高校生でもスマートフォンの校内使用を禁じている学校は多いようです*写真はイメージです(写真:y.uemura / PIXTA)

ブラック校則への社会的関心が高まったきっかけ

2017年、大阪府立高校に通う高校生が府を相手に訴訟を起こした。「パーマ・染色・脱色・エクステは禁止する」との校則を根拠に地毛の茶髪を黒く染めるようにくり返し指導され、精神的苦痛を受けたと訴えた。

2021年、原告が21歳になってようやく判決が下った。校則自体に違法性はないものの、生徒が不登校になったのち、学校側が教室に生徒の席を置かなかったり、学級名簿に名前を載せなかったりした行為については学校側の裁量を逸脱して違法だとして、府に33万円の賠償金支払いを命じた。

この訴えは海外メディアでも報じられ、当時大きな波紋を呼んだ。ほかにも、ポニーテール禁止、ツーブロック禁止など、頭髪についての神経質すぎる校則が注目された。下着の色を指定する校則に基づいて下着の目視確認を行うという人権にかかわる事例や、運動中の水飲み禁止など生徒の健康や命にかかわる事例なども報告された。

2019年にはNPO代表らが発起人となり、「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」が発足。6万人を超える署名を文部科学大臣に届けた。2022年には文部科学省が生徒指導提要を12年ぶりに改訂。同年には「こども基本法」も成立しており、子どもたちが意見を表明することも権利として位置づけられた。

子どもたちの人権や命を脅かすブラック校則は即座に撤廃されるべきだ。一方で、学校生活を営むうえでの合理的な校則づくりおよび見直しのプロセス自体を教育活動の一環としてとらえて取り組む事例も増えている。一例として、埼玉県にある西武学園文理中学・高等学校を訪ねた。

「あるとき、校長室に1人の生徒が連れてこられました。くるくるとカーブした頭髪が校則違反なので、授業には参加させないで帰宅させるとのことでした。後日、校内でその生徒が私に駆け寄ってきました。その頭髪は地毛で、授業を受けるため頻繁にストレートパーマをかけなければならないと訴えました」

そう教えてくれたのは、2023年4月から校長に就任したブラジル出身のマルケス ペドロさんだ。

「見てください。私の髪の毛もくるくるしています。私たちは多様な人々が共存できる社会を目指しているはずです。それで一回、校則をゼロにしようと決めました。

いまは私服での通学が認められています。式典など正装が必要な日には制服を着てもらいます。髪型も自由です。運動などの支障にならなければピアスもかまいません。

ルールを否定したいんじゃありません。学校をカオスにしたいわけでもありません。ルールのつくり方を学ぶ学校にしたいと思ったのです」

まず取り組んだのは「スマホ校則改正プロジェクト」だ。それまで、校内でのスマホ使用は禁止だった。いまでは一定のルールの中で、校内でのスマホ利用が認められている。プロジェクトの中心メンバーだった池田大空さん(高3)と古田一成さん(高3)と相原知紗さん(高2)に話を聞いた。

生徒が教員一人一人にヒアリングを行う狙い

池田 いくら生徒たちがルールをつくるといったって、しょせん、最終的には大人の承認が必要なんです。学校は生徒たちの生活の場であるとともに、大人たちにとっては仕事の場です。生徒が好き放題して大人の仕事を間接的にでも増やしたら、大人は絶対イエスとは言わない。それは間違いない。

おおた 現実的ですね。

池田 2023年4月にペドロ校長先生からお話をいただいて、実働が5月から。手分けして、生徒や保護者に対してはアンケートを行いました。教員に対しては一人一人ヒアリングを行いました。ヒアリングというより、説得の意味合いもありました。

おおた 反対されるポイントがわかれば、それに対する打ち手を用意することができますからね。そこは丁寧に聴き取ったわけですね。

ペドロ 私がやりたかったのはそこです。問題解決のためにたくさん情報を集めて、どこが足りないか、それをどう補うかを考えるということです。スマホについてそれは何でした? 具体的にいちばんの反対の意見は何だった? 

池田 授業中の使用と盗撮の心配でした。

おおた そこにはどう対処しましたか?

ペドロ 授業中は使えない。盗撮は結構厳しめな生徒指導。犯罪扱いになる。それをみんなに見せるわけね。みんなそれをわかってたらOKってことでしょ。

おおた 学校の中のことであっても、盗撮については容赦なく警察に突き出すぞっていう感じ?

池田 とは書いてないですけど、それを示唆するような。

おおた 仲間であってもそこは毅然とした態度をとるぞと。

たくさんのデータを集めて議論。でも定例会は開かない

池田 さらに、ここにいる相原が、他校での事例も調べてくれました。これらのデータをもとに、1カ月くらいでガイドラインの素案はできたんですが、それに対する教員側からの回答をもらうまでに3カ月かかりました。

おおた ちょっとイラッとするぞ、みたいな?

ペドロ いろんなひとが関わると、プロセスに長い時間がかかることがわかったんじゃないですか?

池田 待たされた時間の長さ以上に、どういう議論に時間がかかっているのかがこちら側に見えてこないという点が、不審という言葉は使いませんが、いつ返事がもらえるのかもわからないなかで、不安でした。

先生たちは、生徒の前では前向きなことを言うに決まってるんです。でも裏で、僕らのことをどう言っているのかは結構気になっていました。


西武学園文理中学・高等学校(写真・編集部撮影)

おおた 2学期になってようやく返事が来て、保護者にも発表して、正式にガイドラインが認められたわけですね。いろんなアンケートやデータを集めたということですが、それをもとにしてどうやって議論を重ねたのかが気になるのですが。

池田 生徒や保護者が誰でもアクセスできる校内SNSでデータを公開して、オープンな議論を呼びかけました。リアルな場でひざを突き合わせて議論したのは2回だけです。個人的には定期的に集まるようなプロジェクトって最悪だと思っていて。

おおた どういう意味で?

池田 定期的に集まるようになると、何が起こるかっていうと、きっと、次に何を議論しようかということを考え始めると思うんですね。順序が逆になっちゃうんですよ。

おおた 素晴らしい!

ペドロ うっ! 耳が痛いなぁ。学校って定例の会議、いっぱいあるからねぇ。

校則見直しの全国大会に出場した狙いは?

おおた 生徒や保護者へのアンケートや、教員へのヒアリングで、スマホを解禁することへの懸念が具体的にわかったわけですよね。その懸念を一つ一つつぶしていけばいいというのはわかります。でもそれを1つのガイドラインにまとめあげる作業は、なかなか複雑なプロセスだと思うのですが、どうやってみんなの意見をまとめたのですか? 最後は「えいやっ!」って結構力業ですか?

池田 そうですね。最後は結構パワープレイでした。


おおた なるほど。それで現在問題は生じていませんか?

古田 スクールバスを降りてから昇降口に行くまでの道のりで、歩きスマホが問題になっています。

おおた 校地が広いですからね。

古田 校内に注意喚起のポスターを掲出するなどの活動を始めようとしています。また、僕はICT運用委員会にも所属しているので、まずはそのメンバーで、スマホを扱っていく生徒の代表者である立場の意識を高めていこうみたいな話をしています。

おおた スマホ校則改正プロジェクトの活動報告動画は「カタリバ」というNPOがやっている「ルールメイキング・サミット」で推薦作品にも選ばれていますよね。あのイベントに参加した狙いはなんだったのでしょうか。

池田 既成事実化です。「対外的に発表されて、これだけ評価もされているのに、学校ではまだ執行されていないんですか?」という圧力に利用できると考えました。

古田 ルールメイキング・サミットに参加することで、校則見直しに携わっている他校の生徒たちと情報交換ができたこともよかったと思っています。

【続き】義務教育段階で制服を着ないのはアリなのか? 生徒主導の「校則見直し」西武文理の場合ー後編

(おおたとしまさ : 教育ジャーナリスト)