「ベジタブルな野菜ですね」……インスタで大人気「小泉進次郎」がネタ動画にされる「テレネット政治」の落とし穴 自民党議員からは「総理待望論」も
9月に行われる、自民党の総裁選を巡る動きが激しくなっている。岸田首相が不出馬を表明し、様々な“出馬候補”の名が取り沙汰されているのは周知の通りだ。
先の都知事選で石丸伸二・前安芸高田市長が165万票を獲得し、2位に入った。彼がSNSを駆使する戦略で、蓮舫・前参議院議員を遥かに上回る票を獲得したことは、政治の世界におけるネット、特にSNS空間での評価が支持の多寡に大きく左右することをまざまざと示した。
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Xフォロワー253万人
では、次の自民党総裁、すなわち総理候補はSNS空間でどのように見られているのだろうか。
それを測る一つの指標は、XやInstagramのフォロワー数である。
例えば、「次の総理」アンケートで1位となることが多い石破茂元幹事長。彼は政策通のイメージが強いが、オタクキャラでネット上でも大人気だ。Xのフォロワーは20万人を超え、Instagramのそれは1.3万人。
上記のアンケートで2位となることが多い小泉進次郎元環境大臣はXが1.7万人だが、Instagramは15.9万人もいる。この意味については後で述べる。
高市早苗経済安保大臣は、YouTubeで「高市早苗チャンネル」を運用し、25万人が登録している。経済安保や中国など「ネトウヨ」受けするコンテンツが並ぶのが特徴だ。Xのフォロワーは63.3万人、Instagramが5.1万人であり、SNSでの人気はかなり高い政治家だといえる。
河野太郎デジタル大臣はテレビ出演などの際には論旨明快であり、視聴者に常に伝わりやすい発信をしている。Xが256万人と桁違いの多さ。Instagramも7.2万人であり、ネット上に相当数のファンがいることが伺える。しかし異なる意見にすぐにブロックをするなど、人間性の「幅の狭さ」もネット上では露呈もしている。
上川、茂木、林の人気は……
一方、上記の4名と比べるとネット上での存在感が格段に落ちる候補者がいる。
麻生太郎副総裁を筆頭に、重鎮の覚えめでたいと言われる上川陽子外務大臣は、ネット上の存在感はまるでない。Xのフォロワーは2.9万人でInstagramはわずか494人。
党のナンバー2、茂木敏充幹事長の永田町界隈の評判が「尊大・傍若無人」というのはよく知られているが、ネット上でも愛されるキャラクターとはなっていない。Xのフォロワーこそ8.4万人いるが、Instagramは1089人に留まる。
岸田派のナンバー2、林芳正官房長官は官僚からの評価は高いが、ネット上では話題にならない。Xは1.9万人でInstagramは1135人である。
女性人気と進次郎
以上の候補者の中で、特筆すべき傾向があるのは、小泉進次郎である。
先に述べたように、進次郎の特徴は、Xのフォロワーが1.7万人だが、Instagramは15.9万人もいることだ。
選挙Instagramに詳しい専門家は言う。
「言葉を紡ぐXは比較的男性的なSNSであるが、Instagramは画像や動画中心のコンテンツで、圧倒的に女性が中心のSNS。日常をさりげなく、しかし方向性や視点を持ち、切り出せる感性が問われる。ゆえに女性の人気を測るのに適したSNSだ」
世論も女性が中心となって作られる時代だ。現代政治では女性から支持を得ることがこれまでに増して重要な要素となってきている。
筆者は民放でテレビ番組のプロデューサーも務めたが、実際、Instagramで人気のある議員が出演すると、その時間は視聴率が上がる傾向にある。
こうしてみると、進次郎はまさにネット、SNS時代に対応した政治家のように思える。
「このトースト、パンの味がしますね」
しかし、事はそう単純ではない。
YouTubeやTikTokなど、ネット動画の世界では、進次郎の画像に、彼がいかにも発言しそうな架空の言葉を列挙したコンテンツが大量に流され、再生されている。たとえばトーストを頬張る本人の写真に「このトースト、パンの味がしますね」との架空のコメントが添えられ、SNS上で数万回再生されている。これには何バージョンもあり、「これがPCですが、うちのパソコンに似てますね」、「ベジタブルな野菜ですね」など、進次郎らしい、しかし意味不明なフレーズをうまくパロディにしたものが大量に作られて拡散されている。いわゆる「進次郎構文」だ。あるいは、テレビ局のニュース映像などを不法に使い、まとめられた本人のリアル発言集もある。いずれも進次郎の発言の中身が薄いことを揶揄し、笑いのネタとして動画加工されているのだ。
ネット上には進次郎のアンチも数多くいて、彼の言動を常にパロディとして晒しているのである。
「テレネット政治」時代の政治家
「テレポリティクス」と言われる、テレビ映りが政治の趨勢を決めるといわれた時代は、若きイケメン、ケネディ米国大統領の誕生につながったといわれる1960年のテレビ討論会にさかのぼる。以後、世界中でテレビ映りの良し悪しが政治家の人気を左右すると言われてきた。日本でも進次郎の父、小泉純一郎元総理もまさにこの範疇に入る政治家だった。しかし現在はテレビのみならず、ネットの時代でもある。
上記の進次郎動画のように、テレビ報道等に映し出された言動から受けるイメージが、ネットで拡散されていき政治に影響を与えていく現象を筆者は「テレネット政治」と定義する。
「テレネット政治」ではルックスだけでなく、キャラクターも重要だ。かつての「テレポリティクス」時代には、15秒から20秒のワンフレーズを駆使する見栄えのよい政治家が人気となったが、現代のネットではこれに留まらず、その言動から受け取られるキャラクターに焦点が集まり、評価、あるいは揶揄や批判の対象となっていくのである。
「進次郎内閣を作ることが、衆院選で自民党が勝利するための唯一の方法」
筆者が政治取材をしていると都市部の自民党議員は戦々恐々としている。ある都内の選挙区選出の議員は「このままでは自民党議員は小選挙区では全滅かもしれない」と真顔で話した。別の関東選出の議員は「次の総裁選で進次郎内閣を作ることが、衆院選で自民党が勝利するための唯一の方法。決死の覚悟で実現させたい」と話す。当落が“風”に大きく左右される首都圏の自民党議員にとって岸田続投は容認できない選択肢だ。進次郎の抜群の知名度で何としても自らの議席を確保したいという想いがひしひしと伝わってくる。
しかし、上記のように、ネット上での進次郎の人気は諸刃の剣だ。仮に進次郎総理が誕生したとしても、今以上に発言の軽さ、中身の薄さを指摘され、ネット上で次々とパロディのネタにされ、笑いの対象となってしまうかもしれない。
「テレネット政治」の今、外見や表面的な言葉で国民を誤魔化すことは難しい。そのことを頭に入れた上で自民党は次の総理を選択していってほしいと思う。
多角一丸(たかく・いちまる)
元テレビ局プロデューサー、ジャーナリスト
デイリー新潮編集部