2年前の事件について「どうしてあんなことになったのか」と隆造さんは振り返る

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【前後編の前編/後編を読む】不倫3年で彼女がストーカー化、謎の「箱」が自宅に…家庭に“致命傷”を負わせたその中身

 新聞社勤務の33歳の女性記者が、他の新聞社勤務の既婚男性にストーカー行為をしたとして逮捕された。ふたりは数年つきあっていたらしい。「不倫」なのだ。女性は昨年以降、たびたび電子決済のチャット機能でメッセージを送るストーカー行為に及んでおり、警察は何度か口頭で注意をしていた。

 今回は9日間に64回のメッセージを送ったことで逮捕ということになった。だが女性は、「嫌ならブロックして」と伝えていたが、ブロックされなかったのだから、逮捕は納得いかないと話しているそうだ。

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 腑に落ちない話だと最初から思っていた。男性が彼女を嫌っているなら、確かにブロックすればいい。連絡してこないでほしいと言って、被害届を出すこともできた。だが彼はしなかった。できない理由があったのだろうか。彼女が「会いたい」「一緒に背負って」「死にたい」などという内容のメッセージを送っていたとの話もある。それ以上の真偽はわからないが、内容から推察すると、もしかしたら妊娠していたのかも……と考えてしまった。

2年前の事件について「どうしてあんなことになったのか」と隆造さんは振り返る

「そのニュース、正直言って、オレのことかと思いました」

 伊沢隆造さん(49歳・仮名=以下同)は伏し目がちになって、小声でそう言った。いまだ心が疼くことがあると、彼は自らの経験を語ってくれた。それがもとで家族とは同居していながら心が行き交わなくなったという。

「つきあっていた彼女と揉め、警察沙汰になったのは、2年ほど前でした。どうしてあんなことになったのか、本当に避けられない事態だったのかと反芻することがあります」

出会って「理想の女性だ」と…

 隆造さんは29歳で結婚し、当時、高校生と中学生の男の子がいた。結婚して15年が経過したころ知り合ったのが当時37歳の奈美絵さんだ。

「家庭はそれなりにうまくいっていました。妻はパートで仕事をしながら、しっかり家を守ってくれた。子どもたちも元気に育っていましたしね。あのままだったら、何ごともなく、適度に出世して、今は定年までがんばろうと思っていたかもしれません。だけど出会ってしまったんです、奈美絵に」

 彼女は隆造さんの取り引き先の会社で、ある取締役の秘書として働いていた。出会った瞬間、彼は彼女に魅せられた。自分のイメージの中にある理想の女性だと感じたそうだ。

「いや、でもあとから気づいたんです。僕のイメージの中に理想の女性なんていなかった。彼女を一目見たとき、彼女が理想の女性になったんです。顔立ちが整っているとかそういうことではなく、彼女の一挙手一投足が僕に訴えかけてくるものがあるような、そんな感じ。目が合ったとき、彼女、じっと僕を見たんですよ。近視でよく見えなかったというのが真相なんですが、その目の中に取り込まれるような気がしました」

 恋とはそうしたものなのだろう。一目惚れは実際にあるのだ。その瞬間、円満にやってきた妻のことも、大事な息子たちのことも、隆造さんの脳裏にはよぎらなかった。それが「恋」の怖いところだ。

奈美絵さんは「ダメ男」と付き合っていた

 さりげなく食事に誘った。口説いたりはしなかった。当時、彼女は「ダメ男」とつきあっていたが、彼の悪口も言わなかった。自分が彼女に会いたいだけだった。彼女を救いたいとか助けになりたいとか、そんなことはまったく考えなかったという。

「どうしていつも食事に誘ってくれるのと聞かれましたが、『僕がきみと一緒にいたいから』と答えていました。本当にそうだったんですよ。家庭のある身で、彼女とどうにかなろうなんて思わなかった。楽しい時間をありがとう。いつもそう言って彼女を送っていきました」

 彼女はひとり暮らしだと言っていたが、たまに彼女の部屋に灯りがついていることがあった。ダメ男は合鍵をもっているのだろう。彼はそう察した。

「月に数回、彼女と食事に行くようになってから8ヶ月くらいたったころでしょうか。タクシーで彼女を送っていったら、部屋に灯りがついていたんです。彼女はいったんタクシーを降りましたが、また乗り込んできて『どこかに連れて行って』と小声で言いました」

 いちばん近くの繁華街へタクシーで乗りつけ、ホテルへ入った。心の弱っている女性に迫るのは嫌だったから、ふたりでビールを飲んで話をした。だが話しているうちに奈美絵さんは、ダメ男への感情を高ぶらせ、「あんな男と関わりたくない」と体を震わせた。

 別れればいい。あいつはしつこく追ってくる。いざとなったら警察に言おう。そうやって話し合っているうちにふたりは自然と抱き合った。抱き合わなければ気持ちがおさまらなかった。

「僕はきみを本気で好きだけど、家庭を捨てるわけにはいかないと伝えました。彼女は『私は結婚したいわけじゃない。充実した日々を送りたいだけ。あなたが好き』と言ってくれた。彼女は大人だし、分別がある。そう信じました」

同じ沿線に引っ越し

 その後、奈美絵さんはダメ男に別れ話を切り出した。彼女の知り合いの弁護士も立ち会った。隆造さんも立ち会いたかったが弁護士に止められた。弁護士はふたりの関係を見抜いていたようだ。弁護士の助言もあって、奈美絵さんはダメ男から逃れるために引っ越した。落ち着いた先は隆造さんの自宅と同じ沿線で、深夜、タクシーに乗っても2000円足らずの場所。彼女の気持ちがこめられた引っ越しだった。

「ダメ男とは10年近く一緒にいたそうです。ダメでもいないと寂しかったのか、ひとりでいられないのかと尋ねると、『これからは大丈夫』と僕を見てニッコリ笑いました。甘えるのが上手で、でも仕事の話になると急に顔が引き締まる。彼女の尽力のおかげなんでしょう、平取だった彼女の上司、常務取締役になったんです。話を聞いていると、彼女は単なる秘書というより上司の仕事に精通、かなり進言もしている。上司も彼女を頼りにしているようでした。アシスタントでありながら、上司の仕事内容をだれよりも把握して研究している。そんな女性だから、他社からのヘッドハンティングもけっこうあったようです」

 それでも奈美絵さんは、「私が新卒で入社して事務職をしていたころ、秘書になってほしいと抜擢してくれたのが今の上司。私は彼を裏切れない」と言っていた。一時期、隆造さんは奈美絵さんと上司との関係を疑ったこともある。だが、「上司と男女の関係だったら、こんなに長く秘書はできなかった」と奈美絵さんは軽く言った。

「そうか、男女の関係以上のつながりなんだと感じました。それが羨ましいような、でも彼女とは男女の関係になってよかったという思いもあって、複雑な気持ちでしたね」

 奈美絵さんとの時間、奈美絵さんへの気持ちを、彼は日常生活の中に取り入れていった。仕事や家庭が重要なのと同じように、奈美絵さんと過ごす時間、彼女との関係も大事にしていきたいと決意を固めた。

妻には全幅の信頼

 隆造さんは妻の智佳子さんと、友だちが主催した飲み会で知り合った。合コンというわけではないと彼は弁明する。

「ごく普通の家庭に育った、ごく普通の女性なんです。バリバリ仕事をすることを望んでいたわけでもない。つきあってほしいと言ったとき、『私は自分の母親と同じように、子どもをもって普通の主婦でありたい。だから結婚につながらない恋愛はしないの』とはっきり言っていたのが印象に残っています。結婚につながるかどうかはまだわからない、きみが僕を夫にふさわしくないと判断することもあるでしょ、でも僕だって恋愛だけじゃなく、一緒に家庭をもてる人を探してたんだと伝えました。智佳子は、言い方は柔らかいけど、かなりしっかりした意志を持っているし、頑固な面もあります。ただ、あまり感情的にならないところが僕は好きなんです」

 長男のときは、かなりの難産だった。だが出産を終えた智佳子さんに、隆造さんが涙を流しながら「おつかれさま。ありがとう」と言ったら、「まったく、なかなか出てこない、のんびりした子ねえ」と言ってのけ、医師や保健師までが笑ってしまったという。覚悟を決めたら潔いのだ。

「家計は妻に任せて僕は小遣いをもらっていました。そのほうが気楽だった。社内預金なんかは天引きしてもらって、ボーナス時は小遣いを多めにしてもらって。僕らの年代では、ごく普通の家庭だったと思うし、妻に任せておけば全部うまくいくとも思ってた。子どもたちが元気に育ったのも、妻が料理に気をつけてくれたからと信じています。そういう意味で、妻には全幅の信頼を置いていました」

まったく疑わない妻

 おそらく、妻も夫を信頼していただろう。だからこそ、たまにつきあいで遅くなろうが、子どもたちが大きくなってからは週末に学生時代の友人に会おうが、智佳子さんは疑いの言葉ひとつかけてこなかった。

「夫婦で寝室にひきあげると、夜中にどちらからともなく話を始めるのが定番でした。たいしたことは話さないけど、妻との会話が僕の安眠剤だったような気がします」

 それなのに40代も半ばになって恋に落ちた。なぜかと問われても返す言葉はないと彼は言った。まさに落ちたのだ、落ちてから気づいたのだ、これが恋だったと。

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【後編】では、奈美絵さんが“ストーカー”化していった過程と、隆造さんに起きた“事件”を紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部