まんだらけのホームページより

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まんだらけの新サービスに注目

 東京・中野に本社をおく大手古書店「まんだらけ」が、漫画家やイラストレーター、アニメーターの原画やサイン色紙の「簡易鑑定」のサービスを開始した。同社はすでに、色紙や原画を独自に真贋鑑定するサービスを5万円+税で請け負っている。今回のサービスは、2万5000円+税と半額。そのかわり、実際に現物を見て判断するのではなく、Web上の写真などから判定するため、鑑定書の発行はしないという。

【写真】世界中からアニメ・漫画ファンが訪れる東京・中野の「まんだらけ」と会長の古川益蔵氏

 具体的には、たとえばネットオークションやフリマサイトで、漫画家の原画を購入したいと思ったとする。購入前に、まんだらけのそのサイトにリンクや画像を送り、鑑定料を支払う。すると、画像をもとに真贋鑑定を行ってもらえる仕組みだ。同社は、「どうしても欲しいが、真贋が分からない」という人に向け、「“ほぼ間違いない”レベルでの“助言”としてご使用下されば幸いです」と語っている。

まんだらけのホームページより

 まんだらけは、少しでも真贋が疑わしい場合は、本物と鑑定することは決してない。数十万円もする高額な商品の場合、事前に鑑定を経れば偽物を買わずに済む。コレクターにとってはかなり有難い存在といえる。ネットオークションで色紙を落札する際、活用する人は増えそうである。

ネットは贋作の温床になっている

 今回、まんだらけがこうしたサービスを開始した背景には、同社に持ち込まれる原画や色紙にとにかく“贋作”が多いことが背景にあった。近年、高名な日本の漫画家やアニメーターの直筆物が軒並み高騰している。手塚治虫、高橋留美子、鳥山明、宮崎駿の原画や色紙は、世界的な日本アニメの人気の高まりから世界中のコレクターから注目されており、数百万円での落札はザラで、なかには1000万円超で落札されることも珍しくない。

 いわゆる日本画や洋画の贋作を作る際には、岩絵具や油絵具といった本格的な画材が必要となる。ところが、漫画家の色紙であれば、最低限、色紙本体とマジックがあれば作ることができる。それゆえに贋作が増え続けており、精巧さも年々上がっているという。漫画家やアニメーターといったプロが贋作作りに手を染めているとも噂され、素人には見分けがつかないものも少なくない。

 そして、贋作の蔓延が著しいのがインターネットである。ネットオークションやフリマサイトで購入した品物を、まんだらけに持ち込む人は増え続けているという。しかし、その多くが贋作なのだそうだ。現状、漫画家の色紙や原画を鑑定してくれる公的な組織は存在しない。それゆえ、サイトの運営側も長きにわたって事実上の放置状態であり、犯罪の温床と言っていい状況になっている。

 さらに言えば、大手の美術系のオークションでも、漫画家の直筆物には贋作が多い。漫画家の原画や色紙の高騰を受け、これまで漫画やアニメに関心を向けてこなかったオークション企業も取り扱いをはじめているが、まったくノウハウがないためか、極めて稚拙な贋作が出品されている。あるオークション企業の図録を見たところ、有名漫画家のサインのほとんどが一目でわかるレベルの贋作であった。

膨大なデータが武器になる

 こうした事態を重く見たまんだらけが、長年のノウハウを広くコレクターのために解放しようというのが今回の簡易鑑定である。同社は、数十万点に及ぶ漫画家の膨大なサインのデータベースを有し、漫画家本人が書いた「あ・い・う・え・お」などの筆跡までピックアップしてデータ化しているという。

 さらには、近年は複製原画などを、一点物の“原画”と言って売ろうとする悪質な出品者も多い。しかし、まんだらけはこうした複製原画も取り扱ってきた経験から、複製か直筆かどうかの判定もできる。他社にはできない高度な鑑定が実現できるのは、こうしたデータを駆使できること、そして専任の鑑定士が育っていることが強みといえる。

 同社は、ヴィンテージ古書のパイオニアであるとともに、早くから漫画家の原画やサイン色紙を取り扱ってきた。2ヶ月に一度発行される図録『まんだらけZENBU』では、これまでも手塚治虫から宮崎駿をはじめとして、数多くの貴重な原画を販売してきた。原画という一点物を取り扱い、値付けをしてきたため、大きな騒動に発展したこともある。

 しかし、そのなかから手塚治虫が親友とやり取りした交換日記「昆虫手帳」をはじめ、水木しげるの直筆紙芝居「人鯨」など、日本漫画史に残る歴史的な名品が発見された。そのため、同社には色紙や原画に関する膨大なデータベースが蓄積されており、世界各国のコレクターや、さらには美術館・博物館も信頼を寄せている。

真贋鑑定のビジネスが広がる兆しも

 こうした真贋鑑定は、大きなビジネスとして発展する可能性がある。というのも、あるフリマサイトはルイ・ヴィトンやエルメス、ロレックスなどの高級ブランド品の鑑定を行うサービスを行っているのだ。また、ポケモンカードや遊戯王カードなどのカードゲームに関しても、購入後に鑑定機関で鑑定してもらえる有料サービスをはじめたサイトまである。

 ポケモンカードも一時期はあまりに偽物が増えたことから、あるカードショップでは買い取りを停止したこともある。昨今、ポケモンカードの投機熱が冷めているといわれるが、精巧な偽物が蔓延しすぎたため、コレクターや投資家も迂闊に手を出せなくなったことも一つの要因といわれる。

 偽物が多すぎるネットオークションやフリマサイトと差別化を図ろうという企業も増えている。まんだらけは自社でオークションを主催し、貴重かつ高額な原画や色紙、ソフビ人形などには自社の保証書をつけている。万が一、偽物とわかった際には無期限で全額払い戻しに応じるというかなり手厚い保証である。

 金貨などのアンティークコインも、コレクターはもちろん投資家から人気が高いが、近年は3Dプリンターなどを駆使した偽物が増加している。そうしたなかで、鑑定に自信を見せるのが老舗のコイン商である。自社の鑑定書を発行する例もあるし、フリマサイトや個人間売買では得難い安心をウリにして、コレクターから支持される店も多い。

 ネットオークションやフリマサイトによって、中古商品の売買は極めて身近になった。これにより、リサイクルショップや古本屋が苦境に陥った例もあると聞くが、その一方で、より専門性の高い品物に関しては、実店舗をもち、高い鑑定眼をもつ企業の需要が一層高まっていくと考えられる。

ライター・宮原多可志

デイリー新潮編集部