40代の総裁候補として注目も…小林鷹之氏が「裏金問題」に切り込まない「根本的な理由」

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ジョン・F・ケネディは43歳でアメリカ大統領に就任した。二人の40代の候補は9月27日投開票の自民党総裁選の台風の目となるだろうか。

「まったく知名度がない。一日でも多く、私自身のビジョン、政策を一人でも多くの党員や国民に知っていただきたい」

小林鷹之前経済安保担当相(49)は8月19日、会見を開いて総裁選への出馬表明を行い、どの候補よりも先陣を切った理由をそう述べた。小林氏と当選同期の4期生や当選1回の若手を中心に、推薦人となる見込みの24名の国会議員も会見に同席した。自民党内で「若手」と定義される当選4回以下の議員は約140名。投票権を持つ自民党議員367名の4割に迫る人数となり、若手議員が小林氏支持に回った場合、一大勢力となる可能性がある。

岸田文雄首相(67)が自派閥の宏池会の解散をし、麻生派を除く各派閥もその流れに沿い、自民党内で派閥は解消された。総裁選には11名の議員が出馬の意向を示している。同一派閥から2名の候補が出ることも取り沙汰され、これまででは考えられない混乱ぶりとなっている。

「支援の和が広がっている実感はある」

小林氏の支援を明言する福田達夫元総務会長(57)はそう断言し、こう続けた。

「当選同期で話していると、自然と『小林でいこう』という話になった。先輩とも若い人ともいろいろ話をする中で、『小林がいい』とまとまった。理路整然と話せるだけでなく、言葉に気持ち、心がこもっている。知名度の低さについては、逆にいえば伸びしろがあるということ。伸びしろしかない、と思っている」

ほとんどの派閥が解体されたことになっているが、8月14日に赤坂見附のステーキ店で麻生太郎副総裁(83)と茂木敏充幹事長(68)が会食するなど、派閥の領袖クラスは従来通り高級店で会食を行い、その言動が取り沙汰されている。福田氏はこう語る。

「われわれはお金がないので料亭ではなく、リモート会議やメッセンジャーでやりとりしている。今回の総裁選は『脱・派閥』で行われる。(小林の出馬会見に出席した)議員はそのまま推薦人というわけではないが、それぞれ旧派閥の領袖に『今回は小林で』と伝えている。(領袖への)情を大事にする人も出てくるかもしれないが、この仲間で進めていく」

無派閥の小泉進次郎元環境相(43)も出馬の意思を周囲に伝えており、近日中に出馬会見開催となる見込みだ。派閥の裏金事件で逆風が吹く自民党としては、40代の総裁候補擁立で「刷新」を印象づけたい狙いもあろう。

だが、「40代の若手候補が『脱・派閥』を説いても虚しく感じる」と語るのは政治学者の天川由記子氏だ。

「小林氏は甘利明元幹事長(74)も支援している。自身の復権を狙っているのです。麻生派重鎮の甘利氏が小林陣営にいることで、小林氏が大金星を獲得した暁には、キングメーカーとして生き残れる。小泉氏は決して自らの口からは言いませんが、森喜朗元首相(87)が会う人すべてに『進次郎をよろしく』と頼んでいる。影響力維持のためのいつもの手ですが、遠藤利明初代五輪相(74)や小渕優子選対委員長(50)はその言葉を無碍にできないでしょう。小林氏と同じ二階派で、小林氏の台頭を快く思っていなかった武田良太元総務相(56)も、森氏の言葉に消極的ではあるが呼応する可能性もある。

また、菅義偉元総理(75)は『将来の総理候補』として度々、進次郎氏の名をあげて、今回も推薦人を割り振っている。若い候補者の背後に長老たちの姿がハッキリと見えてしまっているありさまです」

裏金問題についても、小林氏は政策活動費の透明化や第三者機関の設置などの政治改革に取り組むと主張する一方で、「権限を持っている検察当局が調べる中で不起訴処分となった。そんな中、自民党の調査には限界がある」とさらなる追及は避けるという発言もしていた。

「小林氏の出馬表明会見に参加した議員のうち11名は旧安倍派の議員。裏金を追及し過ぎると、旧安倍派を中心に総裁選支援の目処がたたなくなる。候補が乱立しているから、1度目の投票で過半数を取る候補者はいないだろう。1位が過半数に満たなければ上位2名での決選投票となる。1度目の投票では国会議員票と党員票は各367票と同数だが、上位2名の決選投票では、党員票は都道府県連票47に減少する。一方、国会議員票は367票のまま。国会議員票が占めるウェイトが大きくなる。議員票が結果を左右する仕組みだけに、議員に痛みが伴う改革はできないのでは」(全国紙政治部記者)

振り返れば、派閥の裏金事件が表沙汰になった際、若手をはじめ自民党の議員は石破茂元幹事長(67)らごく一部を除き、沈黙を守っていた。裏金問題が落ち着き、総裁選が近づいてきたタイミングで突如、「若手による党改革を」と言い出す始末だ。

「政治とカネの法改正をさらに進める、あるいは長老に操られないように仕組みを作り変えるなど、自民党を根底から変えるような総裁選にしないといけない。推薦人集めも、従来の数合わせではなく、私はこういう政権にしたい。こういう自民党に変えたい。賛同するなら推薦人になってくれ、と政策や志、国家観を掲げ、推薦人を集める候補がいてもいい」(ジャーナリストの鈴木哲夫氏)

40代の新総裁誕生となれば「刷新」感は出るだろう。ただ、それだけでは自民党が延命するために「表紙」を替えただけに過ぎない。新総裁には旧態依然とした自民党の体質そのものを根本から変える人物が求められている。

取材・文:岩崎大輔