誹謗中傷やデマの拡散…SNSの使い方は、現代の社会問題のひとつとなっています。被害者になる可能性はもちろんのこと、気づかないうちに自分自身が加害者になることも。登録者数67万人超えのYouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答」が人気の僧侶・大愚和尚は、禅の考え方を用いながら、人がSNSにのめり込んでしまう理由と、適度な距離の置き方について発信しています。今回は大愚和尚に聞いたSNSとのつき合い方をご紹介します。

妄想は、不安や恐れで心が波打っているときに湧き起こる

無業(むごう)という和尚さま(760〜821年)は、「無業の一生、莫妄想」とおっしゃって、なにを聞かれても、「莫妄想、莫妄想」と返し、自分自身にも「莫妄想」と唱える人だったそうです。

この禅語は、「妄想するなかれ」というシンプルな意味ですが、じつは自分の脳内を自律し、コントロールしていく、非常に合理的で重要な言葉です。

新型コロナウイルス感染症が世界中を震撼させ、SNSが誹謗中傷の道具になるなど、さまざまな問題が起き、漠然とした不安が湧き起こる現代には、とくに不可欠な言葉。

だれもが、自分は妄想とは無縁だと思っているかもしれません。けれども、年頃の親だとして、子どもが夜遅くなっても帰宅しなかったらどうでしょう。たちまち妄想が広がり、いてもたってもいられなくなるのではないでしょうか。

これは罪のない妄想といえますが、妄想は、不安や恐れで心が波打っているときに、どんな人の心にも必ず湧き起こってくるものなのです。そして、人に行動を促します。知らず知らずのうちに、衝動的な行動を起こさせる恐ろしい火種になるのです。

「年収が低すぎる?」という妄想の裏側

妄想が起こる原因は、その人の心の中に巣食う「貪瞋痴(とんじんち)」という三毒です。「貪」は心に自然と湧き起こる欲。「瞋」は怒り。「痴」は怠け心と無智のこと。

この三毒は人々から冷静さを奪います。

妄想を防ぐためには、この「貪瞋痴」から離れ、実体を見ること、真実を見極めることです。しかし、それはそんなに簡単にはいきません。

現代は、ありとあらゆる企業が、私たちの頭の中の情報空間の取り合いをしています。自分たちの商品やサービスでどれだけ私たちの時間を奪うことができるか、躍起になっています。そしてそれらの企業によって仕掛けられた誘導は、「貪瞋痴」の感情を繰り返し刺激して、徐々に人々を妄想の世界へ巻き込んでいくのです。

たとえば、就職斡旋企業なら、「私の年収は低すぎる?」と、すぐにでも転職したくなるように気持ちを煽ります。「こうでなくてはならない」と周りから押しつけられた世界を生真面目に捉え、苦しんでいる人がとても多いのです。

けれども、一瞬立ち止まり、冷静になれば、それは自分の心が勝手に抱いている妄想にすぎないことがわかるはずです。

SNSの世界は真実ではない

FacebookやインスタグラムといったSNSの世界も妄想の源です。かつてお釈迦さまは、優雅な王子の生活を捨て、出家しました。城門の内側ではきらびやかな宴(うたげ)がいつも繰り広げられていましたが、現実と真実を見なくてはいけないと旅に出たのです。

じつはFacebookやインスタグラムで繰り広げられている、ある一瞬を巧みに切り取った世界も、お釈迦さまの城門の中のきらびやかな宴と同じです。きらびやかで美しい面だけを強調し、この世界の真実を伝えてはいません。

そして偽りの世界を見せ合っているSNSで、じつは多くの人が傷ついています。それは、私のもとに心の病にかかる寸前の悩みがたくさん届いていることからもわかります。ブランド品に囲まれて華やかな生活を送っていたり、高級なお店でばかり食事をしていたり…。そういった世界を見せつけられるたびに自尊心がうずきます。

でも、傷ついていることに本人は気づきません。駆り立てられるように今度は自分がレストランに行って写真を撮り、料理を味わうこともそこそこにSNSにアップして、リベンジする。

そのようにして世界中の人が見栄や欲によって妄想合戦をすることで、みんなの見えない傷が深くなっていくのです。

一方で、多くの人がSNSに登録することで広告収入が増え、うるおっていくIT企業の億万長者たちがいます。SNSとはそのようなものということを理解して、表には見えない経済の仕組みを知り、人とつながる手段として上手に利用すれば、傷つくことも避けられるはずです。

なぜ、こんなふうに気持ちを駆り立てられるのか。きちんと問いを発し、答えを見つける姿勢があなたを妄想合戦から救います。

お金の不安を解消するためにできること

SNSの次に多いのが「お金がないと不安」という妄想です。「老後には2000万円必要」などと報道されると、不安はますます大きくなります。そんな悩みを抱えている人には、冷静に数字を分析するべきと、私は回答しています。

たとえば月の収入が10万円だったとします。支出は9万9900円という数字がわかれば、なにか削れるものはないだろうかと考えるのです。家賃が5万円なら、シェアハウスなどで3万円にしてみる。あるいはバイトをかけもちして、あと3万円稼いでみる。

そうすれば、いざというときのために少しずつでも貯められる。そんなふうに分析することで、みなさんの不安が少しやわらぎます。

しかし、不安を抱える人の多くは、案外、自分がどれだけお金を使っているのか、どれだけたりていないのかを把握していないことが多いのです。ただたりない、たりないと不安がっているだけです。

きちんと数字を確かめて、冷静に対策を立てることで妄想は去るわけです。

必要なもの、不要なものを紙に書き出してみる

私は、四半期に一度、自分に必要なものと不要なものをバーッと紙に書き出すことで脳内を整理整頓しています。

自分にとっていちばん必要なのはなにか? 2番目は? というように、優先順位を書いていくわけです。もう20年くらいこれをやってきていて、自分の変化を見るのもおもしろいものです。

過労で倒れたり、救急車で運ばれた経験があるので、最近の私は命が第一。その次が時間。仕事よりも健康や命が大事ですから、もしもそこが脅かされそうになったら、迷惑をかけるだろう関係者に頭を下げて、あるいは代理を立てて仕事を先送りします。

このように、優先順位をつけて頭の中を冷静に整理することで、不安や迷いといった妄想を撃退でき、今やるべきことが明確になるのです。

みなさんも、SNSからほどよく距離をとり、妄想で心が波立ったときは、必要なもの、不要なものを紙に書き出してみましょう。冷静になることで、自分が進むべき方向が見極められるはずです。