硫黄島の戦いや、沖縄本島の戦いが示すとおり(C)日刊ゲンダイ

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【防衛予算8.5兆円 概算要求は本当に必要か】(下)

【シリーズ初回】防衛費増額の根拠「台湾有事」は雲散霧消している

 日本の防衛に戦車や自走砲は必要だろうか。

 必須ではない。島国であり敵国と陸上国境で接していないからである。

 仮想敵国・中国との対立には役立たない。必要なのは軍艦と航空機だ。

 南西諸島の防衛にも向かない。重いうえ、狭い土地では活用も難しい。

 これは硫黄島の戦いや、それこそ沖縄本島の戦いが示すとおりである。戦車よりも陣地の充実が優先する。必要な大砲も、人力で運べる迫撃砲や洞窟に隠せる小さい牽引砲である。30トンの自走砲はいらない。

■役に立つのは本土決戦だけ

 役に立つのは本土決戦だけだ。それも内陸部での決戦に限定してよい。今となっては備える必要もない状況である。

 しかし、防衛省は大量調達を決定した。冷戦終結から不要不急としてきた戦車と自走砲の調達を再開する。来年度分として10式戦車と16式戦車と19式軽自走砲、別に歩兵戦闘車2種を加えて合計1200億円分を要求している。

 なぜ、使う見込みもない兵器を買うのか。

 それは陸自の都合に迎合したためだ。

 そのひとつは演習で必要だからである。エリート陸上自衛官の登竜門となる指揮幕僚課程は敵陸軍との内陸決戦のお稽古ばかりである。また陸自の演習も敵上陸軍との内陸決戦の繰り返しだ。しかも、成績や出世はその影響を受ける。だから、演習で役立つ最新の戦車や自走砲を本気で欲しがるのである。

 もうひとつは組織防衛に必要だからである。陸自は病的にリストラを嫌う。今の戦車部隊と砲兵部隊をそのまま維持したい。部隊数、隊員数、指揮官以下のポストを減らしたくない。その理由からも戦車と自走砲の数を維持しようとしている。

 どちらも一蹴すべき内容である。だから、戦車と自走砲の購入は抑制してきた。あの安倍政権ですら不必要として購入数は最低限とした。

 それが防衛費増額で実現することになった。

 予算消化に窮したためだ。考えなしに従来の2倍としたため防衛費は使い切れなくなった。それに困った防衛省は陸自の大量購入を許したのだ。

 ただ、使い道がないことには変わりはない。

 しかも、将来の整理も間違いない。日本の人口は半分まで減る。今の自衛隊定員24万人は維持できない。多くても12万人である。その際に減らすのは陸自であり、なかでも戦車部隊と砲兵部隊となる。

 いずれは廃止する兵器をわざわざ買う無駄遣いなのである。

(文谷数重/元3等海佐・軍事研究家)