アメリカで成功「カップヌードル」まさかの営業法
アメリカで「カップヌードル」の営業スタッフが取った売り込み法とは(写真:チリーズ/PIXTA)
「大量の売れ残り在庫」や「お客さんの迷惑な振る舞い」など、ビジネスの世界には大小さまざまな困難がつきものですが、そうした困難を乗り越えるためには過去の事例を上手に「カンニング」することが必要だと、作家の西沢泰生氏は指摘します。
「正解」の見えない世界で局面を打開した創意工夫を、過去の事例を基に西沢氏が紐解きます。
※本稿は、西沢氏の著書『一流は何を考えているのか その他大勢から抜きん出て、圧倒的な結果を生み出す「唯一無二の思考」』から、一部を抜粋・編集してお届けします。
大量に売れ残った紙テープを売ったアイデア
1915年のサンフランシスコ万国博覧会でのこと。
日本のある会社が、商品のラッピング用に紙テープを出品しました。しかし、アメリカでは商品ラッピングはリボンが普及していて、まったく売れません。
このとき、大量の売れ残り在庫に頭を抱える会社を救ったのは、サンフランシスコ在住の1人の日本人でした。この紙テープを安く買い取ると、ある方法でこれらを売りさばくことに成功したのです。
問題:いったいどんな方法で、売れ残った紙テープを完売させたのでしょう?
ヒント:万博会場には、世界中から人が集まっていました。
答え:船でサンフランシスコを去る乗客と、それを見送る人たちに対して、「この紙テープで最後の別れの握手をしましょう」という宣伝文句で売り出した。
客船が港を出るとき、乗客やそれを見送る人たちが紙テープを投げ合う場面をご覧になったことがあると思います。実はあれ、このサンフランシスコ万博のときの「紙テープを売りさばくためのアイデア」が、元祖だったのです。
アイデアを出したのは、サンフランシスコでデパートを経営していた森野庄吉さんという方。日本の会社が困っていることを知った彼は、万博に集まったたくさんの観光客たちでごった返す港で、「この人たちに紙テープを売れないだろうか?」と考えます。
そして、在庫の紙テープを安く買い取り、紙テープを別れの握手に見立てるというアイデアで売り出すことにしました。彼のアイデアは大当たり。それこそ飛ぶように売れて、買い取った紙テープはめでたく完売したのです。
ちなみに、船の出航時に紙テープを投げることは、これをきっかけに世界に広まりました。しかし、しっかりと定着したのは日本だけとのこと。いっとき環境問題に配慮して禁止する向きもありましたが、水に溶ける紙テープを使うことで現在でも存続しています。
「カップ麺」ではなく「具の多いスープ」
続いては、日清食品の「カップヌードル」をアメリカで売り出したときのエピソードです。
当時のアメリカでは、誰もカップ麺なんて食べたことはありません。そもそもどこのスーパーにも、カップ麺を置くコーナー自体が存在していませんでした。そんな状況のなか、日清食品の営業スタッフは、いったいどうやってカップ麺をスーパーに置いてもらったのか?
実は、初めてカップ麺を見るスーパーの人たちに対して、こんな売り込み文句でアピールしたのだそうです。
「これは、具の多いスープです」
カップ麺ではなく、あくまで「具の多いインスタントスープ」として売り込むことで、インスタントスープのコーナーに置いてもらうことに成功したのです。
もう1つ、ニューヨークに出店した日本の博多料理店のエピソードもご紹介します。
明太子を「たらの卵」と訳してメニューに載せたところ、お客は気持ち悪がって誰もオーダーしてくれません。そこで一計を案じ、名前を「博多スパイシーキャビア」に変更してみると……。次々と注文が入り、瞬く間に人気商品になったのでした。
使い方や売り込み方、商品名を変えるだけで、売れなかったものがヒット商品に化けることがあります。在庫の山を一掃することだって夢ではありません。アイデア1つが勝負です。
ポイント:中身が同じでも、アピール方法によって在庫が宝の山になる
バイキングの食べ残しをなくした逆転の発想
あるバイキング形式のレストランの話です。
このレストランでは、お客様の食べ残しが大きな悩みでした。いくら「食べられる分だけお取りください」と掲示しても、どうしても食べ残しが減りません。そこで、あるルールを採用したところ、この食べ残しがピタリとなくなったのです。
問題:バイキングの食べ残しをピタリとなくしたのは、どんなルールだったでしょう?
ヒント:「食べ残したお客様から罰金を取った」ですって? 違います。
答え:食べ残しを出さなかったお客様には、お会計のとき、1人100円を返金。
バイキング形式のレストランにとって、お客様の食べ残しは大問題です。
「お皿に取った料理は残さずにお召し上がりください」
店内にそんなお願いの貼り紙をしても、食べ残しはなかなか減らないもの。お店にとって損失なだけでなく、フードロスの観点からも問題です。食べきれなかった分はお持ち帰りにしていただくのも手ですが、食中毒のことを考えると、特に夏場はお持ち帰りも避けたいのが本音。
そこで採用したのが、この100円のキャッシュバック方式。初めから安いより、この「お金が戻ってくるおトク感」というのは、インパクトが違います。
たったの100円ではありますが、残さず食べるだけで、家族5人なら500円のお得。子どもに「ちゃんと残さず食べなさい! そしたら、ジュースを買ってあげるから」と言っている親御さんの姿が目に浮かびます。
名作映画でも描かれたリアルな「おトク感」
伊丹十三監督の映画に、『スーパーの女』という作品があります。
内容は、宮本信子さん演じるスーパーが大好きな主婦が、津川雅彦さん演じる幼なじみが経営する売れないスーパー「正直屋」の立て直しに奮闘するというコメディ。そんな映画のなかでお盆のセールについて、主人公がこんなアイデアを出す場面があります。
「店内の全品を1割引きで売りましょう!」
店員たちからは、「ライバル店が、半額セールや3割引きをやっているのに、1割引きなんてインパクトがない」と反対されますが、ここで主人公は、こんな啖呵を切るのです。
「(ウチのスーパーでは)今まで6000アイテムのうち200アイテムがセールの対象だった」「それを全商品1割引きにする」「賢明な主婦がこのチャンスを見逃すはずがない」
店員たちは半信半疑でしたが、いざフタを開けてみると、全品1割引きセールは大成功。店内は、普段は手を出さない高額商品や、買いだめが利く消耗品を買い求める主婦で、押すな押すなの大混雑になったのです。
これも、(映画ではありますが)わずか1割であっても、「おトク感」を刺激し、人を動かした例です。
ちなみに、この映画の原作小説の著者はスーパーの社長さんでした。そのため、「商品名の偽装」や「売れ残り商品をパックし直して日付を変えて売るリパック」など、当時のスーパーの裏事情がかなりリアルに描かれています。
そのリアルさから、この映画を社員研修に使うスーパーも現れ、映画を観て感動したスーパーの店員たちが、上層部に「私たちは、自分たちのスーパーをこの映画に出てくる正直屋のような店にしたい」と訴えたというエピソードも残っているそうです。
ポイント:人は「おトク感」で予想以上に動く
(西沢 泰生 : 作家・ライター・出版プロデューサー)