来年に古希を迎える世良公則、これまでとこれからを語る「いまはありのままの自分を受け入れられるようになった」
「声も若い頃より出ているし、ギターも効率よく弾けるようになった。いまがいちばん楽しい」と世良公則(68才)は語る──。ロックが“不良の音楽”というレッテルを貼られた時代を経て、デビュー45周年を迎えた2022年には、同時代を共に戦い抜けてきた仲間たちと、それまでの音楽活動の集大成ともいえる企画に参加。コロナ禍で落ち込んだ世の中に明るさと活力を与えた。来年、古希を迎える世良公則が、これまでとこれからについて語った、180分のロングインタビュー。【前後編の前編。後編を読む】
【写真】若かりし頃の世良公則。スタンドマイクを使った独特の歌唱スタイルほか
ロックのかっこよさを知ってもらいたくて……
世良公則といえば、ハスキーボイスでのシャウトに加え、スタンドマイクを振り回して歌う野性味あふれるパフォーマンスが印象的だが、世良と同じ年齢の記者にとっては、“怖い”イメージがあった。なんせ、約50年前のロックミュージックというと、あまり行儀のいい印象を持たれていなかったことを覚えていたからだ。
ところが──。
「今日はお世話になります」
とやってきた世良は穏やかで礼儀正しい。体躯は締まり、特に二の腕の筋肉はしっかりと張っている。ギター演奏を続けてきた賜物か、来年が古希とは思えない。正直、かっこいい……。
「ジムに通うとか、特別な運動はしていないんですよ。以前は、周りから求められる男らしいイメージを演じてきた部分があって、それこそジム通いもしていましたが、いまはありのままの自分を受け入れられるようになって……。それが演奏やパフォーマンスにも表れるようになったんじゃないかな」
と笑顔で答えてくれる。真摯な受け答えには真面目さも感じる。
ソロアーティストに転向して43年経つが、いまも毎週末、アコースティックギターを中心としたライブを全国で行っているという。
「ぼくのライブには、若い男の子も来てくれるんです。昔からのファンが、お孫さんを連れてきてくれたりしてね。ぼくは世の中を変えるのはティーンエージャーだと思っている。若者に支持されないカルチャーはつぶれていきますよ。だから、ぼくらのロックを見た子供たちが、かっこいいと憧れ、受け継いで活躍してもらいたい……そのための種まきをしたくてアーティストとしてやってきたので、ライブで若い人を見かけるとうれしくなりますね」(世良・以下同)
と、頬をゆるませる。
モテたいから、売れたいから……そういう思いでデビューしたと公言するアーティストも多い。しかし世良は大学卒業後、「ロックのかっこよさを多くの人に知ってもらいたい」「ロックを子供たちの憧れにしたい」という熱意と使命感を持ち、音楽業界に“就職する”覚悟でデビューしたという。その目標が実現したのだ。
「ロックこそメジャーでやらなきゃいけない」
一方、世良のライブに来る若者たちのなかには、世良が参加したあるバンドの楽曲を聴いて興味を持ったという人も少なくないという。それが、2022年、「サザンオールスターズ」の桑田佳祐(68才)の発案で企画された「時代遅れのRock’n’Roll Band」だ。
この企画は、コロナ禍やウクライナ侵攻などで元気をなくした世の中に向け、前向きなメッセージを発信できないかと、桑田が同学年で親友の世良に相談し、さらに、佐野元春(68才)、Char(69才)、野口五郎(68)らを誘って実現した。
5月23日にチャリティー配信シングルが発売されると、6月6日付のオリコン週間デジタルシングルランキングにて初登場1位を獲得。この年の『NHK紅白歌合戦』(以下、紅白)に出演し、老若男女の話題をさらった。
このバンドは、発起人である桑田の並々ならぬ情熱と、その熱意に感化された同学年の仲間たちの思い、そして、世良と桑田との40年以上におよぶ友情があったから結成できたといえるだろう。事実、桑田は、
「世良ちゃんがいるからできると思った」
と語っていた。そんな2人の関係性はどのようなものなのだろうか。
「ぼくら『TWIST』は、桑ちゃん(桑田)より半年前にメジャーデビューしたんだけど、当時の日本の音楽業界にはロックバンドがなくて、ぼくらが最初。
なんせギターを持って歩いているだけで警察から職務質問を受けるほど、ロックには偏見がありましたからね。バットを持ち歩く野球少年はヒーローなのに、エレキギターを持ち歩くロック少年は不良だと思われていた」
黒人音楽などを起源とするロックミュージックの歌詞には、反体制やセクシュアルな意味を持つものも多く、衝撃的なパフォーマンスと相まって、世間からは好意的に見られていなかったのだ。
「そういう状況下でしたから、先輩のロックミュージシャンたちは、メジャーからは距離を置き、アンダーグラウンドで活動していました。実力のあるかたが多かったんですけど。でもぼくは中学生の頃から洋楽も邦楽も平等に親しんできた。かっこいいものはかっこいいんだと伝えたいし、ロックだからとカテゴライズせず、ほかのさまざまな音楽と同様に、当たり前に親しんでもらいたい。学生時代からそう思ってきました。
だから、ロックこそメジャーでやらなきゃいけないと思ったんです。桑ちゃんも同じ時代を生きてきて、そういう思いがあったんじゃないかな」
桑田と世良の交流はデビュー当時からあったという。
「『TWIST』と『サザンオールスターズ』は対立しているように見られていましたが、それは業界の“大人たち”がやらせていただけで、むしろぼくたちには仲間感覚があった。
桑ちゃんはぼくのことを“しばらく会っていないきょうだい”と言ってくれていて、ぼくは“戦友”だと思ってきましたね」
(後編へ続く)
【プロフィール】
世良公則/1955年、広島県生まれ。1977年、ロックバンド「世良公則&TWIST(ツイスト)」でデビュー。『あんたのバラード』や『燃えろいい女』など数々のヒット曲を生み、日本のロックミュージックを牽引。1981年の解散後はソロに。俳優としても活躍し、NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(2021年)などに出演。2022年には、「サザンオールスターズ」の桑田佳祐に誘われ『時代遅れのRock’n’Roll Band』のレコーディングに参加。同曲で『第73回NHK紅白歌合戦』に出場。
【今後のイチオシ!ライブ情報】
■『YEBISU GARDEN PLACE 30TH ANNIVERSARY WEEK SPECIAL PRESENTATION! EBISU JAM 2024〜世良公則 KNOCKKNOCK with神本宗幸 「TWIST and shout」』
「TWIST」のオリジナルメンバーで盟友の神本宗幸を迎え、「TWIST」のオリジナル&カヴァーで構成するアコースティックライブ。ゲストは宇崎竜童。
〔日時〕10月13日(日)17時開演〔場所〕恵比寿ザ・ガーデンホール(東京)※チケット発売中
■『世良公則 x JETROX TOUR 2024』
ゲストにつるの剛士を迎え、盟友・神本宗幸も特別参加。
〔日時〕11月4日(月・祝) 17時開演〔場所〕東京・Zepp Shinjuku※チケット発売中
取材・文/上村久留美
※女性セブン2024年9月26日・10月3日号