左がアイリスオーヤマのマイコン式RC-MDA50(8980円)、右が、象印マホービンの圧力IH式 炎舞炊きNW-FC型(15万9500円)。見た目はそれほど価格差があるようには見えないが……(筆者撮影)

電気炊飯器は数千円から15万円以上まで、価格帯が幅広い。ご飯の代わりにパンやパスタを食べる人もいるだろうが、それでも「ご飯を美味しく食べたい」という日本人は多く、10万円以上の高級炊飯器も売れ続けている。

そこで、安い炊飯器と高い炊飯器に価格差ほどの味の違いがあるのか、食べ比べをしてみた。今回試したのは、アイリスオーヤマのマイコン式RC-MDA50(8980円)と、象印マホービンの圧力IH式 炎舞炊きNW-FC型(15万9500円)である。価格差はなんと17倍以上だ。同じ5.5合炊きでもこれだけの差がある理由を探った。

マイコンタイプは安く、IHは高い

炊飯器には主にマイコン式とIH式の2種類がある。今回ご紹介するアイリスオーヤマのRC-MDA50(以下、アイリスオーヤマ)はマイコン式であり、象印マホービンのNW-FC型(以下、象印はIH式である。

マイコン式炊飯器は、底部にあるヒーターで内鍋を加熱する。マイコンを使って火力をコントロールし、炊き上がりを調整する。IH式炊飯器は、電磁誘導加熱を使って米を炊く方式である。底から熱を伝えるのではなく、内鍋そのものが発熱するため、全体に熱が均一に伝わる。

また、IH式には圧力をかけるタイプもあり、それが現在の主流となっている。高級モデルの多くはIHの圧力タイプで、今回紹介する象印マホービンのNW-FC型もその一つである。

【写真】炊飯器の大きさ、内鍋の重さ、ごはんの炊き上がり、冷めたごはんの食べ比べなど、あらゆる角度から比較


象印のIH式炊飯器はIHヒーターが複雑な構造だ(筆者撮影)

NW-FC型は、圧力IHタイプの中でも特に複雑な構造を持つ。6つの底IHヒーターを搭載しており、ローテーションで加熱することで複雑な対流を生み出す。この方式は象印マホービン独自であり、技術力のある作業員によってほぼ手作業で組み立てが行われている。また、銅線の量が多いため、より高額な炊飯器となっている。

一番の違いは「輪郭」と「弾力」

アイリスオーヤマのRC-MDA50と象印マホービンのNW-FC型を並べてみると、それほどサイズに差はなく、見た目だけでは価格差を感じない。ただ、本体の重さは前者が3.3kg、後者が8kgと、象印のほうがずっしりと重い。


左のアイリスオーヤマと比較すると象印は一回り大きい(筆者撮影)

内鍋の重さ(実測値)は、象印が1.14kg、アイリスオーヤマが0.73kgである。アイリスオーヤマのRC-MDA50は価格が8000円台ということもあり、もっと軽い内鍋を想定していたが、この価格帯の中では内鍋が分厚く、しっかりしている印象だ。


アイリスオーヤマ(左)は安くても内釜は分厚くしっかりしている(筆者撮影)

また、アイリスオーヤマのRC-MDA50はマイコン式であるものの、高機能な炊飯器である。「コシヒカリ」や「あきたこまち」といった銘柄ごとに火力や加熱時間を調整する「50銘柄炊き分け」機能を搭載している。今回はスーパーで購入したあきたこまちを3合炊飯したので、「あきたこまち」を選んで炊飯した。表示された炊飯時間は67分。

一方、象印マホービンのNW-FC型は、銘柄炊き分け機能は非搭載だ。これは同じ銘柄でも米の鮮度や保存状況、産地の違いによって炊き上がりの状態が異なるため「銘柄による炊き分けはあまり意味がない」という考えだからだ。その代わり、かたさや粘りを自分好みに設定できる「炊き分けセレクト」機能を搭載している。かたさは3通り、粘りは5通りの組み合わせで、合計15通りに炊き分けることが可能だ。好きな粘りやかたさにできるが、今回はかたさと粘り共に標準モードを選択。表示された炊飯時間は56分。

炊き上がったご飯を比べてみると、同じ米と水で炊いているのに香りや味が別物であることがわかった。象印はもちもちで甘く、弾力があり、粒の輪郭が口の中ではっきりわかる。

一方、アイリスオーヤマは全体的にやわらかめで、ご飯同士がくっついている印象だった。しゃもじで混ぜているときに若干の炊きムラがあり、下のほうが少しつぶれていることに気づいた。


上/アイリスオーヤマは、少しやわらかい炊き上がり 下/象印は、ごはんが立っている。表面もツヤツヤ(筆者撮影)

特に気になったのは香りだ。象印は、お米そのものの香りで美味しいと感じる。アイリスオーヤマは噛んだときに若干のぬか臭さを感じた。同じように洗米して同じ水を使っているが、マイコン式のほうは米の状態がわかりやすく出てしまうようだ。同じ米とは思えないほど、味も香りも異なるのがおもしろい。

スーパーで購入した無洗米を無洗米モードで炊いたときには、より味の違いを感じた。アイリスオーヤマでは甘みとツヤがいまひとつで、ニオイがより気になる。象印は、無洗米でももちもちしており、甘さもキープできている。個人的には無洗米は苦手で普段はあまり食べないが、NW-FC型なら食べ続けることができそうなほど、美味しいと感じた。

おにぎりや雑穀米では?

冷めたごはんもおにぎりにして食べ比べた。象印で作ったおにぎりは、握ったごはんでも潰れずに弾力を保ち、かみ応えも抜群。一方のアイリスオーヤマは、全体的にごはんがやわらかいため、握ったときに少し潰れたような状態になった。


冷えたごはんも食べ比べ。やはりアイリスオーヤマはやわらかめになる(筆者撮影)

小豆やもち麦、キヌアなどが混合している、白米に混ぜるタイプの玄米も白米と一緒に炊いてみた。象印のほうが、小豆の色がよく出ていて全体的に赤い。食感は全体的に同じようなかたさに統一されて食べやすく、小豆の旨みがよく出ている。アイリスオーヤマは、白米部分は白く、少し玄米や小豆のかたさが残り、香りが薄いと感じた。ただ、つぶつぶした食感を楽しめるので、こちらのほうが好みという方もいるかもしれない。


象印で炊いたほうは、全体的に小豆の色がよく出ていて赤っぽい(筆者撮影)

「調理モード」の有無に注意

象印の消費電力が1240W、アイリスオーヤマが650Wなので、電気代はほぼ半分。もっちりしたご飯は高火力であることが求められるので、このあたりの差も食感に関係しているのかもしれない。電気代で評価すると後者のほうがエコではあるが、美味しさを追求した高級モデルは、1000Wを超えるものがほとんどだ。

ただ、アイリスオーヤマは、カレーや角煮などを調理できる「煮込みモード」や、ヨーグルトなどの発酵食品もできる。一方、象印は炊飯がメイン。高級炊飯器のほとんどがそうだが、ニオイ移りなどでごはんの味への影響から、調理モードはない。炊飯器でよく調理をする人は、注意が必要だ。

よくも悪くもマイコン式はお米の状態がそのまま出るので、お米や水の状態に左右される。よいお米と水を使い、正しく計量し、少なめに炊飯すればマイコン式でも美味しく食べられるし、マイコン式のほうが食べやすいという方もいるだろう。特に今回試したアイリスオーヤマは、マイコン式の中でも炊飯や蒸らし時間などがうまく調整されているので、ふっくら炊ける。やわらかいごはんが好きな方の満足度も高いだろう。

一方の象印は、スーパーで売っているような普通の米でも、甘さと弾力をしっかり引き出してくれる万能な炊飯器だと感じた。象印マホービン炊飯器は、他社と比較すると少しやわらかいほうではあるが、粒立ちはハッキリしており、土鍋で炊いたごはんと遜色ない。ツヤもあり、安い米にありがちな嫌なニオイも感じにくいので、おにぎりやお弁当などの冷めたごはんにも合う。高価なモデルだが、炊き上がりの美味しさから、売れているのも納得できる炊き上がりだった。

感動する美味しさなので、ぜひ試してほしいが、試食もできないまま16万円以上の高い炊飯器を購入するのは、躊躇する方も多いのではないだろうか。最近では家電のレンタルサービスも増えてきているので、購入前にそういったサービスを利用するのも選択肢のひとつだ。

(石井 和美 : 家電プロレビュアー)