じつは「音質がいまひとつ」は、もはや過去…ストリーミングサービスが劇的変化を遂げていた

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類稀なる高音質で、話題になったネットオーディオ。しかし、割高な価格とダウンロードのわずらわしさから一部のマニアにしか支持されませんでしたが、高音質定額制配信サービスの出現で、大きく変わろうとしています。

ベテランと言われるオーディオ愛好家の中にも、CDやレコードなどの「パッケージメディア(パッケージ音源)」によるオーディオなら知識も経験もあるが、ネットワークが重要になった最近のオーディオに関しては、専門用語の意味もわかりにくいと感じている人もいるかと思います。

はじめてネットオーディオに挑戦するオーディオファンや音楽ファンを対象に、機材の選び方、高音質ストリーミングのセッティング、煩わしいネットの設定などなど、聴き放題の“1億曲ライブラリー”を手にするノウハウをご紹介しましょう。

※この記事は、『ネットオーディオのすすめ 高音質定額制配信を楽しもう』の内容を再構成・再編集してお届けします。

音質や機能の制約をどう考えるか

無料または有料で音楽を好きなだけ聴けるストリーミングサービスは、ダウンロード方式の音楽配信とほぼ同時期に欧州でサービスが始まった『Spotify(スポティファイ)』がさきがけで、2010年代半ばから2020年前後にかけて北米や日本など他の地域にも普及が進みました。

その後アップルやアマゾンが相次いで参入したことで、同様なサービスはさらに規模を拡大し、近年は多くの地域でCDなどパッケージメディアの売り上げを上回るまでの成長を遂げています。

『Spotify』は現在も無料サービスの提供を続けていますが、無料の代償として広告を聞かなければならない上に、音質や機能にも制約があるので、良い音で音楽を楽しみたいリスナーには力不足です。

一方、有料プラン(2024年6月時点で月額980円)は、CDには劣るものの無料サー

ビスより良い音質で楽しめるため、その音質で十分と考える人は少なくありません。

約1億曲という充実したライブラリが聴き放題というサービス内容が音楽ファンに与えるインパクトは強く、定額料金についても、音楽をたくさん聴く人ほど割安と感じら

れる仕組みになっています。数の上では無料サービスの利用者の方が多いようですが、熱心な音楽ファンつまりヘビーユーザーは、料金を払っても少しでも良い音で、アルバム全曲再生などの無料サービスでは利用できない機能を求めているのです。

有料のストリーミングサービスの意義

このような配信サービスでは、アーティストに適切な対価が支払われることがサービスの継続に不可欠なので、有料契約のリスナーを増やすことは、サービス提供側にも、もちろんアーティスト側にとっても重要な意味があります。

無料の動画配信サービスの利用者が増え続ける現状のなかで、「音楽は無料ではない」という基本的な認識すら危うくなりつつありますが、音楽ファンやオーディオファンが有料のストリーミングサービスを利用することは音楽産業全体にとってもプラスに働くとみなせるのではないでしょうか。

ちなみに有料のストリーミングサービスは「定額制音楽配信」「サブスクリプション」など複数の呼び名がありますが、ここでは有料かつ定額という側面が伝わりやすい「定額制音楽配信」と呼ぶことにします。

オーディオファンには不満な音質

『Spotify』などのストリーミングサービスはスマートフォンなどモバイル端末で手軽に楽しむ用途に向いているため、当初はポップスファンをターゲットとしてサービスが開始されました。

その後ホームオーディオのリスナーが好むクラシックやジャズの音源も徐々にそろってきましたが、CDに劣る音質はオーディオファンを満足させることができず、検索機能が使いにくいなどの課題もあり、多くのオーディオファンには受け入れられませんでした。

そうした背景を考えると、オーディオファンが望んでいるストリーミングサービスは、一定の料金を支払った上で、高音質とさまざまな機能を享受できるストリーミングサービスという構図が浮かび上がります。じつは、拙著『ネットオーディオのすすめ』では、そんなオーディオファンが、良い音で楽しむためにはどうすればよいのかという視点で、具体的な提案をしていますが、このシリーズ記事でもいくつかご紹介していきたいと思っています。

定額制音楽配信の高音質化

定額制音楽配信の利用者が増え始めた大きな理由として、2019年以降、オーディオファンも満足できるCDと同等またはそれ以上の高音質で配信する高音質配信が利用で

きるようになったことが挙げられます。

国内では『アマゾン ミュージック(Amazon Music)』と『アップル ミュージック(Apple Music)』が相次いでCDと同等のロスレス(音の劣化のない非圧縮音源)、およびCDを上回るハイレゾ(High-Resolution Audio:高解像度音質)での配信に踏み切り、現在はどちらも高音質配信による追加料金は特に設けていません。

また、『アップル ミュージック』はクラシックファン向けの『アップル ミュージック クラシカル(Apple Music Classical)』を開発し、2024年1月以降、日本でも使えるようになりました。こちらも『アップル ミュージック』と同様、高音質音源をそろえています。

固定料金聴き放題高音質という3つの条件が重なることで、定額制音楽配信は多様化した音楽再生スタイルのなかで特別な価値を持つ存在になろうとしています。

従来のストリーミングは使い勝手は良くても音質がいまひとつ、ダウンロード方式の音楽配信は高音質だが購入方法と管理が煩雑という具合に、それぞれ一長一短があり、オーディオファンが全幅の信頼を寄せるサービスにはなりきれていません。

そんな時に登場した高音質音楽配信がオーディオファンの評価を獲得できるのか、これからが正念場です。

『アマゾン ミュージック』と『アップル ミュージック』はライブラリの充実度や音質という点でも音楽ファンやオーディオファンの期待に応える内容に進化しましたが、実は世界に目を向けると、この2つ以外にも、『TIDAL(タイダル)』(ノルウェー)、『Qobuz(コバズ)』(フランス)などの定額制音楽配信サービスが音の良い配信サービスとして定着しており、音にこだわる音楽ファンやオーディオファンの支持を集めています。

いずれも日本国内では利用できず、正式なサービス開始が待たれていましたが、2024年秋以降には『Qobuz』が日本でサービスを開始する予定で、『TIDAL』も日本市場への参入を計画しています(2024年6月時点で具体的な時期は未発表)。これらの定額制音楽配信の本命とされるサービスについては、『ネットオーディオのすすめ』で詳しくご説明したので、せひご一読いただきたいと思います。

このように、パッケージメディアによるオーディオから、ネットワークオーディオの誕生と、オーディオファンが望んでいるストリーミングサービスへの進化を概観してみました。続いては、ネットワークオーディオの「高音質音楽配信」の楽しみ方について、ご紹介していきましょう。

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次回は、近頃よく耳にするハイレゾについて取り上げます。なんとなく音質が良さそう、というイメージはありますが、その高音質の理由について解説します。

ネットオーディオのすすめ 高音質定額制配信を楽しもう

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