大倉孝二、『ピンポン』が俳優人生の転機に「アンナチュラル」井浦新との再会は「照れ臭かった」
飄々とした独特の存在感を持ち、物語に味わいや深い彩りを与える俳優として活躍を続けている大倉孝二。監督・塚原あゆ子&脚本・野木亜紀子の最強タッグによるドラマ「アンナチュラル」(2018)、「MIU404」(2020)、8月23日より公開となる映画『ラストマイル』では、3作品すべてにおいて西武蔵野署の刑事・毛利忠治役で出演を果たしている。今年で50歳という節目の年を迎えた大倉が、俳優業の転機としてあげたのは、映画『ピンポン』(2002)だ。『ピンポン』で出会った井浦新と「アンナチュラル」で再会を遂げた時には、「なんだか照れ臭かった」と笑顔を見せる。そんな同い年でもある井浦への思いや、俳優としての現在地までを語った。(成田おり枝)
転機となった『ピンポン』アクマ役
大倉にとって役者としてのスタート地点は、1995年にケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が主宰する劇団「ナイロン100℃」に入団したこと。「『何か面白いものを作る現場に行ってみたい』と思ったことをきっかけに、俳優の養成学校に通い始めて。俳優の勉強を始めても、そんなに向いているとは思わなかったんですけれどね。そこからたまたま今の劇団(ナイロン100℃)の募集要項を見つけて、そのまま今に至ります」と流れに身を任せながら、役者の道を歩み始めた。
転機となった作品としてあげるのが、松本大洋の同名コミックを監督・曽利文彦、脚本・宮藤官九郎によって実写映画化した『ピンポン』だ。卓球に青春を捧げる男子高校生たちの奮闘を描く本作で、大倉は、“アクマ”こと佐久間学役を演じていた。汗だくになりながら努力を重ねつつ、自分は「凡人だ」と自覚して主人公であるペコ(窪塚洋介)の背中を押していくアクマの姿が心に残っている人も多いことだろう。
「僕は『ピンポン』によって世に出させていただいた。『ピンポン』に出演したことで、それまでとは圧倒的な変化がありました」と回想した大倉は、「そこで初めて、長い期間を撮影現場で過ごすという経験をさせていただいて。『映画ってこうやって撮っているんだ』と知ったり、『みんなで力を合わせて作っていくものなんだ』という喜びも感じました。若い出演者が多かったので、長い時間をかけて撮影をしていると、役と一緒に俳優も成長していくんだという感覚もあって。ものすごくいい経験をさせていただきました」と振り返る。
再会した井浦新は「ものすごく優しい笑顔をしていた」
『ピンポン』で大倉は、井浦新とも共演をしていた。井浦が演じていたのは、笑わないことから“スマイル”というあだ名で呼ばれる月本誠役。大倉は「当時の新くんの印象は、俳優だけではなく、ブランドやモデルのお仕事もされていて、“カッコいい界隈”の人という感じ。僕とは住んでいる世界が違うなと思いながらも、現場ではずっと一緒にいましたね」とにっこり。
井浦とは、「不自然死究明研究所(UDIラボ)」の活躍を描く法医学ミステリー「アンナチュラル」で再会を果たした。大倉は「『アンナチュラル』で会った時は、なんだか照れ臭かったですよ。若い頃に出会っていて、しかも新くんと僕は同い年なんです。久々に会った新くんは、ものすごく優しい笑顔で『大倉くん、久しぶり』と言ってくれて。『ああ、お互いに大人になったな』という気がしましたね。感慨深いものがありました」としみじみ。
「アンナチュラル」で井浦は、態度も口も悪い法医解剖医の中堂系を演じている。大倉演じる毛利は、いつも中堂に毒を吐かれており「目の敵にしている」という関係性だ。大倉は「中堂を演じている新くんは、これまでに見たことのない新くんを見たような気がして。とても新鮮でした。距離を近づけて言い合いをするシーンもありますが、迫力がありましたね」とたたえ、「『ピンポン』では、アクマがスマイルに負けて卓球を辞める。『アンナチュラル』でも新くんと戦っていて、なんだか面白いですね」とうれしそうに目尻を下げる。
俳優業の醍醐味、50代の展望
『ラストマイル』は、「アンナチュラル」&「MIU404」の世界線とつながるシェアード・ユニバース作品だ。流通業界最大のイベントの一つであるブラックフライデーの前夜、世界規模のショッピングサイトから配送される段ボール箱が爆発する事件が発生。やがて日本中を恐怖に陥れる連続爆破事件へと発展していく様子を描く。毛利は、捜査一課の刈谷(酒向芳)とコンビを組むように命じられ、事件解決に奔走していく。
毛利は周囲にぼやきやツッコミを炸裂させつつも、刑事としての正義感がしっかりとにじむキャラクターとして、ファンから熱い支持を集めている。どんな作品であれ、大倉がそこにいることでさらに作品世界が豊かに広がっていくような俳優力があるように感じる。映画やドラマ、舞台に引っ張りだことなっている彼だが、俳優としての醍醐味だと感じているのはどんなことだろうか。
大倉は「撮影現場に身を置いている時が一番、喜びを感じる時です。僕らのお芝居を撮るために、こんなにもたくさんの人が動いてくれているんだと感じたり、みんながここに映っているものを作っている一員なんだと感じたり。ものづくりの喜びを共有できることにゾクゾクします」と熱っぽくコメント。『ラストマイル』のメイン舞台となるショッピングサイト倉庫は「階段や手すりなど、広大なスペースのありとあらゆるところがオレンジ色に塗られていた」そうで、「『もともとこういう色に塗られていた場所で、それを利用してロケ地にしたんですか?』とスタッフさんに尋ねたら、『違います。全部、撮影のために塗りました』と言っていて。本当にすごいな、そういった仕事の上に僕らが成り立っているんだなと改めて思いました」と各部署の人々が作品世界を作るために心を込めて働いていることを実感すると、「ゾワッとする」と話す。
50代を迎え、今後の展望として掲げるのは「現場で会う人たちには、『また一緒に仕事をしたい』と思ってもらえるように。視聴者や観客の方には、『もう一回見たい』と思えるように。現場ごとに必ず、そういったことを心がけていくことしかありません」という誠実な思い。「当たり前のことを言ってしまいますが、やり続けていくことで次につながっていくのかなと思っています」と心を込めていた。