「犠牲」か「献身」か(写真はイメージ)

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「死後離婚」の件数が年々増えているという。申し立てるのは女性側が大半とされ、その背景を探ると、日本社会の“縮図”ともいえる「介護」や「引きこもり」「少子高齢化」といった問題が浮かび上がってきた――。

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 死後離婚とは、配偶者の死後に「姻族関係終了届」を自治体に届け出ることで、義父母らとの親族関係を法的に絶つことができる制度だ。法務省の戸籍統計によると「姻族関係終了」の届け出数は2014年度は2202件だったが、23年度には3159件にまで増加。

 また「届け出るのは大半が女性」(法務省関係者)という特徴があり、その背景について「東京家族ラボ」を主宰する池内ひろ美氏がこう話す。

「犠牲」か「献身」か(写真はイメージ)

「これまで夫婦や家族に関わる数多くの相談に乗ってきましたが、十数年前まで私自身、『死後離婚』という言葉を知りませんでした。それが今からおよそ10年前、初めて“死後離婚を考えている”という女性からの相談を受け、姻族関係終了の手続きの存在を知りました。以降、死後離婚に関する相談は年を追うごとに増え、相談者の中心は40〜60代の女性となっています。正確な統計データはないものの、熟年離婚を申し出る『98〜99%が妻』とされるなか、死後離婚の届け出の大半が女性であることに何ら不思議な点はありません」

 夫に先立たれた妻が、死後に「離婚」を考える理由とは何なのか。

終わりの見えない介護

 池内氏が続ける。

「私が相談を受けたなかで圧倒的に多い理由が『義父母など亡夫側の親族との縁を切りたい』というものです。“嫁に入ったら、夫側の家族を看取るのも妻の務め”といった意識が希薄化していくなか、義父母側は『お墓の管理』や『自分たちの介護』を残された妻が担うのは当然と考える傾向がいまも強い。そのため、夫が亡くなった後に“自分の人生”というものを真剣に考え始めた妻との間で大きな意識のギャップが生まれるのです」

「人生100年時代」を迎え、“これから夫の両親の介護や世話に10年、20年と費やす”ことを想像した時、ひるむ気持ちが芽生えるのは自然な感情という。

「もともと熟年離婚の理由でも上位を占めてきたのが“親戚づきあいの煩わしさや苦痛”でしたが、近年は親戚との交流自体は減った反面、義父母との関係が濃密化するケースも。一方で『施設には入りたくない』と話す高齢者は相変わらず多く、少子高齢化の影響で兄弟も少なくなっているなか、義父母の世話をひとり“残された妻”が背負わされるケースは珍しくありません」(池内氏)

「引きこもり中高年」

 死後離婚の相談のなかでも最近、目立つのが義父母だけでなく、亡夫側の「兄弟」に関するものという。

「なかでも“引きこもりの中高年”と化した兄や弟にまつわる悩みは切実です。義父母に加え、自分とほぼ同年代の未婚の兄弟の世話まで引き受けるのは、よほどの覚悟がないとできないこと。残された人生を“もっと自由に生きたい”と女性側が考えたとして、それを誰が非難できるでしょうか」(池内氏)

 義父母側も苦労を察して、「面倒を見てくれれば、私たちが亡くなった後、この家をあなたにあげるから」と持ち掛けるケースもあるが、「地方の一軒家だと、築年数の古さや立地から、仮に売っても二束三文にしかならない」(同)ことが多く、魅力的な提案と映りづらくなっているという。

 ただし留意しなければならないのは、「孫」の存在の有無で事情が大きく変わってくる点。姻族関係終了届を出しても、義父母にとって「血族」に当たる孫との関係まで法的に絶つことはできないためだ。

「孫」の存在が…

「死後離婚を考えた時、すでに子供(義父母にとっては孫)が成人しているケースであれば、子供自身が義父母との今後の関係を決めればいいので、大きな問題には発展しにくい。しかし孫がまだ10代の場合、基本的に親権者(母親)の意思に委ねられるため、義父母の『孫に会わせろ』という要求を妻側が突っぱねても、子供が『おばあちゃんに会いたい』と言い出し、妻が両者の板挟みに遭って苦しむことも。他にも『死んでから離婚するなんて、お父さんが可哀そう』などと、死後離婚そのものに子供が反対するケースもあります」(池内氏)

 死後離婚は義父母の承諾は必要なく、届け出の事実も先方には通知されないため「使い勝手のいい制度」と評されることも多いが、

「死後離婚を選んだことで子供との関係がギクシャクするようなら、本末転倒になりかねません。また決断すれば、亡夫側の親族から『私たちを捨てた』や『なんて薄情な嫁だ』といった非難の声が死ぬまでやまないことを覚悟する必要があります。そして重要なのは決断に際し、遺産や住居、生計手段の確保といった問題をクリアしておくこと。感情面だけで突っ走るのでなく、義父母や子供とのあるべき関係をよく考えた上で判断することをお勧めします」(池内氏)

 早計は禁物のようだ。

デイリー新潮編集部