミュージシャンだけでなく、音響、照明など、多くのスタッフが活動できなくなった。インターネットでライブ配信できるのはごく一部。莫大なキャンセル料を自己負担し、倒産してしまう制作会社やライブハウスもあった。

 2020年には、世良が毎年ライブを行っていたジャズクラブ「名古屋ブルーノート」も廃業。多くの音楽関係者が困窮し、精神的に病んでしまう人も多かったという。

「50年近くがんばり続け、ようやくロックが市民権を得たのに、コロナ禍になって音楽自体が活躍の場を奪われました。これはショックでしたね。こんな簡単に、ぼくたちが築いてきた世界は崩れるんだと……。でも、文化を救わないと人の心が廃れていく。だから、世の中が困窮しているいまこそ、音楽の力を示したい、と思ったんです」

 ミュージックビデオの収録では世良たちアーティストもスタッフも笑顔が絶えなかったという。

「紅白のときも、ぼくたちは全員笑顔だったでしょ。あれは心から楽しかったから。普段は物静かでクールな佐野くんですら満面の笑みを見せたほどですから(笑い)。

 ぼくたち5人がそろうと自然とセッションが始まるんです。その場面を切り取ったのがまさにあの紅白でした。本番はほぼアドリブ。なんせ、5人で練習もしなければ、リハーサル内容も無視。休憩時間は、どんな楽器を使っているのかなんて、機材の話ばかり。で、本番では桑ちゃんが、歌わないはずの人に無茶ぶりしたり、“レッツゴー!って一言入れるから、半拍早めに切って”なんて指示したり……。それでも全員即座に対応できちゃう。あと何曲でも演奏できますって感じでした」

 よほど楽しかったのだろう。話しつつも笑顔があふれていた。

未来を見て「いまを楽しく」それがいちばん大事

『時代遅れの〜』という名称は桑田のアイディア。

「名前の由来を桑ちゃんに聞いたら、“ぼくにはこの名での勝算があるんだ”って一言。だからこれはぼくの考えなんですけど、この企画では“時代遅れ”と言いながら新しいことをやっている。逆張りのメッセージが込められているんじゃないかなと。“これからの未来を考えてほしい”という意味があるんだと思うんです。だって、このバンドには未来しか感じられませんでしたから。メンバー全員が未来しか見ていないからでしょうね。10年経って、“さぁまたやろう”って言われてもやれますよ」

 たしかに、70代、80代になってもシャウトしている世良たちの姿が目に浮かぶ。

「ぼくのやることは、これからも変わりません。でも、“きっといつかは枯れて散る”という思いは常にあります。だからこそ、その覚悟を持って止まらずに生きています。そのためには、いまできるすべてを懸けないといけない。いまをキープする意識ではだめ。100%以上の表現をし続けるくらいで、ようやくキープできるんじゃないかと思っています。立ち止まらず、上を目指したいですね」

 ストイックだ。そのための健康管理も欠かさない。のどは筋肉なので、ライブ後はすぐに冷やし、寝る前は温める。食事は素材とだしにこだわって自ら作り、脳を“無”にする時間を作ってストレスをためない。15年ほど前から岐阜県にある窯に通い陶芸も行っており、ライブの合間に立ち寄っては作陶するのが、息抜きと生きがいになっているという。

「声も若い頃より出ているし、ギターも効率よく弾けるようになった。いまがいちばん楽しい──。本心からそう思うし、そうやって生きていくことが大切だと思っています。尊敬する宇崎竜童さん(78才)は100才まで演奏し続けると言っているので、ぼくもがんばりたいな(笑い)」

 アコースティックギター1本で2時間のライブを歌いきる愚直なロックンローラー。軽やかに年齢を重ねる世良の今後が楽しみだ。

(了。前編を読む)

【プロフィール】
世良公則/1955年、広島県生まれ。1977年、ロックバンド「世良公則&TWIST(ツイスト)」でデビュー。『あんたのバラード』や『燃えろいい女』など数々のヒット曲を生み、日本のロックミュージックを牽引。1981年の解散後はソロに。俳優としても活躍し、NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(2021年)などに出演。2022年には、「サザンオールスターズ」の桑田佳祐に誘われ『時代遅れのRock’n’Roll Band』のレコーディングに参加。同曲で『第73回NHK紅白歌合戦』に出場。

【今後のイチオシ!ライブ情報】
■『YEBISU GARDEN PLACE 30TH ANNIVERSARY WEEK SPECIAL PRESENTATION! EBISU JAM 2024〜世良公則 KNOCKKNOCK with神本宗幸 「TWIST and shout」』
「TWIST」のオリジナルメンバーで盟友の神本宗幸を迎え、「TWIST」のオリジナル&カヴァーで構成するアコースティックライブ。ゲストは宇崎竜童。
〔日時〕10月13日(日)17時開演〔場所〕恵比寿ザ・ガーデンホール(東京)※チケット発売中

■『世良公則 x JETROX TOUR 2024』
ゲストにつるの剛士を迎え、盟友・神本宗幸も特別参加。
〔日時〕11月4日(月・祝) 17時開演〔場所〕東京・Zepp Shinjuku※チケット発売中

取材・文/上村久留美

※女性セブン2024年9月26日・10月3日号