『ブラックペアン シーズン2』©TBS

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 オリンピックによる1週の休止を挟み、後半戦に突入した『ブラックペアン シーズン2』は、8月18日に放送された第6話からオープニングに出てくる副題が「スリジエセンター」に変わっている。もっとも、第1話と第2話の段階で原作小説のひとつ『ブレイズメス1990』の内容を描き尽くしているので、すでに原作小説のもうひとつである『スリジエセンター1991』の内容には入っているのだが。なんにせよ、この副題の変化はドラマ全体が次の段階に進むことを意味しているのであろう。

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 前回までの前半戦は、天城(二宮和也)という医師の芸術的なオペテクニックと、かなりエキセントリックな人格を軸に、“ジュノ”と天城から呼ばれる世良(竹内涼真)を筆頭にした東城大病院に関わるあらゆる登場人物たちがひたすら振り回され、そして“公開オペ”というやり方をもって劇場型の医療ドラマを確立していった。後半戦はおそらく、前半で固められた土台をキープしながらもスリジエセンターの開設に向けた動きの本格化、すなわち日本医学会の会長の座を狙う佐伯(内野聖陽)を軸にした政治的な医療ドラマの色が強くなっていくのではないだろうか。それはある意味で、“『ブラックペアン』らしい”流れだ。

 それを示すように、この第6話では佐伯と対立する菅井(段田安則)が率いる維新大から新たな“刺客”が登場する。第4話で大々的に登場し、天城にまんまと飼い慣らされた医療用AI“エルカノ”の後継機であり、シーズン1の第5話で持ち込まれた手術支援ロボットの“ダーウィン”がコラボレーションを果たした装置。この“エルカノ・ダーウィン”が本格的に導入されれば、まさしく天才医師の必要性は失われる。しかも菅井は、かなりの資産を有するVIP患者のオペを前に天城に協力を仰ぎ、彼の“ダイレクト・アナストモーシス”をエルカノに奪わせようと画策するのである。

 その“エルカノ・ダーウィン”の開発担当者である維新大の早川(瀧内公美)の東城大への襲来をもってフォーカスするのは、シーズン1に引き続き周囲になじまずに働いていた看護師の猫田(趣里)である。すでに第2話の際に、猫田のなじみの洋菓子店の店主が患者となるかたちで簡潔にスポットライトが当てられていたわけだが、それは猫田が信頼を置いていた渡海征司郎(二宮和也)と瓜二つである天城の、“似ているけれど似ていない”部分を強調させるためのものであったといえよう。

 今回はまさしく渡海から薫陶を受けた猫田の過去ーーそれもシーズン1よりもさらに遡った、維新大で働いていた時代の出来事ーーから、渡海によって“拾われ”、渡海が去った後に医師となるために努力を積み重ねてきた流れが明らかにされる。早川をオペするに至るまでのストーリー運びは、それこそ第4話で天城を追い込もうとした弁護士の一連と重なるほど安直なものであったが、これが患者のドラマではなく医師のドラマであることを考えればそこは目を瞑っても差し支えないだろう。

 もちろんこうして猫田の過去が描かれるとなった以上、渡海をふたたび描くことは必然。今回はあくまでも回想シーンとしての登場に留まったわけだが、シーズン1の際から多くが語られていなかった渡海と猫田の関係に新たな発見が生まれ、改めて渡海の解像度が上がるきっかけとなったことは間違いない。今回の終盤、医師となった猫田は海外の病院へ招聘されて東城大を去るわけだが、彼女がいなくても渡海が登場する展開が起こりうるのかは気になるところである。佐伯との会話で天城が「渡海先生」の名を口にした以上、“悪魔”同士の対峙に期待しておきたい。

(文=久保田和馬)