歌舞伎町から少年・少女が排除されていく…歌舞伎町タワーで見えた「街から消えた寛容さ」

写真拡大 (全9枚)

2023年4月に開業した「東急歌舞伎町タワー」。地上225m、地上48階という複合商業施設で、ライブハウスのZeep TOKYOやゲームセンター・namco TOKYO、映画館の109シネマズプレミアム新宿などが入居する。さらに高層階には2つのホテルがテナントとして入り、インバウンド向け施設という側面もある。

そんな東急歌舞伎町タワー、巷の噂によると、「あまり人がいない」らしい。今年の3月には、はじめてテナントの一つが撤退し、それに合わせてフリーライターの白紙緑が現地を訪れたレポを書いている。

では、実際、現地ではどのようなことが起こっているのか。今回は東急歌舞伎町タワー、および歌舞伎町を訪れながら感じた「ある疑念」についてレポートする。

ギラギラした屋台がお出迎え

東急歌舞伎町タワーは、メディアを度々騒がせる「トー横広場」の真横に立っている。元々は、TOKYU MILANO(元ミラノ座)やVR ZONE SHINJUKUがあったところで、最初に誕生したときは、歌舞伎町のど真ん中に、こんなにでかでかとしたものができるのか、と驚いた覚えがある。

平日の午後だからだろうか、人が多い感じはしない。しかも、その周囲にいるのは、ほとんど外国人だ。

エレベーターを上がって中に入る。まず目に付くのは、まるで台湾の屋台かのようにキラキラとした装飾が施してあるエリア。

これは、「新宿カブキhall〜歌舞伎横丁」という飲食街で、かつての飲み屋街をテーマパーク的に再現した「ネオ横丁」というやつだ。

江戸前寿司はもちろん、佐野ラーメンや、十勝豚丼、浜松ぎょうざ、高知の鰹のタタキなど、日本のありとあらゆるローカルフードが提供されている。インバウンド向けにこうしたメニューを揃えているのだろう。

施設内では、とにかくインバウンドが強く意識されている。

そこらじゅうにネオンのようなものがチカチカと光り輝いているのも、ある種の「ネオ・トーキョー」的な演出だろうか。

その近くには、日本らしさをこれでもかと押し出した土産物の屋台が出されている。よく、日本の観光地で「これ、誰が買うの?」という日本土産を見ることがあるが、このビルは、全体として「誇張された日本」が押し出されている印象。

この施設が「日本」を押し出しているのは、例えば、3階にあるゲームセンターの名前が「namco TOKYO」で、地下にあるライブハウスが「Zeep TOKYO」と、施設の名前の多くに「Shinjuku」ではなく「Tokyo」と冠されていることからも伺える。

課金しないと楽しめない施設ばかり

さて、ここからさらにエスカレーターを使って上の階へ上がっていく。エスカレーターからは、新宿の風景が見渡せる。

このとき気がついたのは、「このビル、無課金勢に冷たい……」ということだ。いや、もちろんここは商業施設なのでお金を払わないと楽しめないことぐらい、百も千も承知なのだが、それにしたってあまりにも無課金勢につらくあたってくるのである。

4階以降で、自由に出入りできるところは、エレベーター部分とその踊り場ぐらいで、あとは基本的に何らかのチケットや入場料を払わないと出入りができない。

109シネマズのフロアで入ることができるのは、細長いスーベニア・ショップぐらい。しかし、料金を払って中に入れば、そこはかなり豪華な空間が広がっている。ちなみにここ、「圧倒の没入体験へ誘う、洗練された空間」をコンセプトにしている通り、他の109シネマズよりもプレミアムでラグジュアリーな空間設計になっている。

それだけに、チケットはまあまあ高い。通常席のClassAは4500円で、少しグレードの高いClassSは6500円。課金するにしても、なかなかのものだ。

また、ホテルの除く最上階である17階に上がると、レストラン・バーである「JAM17 DINING & BAR」が広がっている。

ここはエスカレーターを上がったところに、かろうじて動けるスペースがあり、展望台に出ることも可能。お、無課金勢に優しい空間か?、と思う一方、もちろんレストランやバーに入らないと見えない景色もある。

私はひとまず、無料で景色を楽しむことのできる展望台に行ってみた。

そこからは、新宿より西側の風景を一望することができる。これだけでも十分きれいだ。しかし、見えている景色をもとに推測すると……課金勢は、東京都心の景色が見えるようになっているのだ。ビルの方向がそうなっている。いや、考えてみりゃ当然のことなのだが、なんというか一抹の寂しさを覚えてしまった。

そして、言うまでもないが、高層階のホテルともなれば、そりゃ宿泊者しか中に入ることができないから、無課金勢には高層階からの眺望を見ることはできない。

「世知辛え…」と思いながら、エスカレーターでトボトボと降りたのだった。

このとき気づいたのだが、こうした「無課金勢に厳しい」ことが、「施設内に人がいない」ように感じさせる原因なのではないか?

というのも、そもそもお金を払わない人は、その建物のほとんどの部分に「入れない」。だから、そこが混んでいるかどうかさえわからないのだ。「無課金勢」はその建物の様子さえ、もはや見ることができないのである。

歌舞伎町タワーで感じた「排他性の高さ」

良いか悪いかは別にして、東急歌舞伎町タワーで強く感じたのは「排他性の高さ」である(ちなみに、英語で「高級な」を表す「exclusive」は同時に「排他的な」を意味する言葉でもある)。端的に言えば、「入りたければ金を使え」という念を感じる。

施設全体として「インバウンド観光客」を念頭に置いているのも同様だろう。インバウンドの購買力がすさまじいことを、私たちは重々知っている。まさに「金を使う」代表例だ。

いや、これ自体は否定しない。東急は一企業で、これだけの高層ビルを金銭的に賄うためには、お金を落としてくれる人々を歓待するのは方向性として間違っていない。

ただ、東急としてはむしろ客層の「狙いを定めていない」らしい。

ITメディアオンラインの記事にて、東急歌舞伎町タワーを運営するTSTエンタテイメントの木村知郎社長は「あえて属性などでターゲットを設定していない」と言い切り、「歌舞伎町はそもそもさまざまな方がいらっしゃる街です。そのため属性で区切るのは難しい。そこで『好きを極める』というコンセプトが生まれた」と言う。

そうして登場するのが、近年の再開発でよく登場する例の言葉「多様性」である。ホームページを見ると至る所に「多様性」という言葉が転がっている(東急歌舞伎町タワーで多様性といえば……)。

しかし、訪れれば一目瞭然でわかるように、そこに本当の意味でさまざまな人がいるかというと、疑問符が生じる。いかんせん、そこは「exclusive」だ。

少なくとも、ビルの前のトー横広場にたむろしていた「トー横キッズ」たちは、その「多様性」には含まれていないようである。

歌舞伎町の「寛容さ」が失われている?

私は、東急歌舞伎町タワーを否定的に捉えたいのではない。

むしろ企業の選択としては当然の成り行きで、「金がないと楽しめない」のは当然のこと。きっとヤフコメでも「金を払って中に入るのは当然。治安を見出すトー横キッズなんて、企業からしたら邪魔でしかない」といったコメントが何十件も付くことは目に見えている。

しかし、ここで考えて欲しいのは(そうしたヤフコメが当然付いてしまうことも含めて)歌舞伎町の街全体としての「寛容さ」が失われてしまっているのではないか、というぼんやりとした疑念だ。

東急歌舞伎町タワーは、トー横広場のすぐ横にあるが、この広場は2023年に封鎖された。行政は「フォトスポット設置」と言うが、「実質的な締め出しなのでは?」という声も多い。私がそこを訪れた2024年9月の段階でも、トー横のほとんどは封鎖されていて、歌舞伎町のど真ん中に、不思議な空白地帯だけが空いている状態だった。

さまざまな事情から歌舞伎町に来ざるを得なかったトー横キッズは、たまたま空白になっていたこの場所にたむろすることで、一時的には「居場所」を見つけていたはずだ。しかし、結局、行政の対応が十分なわけでもないまま、街全体が「清潔に」されていき、どんどん浄化されていく。

もちろん、これは東急歌舞伎町タワーだけに限らない話だが、なんとなく、街全体として、ある種の異質なものを包含する包容力を欠いているといえるのではないか。もっといえば、そこはすべての人にとっての「居場所」がある街なのか。

歌舞伎町は適度な寛容さを取り戻せるのか

しかも厄介なのは、トー横を封鎖したからといって、彼らがいなくなるわけではないことだ。私が現地を訪れたときも、封鎖されたエリアのすぐ横で若い人がワイワイやっていた。

9月には、トー横広場近くの青少年保護施設で、利用者の女性を触るなどの迷惑行為で男2人が逮捕されたが、この一連の報道の中で、保護施設には多くて50人以上の人々が集まっていたことが明らかになった。

すべてがトー横キッズだとは言い切れないが、それでもその少なくない数がトー横キッズだと目されている。結局、見かけだけを排除しても、彼らが消えるわけでないのだ。

歌舞伎町でホストの教育に力を注ぐ手塚マキは、この街を「寛容で猥雑な街」と表現している(『新宿・歌舞伎町 人はなぜ< 夜の街 >を求めるのか』)。この適度な寛容さがこの街の文化を作ってきた側面が、確かにある。

いま、歌舞伎町は、「寛容」な街なのだろうか。

渋谷は観光客が多すぎて疲れる…「再開発ビル」がつまらない“納得の理由”と「東急」が打ち出した意外な展開