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aikoが、16枚目となるニューアルバム『残心残暑』をリリースした。8月30日には6年ぶりの野外フリーライブ「Love Like Aloha vol.7」を開催。10月3日から東京・Zepp Hanedaを皮切りにaiko Live Tour「Love Like Rock vol.10」の開催も決定しているaiko。「残心残暑」は、前作アルバムから約1年半ぶりとなるニューアルバム。 この春、劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』の主題歌「相思相愛」や、2023年11月にリリースされたシングル 「星の降る日に」、TVアニメ『君は放課後インソムニア』主題歌の「いつ逢えたら」など、シングル表題曲を含む全13曲を収録。初回限定仕様盤には、2024年に開催されたアリーナツアー「Love Like Pop vol.24」から、 ツアーのセミファイナルとなった2月17日の横浜アリーナ公演の模様を収録。インタビューでは、「昔とは違った楽しみ方ができるようになったのかもしれない」と語るニューアルバム『残心残暑』の制作背景に迫った。(取材=もりひでゆき)

レコーディングに対して、昔とは違った楽しみ方ができるようになったのかも

――今回のアルバム制作のスケジュールはかなりタイトだったそうですね。 はい。でもとっても楽しかったです!

後半になると1日で3曲歌入れをするのも普通になってきて。昔はけっこうそれくらいのペースでレコーディングをしていたので、インディーズ時代に町田のダッチママ(音楽スタジオ)でやってた頃を思い出して、ちょっと懐かしい気持ちにもなりました。当時の感覚を25、6年経った今、また味わえているのは幸せなことやなって思いながらスタジオに通ってました。

――キャリアを重ねた分、詰まったスケジュールでも楽しめる余裕が出たのかもしれないですね。 そうかもしれないです。昔はわからないことも多かったけど、わからないなりに一生懸命、レコーディングに向き合っていたと思うんです。それが気づいたら全部自分の血肉になっていた感じです。今回はやればやるほどに「こうしてみたい」「ああしてみたい」という感情がどんどん溢れてきて。一度ミックスしたものを、もう一度やり直してみたこともありました。同じ音を聴くにしても、耳の傾け方で聴こえ方が全然変わってくるので、どこに重きを置いて聴くのかとか、そういうことをじっくりやれるようになりました。レコーディングに対して、昔とは違った楽しみ方ができるようになったのかもしれないです。エンジニアさんは繊細な音の調整作業を1日に何曲もするのでとても大変だったと思うんですけど、私は楽しかったし、とても貴重な経験をさせていただきました。

――アルバムには「いつ逢えたら」「星の降る日に」「相思相愛」という既発曲に加え、10編の新曲が収録されています。 新曲に関しては、今までに書き溜めていたデモのストックの中から、「いつかアルバムに入れたいな」と思っていたものを1曲ずつ形にしていきました。で、制作の後半ではなんとなく全体のバランスを見ながら、「こんな曲もあったらいいかな」と新たに曲を作るために想いを膨らませたりもするんですけど、そう簡単に思うような曲はできなくて(笑)。でも、今回はパソコンで何かを見ているときにふと目に入ってきた“ブルー”という言葉をきっかけに、ミディアムバラードの曲ができたんです。それが1曲目に入っている「blue」なんですよね。

――今年の6月頭くらいに「『blue』っていう曲ができて」というお話をチラッとしてくださったことがあったのをすごく覚えています。 あー確かに!

この曲ができたのはそれくらいの時期でしたね。それを8月末リリースのアルバムに入れることができて。しかも1曲目になったなんて、嬉しすぎる(笑)!

――その他の曲が生まれた時期はけっこうバラバラな感じですか?

基本的にはここ1、2年で作った曲が多いです。一番古い曲は「ガラクタ」で、5、6年前だったと思います。アルバムを作るときにはいつも入れたいと思っていたので、やっとそれが実現できてほんまに嬉しいです。

――アルバムを聴かせていただくと、キャリアの中で磨かれてきた揺るぎなきaikoさんらしさとともに、今までにない新たな表情もたっぷり詰め込まれている印象を受けました。

ほんとですか?

新たな表情見えてましたか?

そういうのって自分じゃわからないから、もっと言って欲しいです(笑)。

――そっか。狙ってトライをしているわけではないってことですね。

そうですね。たぶん意識してやると、めっちゃ“しらこい”んです。やればやるほどしらこくなっていくから(笑)。

――わざとらしくなってしまうと。

そうですね。だから常に「初めて」という気持ちでレコーディングに挑んで、自分なりの“間”を一生懸命、大事に保ちながら楽しくレコーディングをするだけなんですよね。ただ、曲ごとに自分のイメージしているボーカルに近づけて歌おうという意識は、今までの中では一番していたので、もしかすると、それが新しい表情に繋がったのかもしれないです。例えばロングトーンを短くしてみたりとか、いつもだったらあと1小節くらい歌うところを、あえて1拍で終わっちゃうとか。そういうふうに表情を変えるようにしたところはあったと思います。

――「相思相愛」でもそういった部分を意識したとおっしゃってましたよね。

そうですね。ロングトーンで叙情的な感情を出しすぎると、逆に聴き手として素に返ってしまうところがあって。だから、あえて短くすることで切なさをより表現すると言うか。別れるための理由をぶわーっと言うよりも、一言「別れよう」って告げたほうが、相手はめっちゃ考えるじゃないですか。ちょっと喩えが変ですが(笑)、そういう感じだと思います。

大変って楽しい

――1曲目の「blue」はアルバムの幕開けとしてすごくインパクトがあって、一瞬で本作の世界へと引き込まれます。冒頭に“湿った夏の匂いがするな”というフレーズが出てくるところも、ファンならちょっとニヤッとするポイントで。

ありがとうございます!

“湿った夏”という表現はずっと自分の中にあるものなんですよね。以前、「湿った夏の始まり」というアルバムを出したこともあるし、今回は残暑にリリースするアルバムなので、このフレーズがいいなと思って。

――この曲をはじめ、今回はホーンをたっぷり盛り込んだ曲がすごく多いですよね。

そうですね。ホーンセクショニーなアルバムになりました(笑)。それもあって10月からやるツアーにも急遽、ホーンセクションの方々に参加していただくことにしました。「blue」のトランペットも、めっちゃかっこいいんです。金曜ロードショーのオープニングか「blue」か、くらいな感じで(笑)。

――ボーカル面で言うと、4曲目の「好きにさせて」がすごくよかったです。ところどころスタッカート気味に歌われていたり、ちょっとレイドバックしているところがあったり、いろんな表情が見えるのがすごく楽しくて。

嬉しいです!

レコーディングで最後に歌ったのが「好きにさせて」でした。曲を作ったときの感情のまま、歌入れもとにかく楽しかったです。結果、今までで一番テイクが少ない曲になって。私としてはもっと歌うつもりでいたんですが、「良いテイクが録れたからもう大丈夫です」って言ってもらえました。2サビ後のBメロで声がわーっと上がっていくところなんかは、リズム録りしているときにテンションが上がってフェイクをしたら、それがいい感じにハマって、それも気持ち良くて好きです。

――「鮮やかな街」ではボコーダーを使ったボーカルが、aikoさんの楽曲としては斬新ですよね。ラストに用意されている“もう忘れてしまってもいいの”のフレーズにはドキッとさせられました。

あの終わり方は私も大好きです。ちょっと消え入りそうな声になっていく“いいの”のところだけボコーダーを外して、最後はブレスで終わる方がドキッとして良いかなと思ってやってみたらとても好きな感じに仕上がりました。

――言ったらすべてがベストなんですけど、個人的には「ガラクタ」推しで。この曲のちょっとシリアスでトーンを落としたボーカルがめちゃくちゃ好きです。

アルバムの中で唯一、一度レコーディングした後にもう一回歌い直させてもらったのがこの曲なんですよね。完成したものよりももっと暗いトーンで最初は歌っていたんです。でも自分で聴いたときに「これじゃないかも」と思い、お願いして再レコーディングさせてもらいました。低い声だけでなく、ファルセットもあるし、ベルトを使うところもあるので、すごく歌うのが難しい曲です。

――10月からはライブハウスツアー「Love Like Rock vol.10」がスタートします。アルバム「残心残暑」の曲たちを生で聴けるのが本当に楽しみです。

ね。アルバムの曲はどれも歌うのが楽しみです。どれも歌うのが難しくて大変ではあるんですけど、でも大変って楽しいってことなので。

――aikoさんの中では“大変=楽しい”なんですね。

そうですね。行ったことはないけど、ラーメン二郎みたいな感じなんですかね。あのモリモリなラーメンに挑むような感覚というか。食べてる最中に幸福感を味わいつつ、食べ終わった後には「もう当分いいかな」と思うんやけど、次の日にまたすぐ食べたくなるって噂をよく聞くので。そういうことなんだと思います。喩えがもうアレやけど(笑)。

――クセになって食べ続けることで、軽々食べられるようにもなるでしょうしね。

普通盛りくらいやったら、きっと余裕になってきますよね(笑)。そうなってきたら楽しさが勝ってくるし、ちょっと日が空くとより美味しく感じられて。そんな感じでツアーを頑張ろうと思います(笑)。(おわり)