三浦春馬さん

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「世界は三浦春馬であふれている」と書かれたポスター

 俳優の三浦春馬さんが東京都内の自宅マンションで首をつり、30歳の若さでこの世を去ったのは2020年7月18日。悲劇から4年がたったわけだが、現在、三浦さんの名は妙な「使われ方」をしている。なぜか「陰謀論」のシンボルになっているのだ。【前後編の前編】

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【レア写真】サーフボードを片手に少年のような笑顔を見せる三浦春馬さん

 芸能人などが急死すると、多くのファンが喪失感に苛まれるのは昔も今も同じである。古くは猟銃自殺を遂げた俳優の田宮二郎さんやアイドル歌手だった岡田有希子さん、1990年代以降では歌手の尾崎豊さんや「X JAPAN」のhideさん。ここ数年では、俳優の三浦春馬さん、女優の竹内結子さん、歌手の神田沙也加さんなどの名前が挙げられよう。しかし、死の真相を巡ってデモまで繰り広げられるのは、三浦春馬さんをおいて他にはいまい。

三浦春馬さん

 今月7日に投開票が行われた東京都知事選挙でも三浦さんを巡って奇妙な騒動が起こった。一部のポスター掲示板の「NHKから国民を守る党」の枠に、三浦さんの似顔絵とともに「世界は三浦春馬であふれてる」と書かれたポスターが貼られたのだ。これを受け、三浦さんの所属事務所「アミューズ」は、

「当社は東京都選挙管理委員会に対し抗議しております。このような事態に当社は強い憤りを覚えており、またご遺族も大変心を痛めております」

問題になった選挙ポスター

 との声明を発表した。

「三浦春馬さんのファンは3種類」

 問題のポスターを貼ったのは、「春活channel」なるYouTubeチャンネルを運営する人物である。

「三浦さんのファンは3種類に分けられます。普通のファン、熱狂的なファン、そしていずれとも違う、陰謀論に固執している人たちです。『三浦春馬陰謀論』を訴える人にはいくつかのグループがありますが、今回ポスターを貼った人はどこにも属さずに活動している人だと聞きました」

 そう語るのは、宗教ジャーナリストで「三浦春馬陰謀論」についても取材している藤倉善郎氏である。

「22年5月に新宿駅と警視庁前で行われたデモを取材したのですが、参加者は中高年の女性ばかり。彼女たちの主張は、三浦さんは自殺ではなく殺されたんだ、というものです。シュプレヒコールでは、“自殺じゃないぞ〜”“不審死事件だぞ〜”と言うにとどめているものの、スピーチの際は、マイクを持った人が“やつらに殺されたに違いありません”と我慢できずに言ってしまうこともあります」

問題になった選挙ポスター

“やつら”は大抵の場合、アミューズを指す。何とも荒唐無稽な主張なのである。

「彼女たちはアミューズやメディア、警察がいかに隠し事をしているのかを訴え、自分たちだけが真実に気付いている、と考えている。典型的な陰謀論です」

 と藤倉氏が続けて話す。

「例えば、亡くなる直前に収録されたドラマの時の顔色が悪いと主張し、写真をキャプチャーしてプラカードにしたり……。陰謀論の話ばかりで、三浦さんがいかに素晴らしい俳優かといったアピールは全くない。本来のファンからしたら、あれは私たちとは何の関係もありませんから、と言いたいくらいだと思います」

陰謀論を主張するデモの様子(藤倉氏提供)

「普通のファンは…」

 三浦さんのサーフィンの師匠で、現在も三浦さんのファンと交流している「茨城元気計画」代表の卯都木睦(うつぎあつし)氏は、

「普通のファンは、陰謀論を訴えてデモに参加するファンと一緒にされるのを一番嫌がっています。デモなどの影響で“自分が三浦春馬のファンだって人に言えない”と話している人もいました。ファンの間で“あの人をデモの会場で見かけた”などと情報共有し、そうした人と距離を置く人も多い」

 三浦さんの死後、毎号のように三浦さんの特集記事を掲載してきた月刊誌「創(つくる)」の篠田博之編集長もこう話す。

「三浦さんの死についてはいまだに受け止められないというファンも多く、事務所の発表に納得できないという人や、『他殺説』を唱える人たちもいました。そのあたりはファンの間でも受け止め方はまちまちで、今でもアミューズの株主総会の時に会場近くで真相解明を求めるビラをまいているグループもあるようです。ファンの中で多数派ではないと思いますが」

もはやオカルト?

 三浦さんのファンは「春友」と呼ばれる。「創」が「春友」をターゲットにした記事を連続して掲載していることについては、

「4年間続けていることに対して“なぜ”という声が寄せられることもあります。ただ誌面の大半は冤罪の問題など元々の「創」らしい記事ですから、読者には理解してもらえていると思います。困っている人たちに寄り添うというのも「創」の方針ですから」

「創」は20年11月号以降、表紙まで三浦さんの絵になった。また、記事の中には〈ある春友さんの霊能者体験談〉といったものや、〈彼が天国からインスタライブしたら〉として、三浦さんからの“メッセージ”を長々と掲載したり……。もはや「オカルト」ではないのかと思わせられるものも多い。だが篠田氏は、

「オカルトとは違います。ファンの中にも三浦さんについていろいろな空想を働かせる人もいて、その延長に過ぎません」

 と、強弁する。

「有名人が亡くなってファンがずっと悲しむ例は他にもありますが、三浦さんの場合は、それまでファンでなかった人も巻き込み、影響の大きさや持続性を考えれば一つの社会現象といえます。しかも喪失感に襲われたのが、子供が自立し、コロナ禍の中でこれからの自分の人生について模索していた主に60〜70代の女性という明らかな特徴があるのですね」

 後編「三浦春馬さんはなぜ『陰謀論のシンボル』にされたのか 他の陰謀論と毛色が違うポイントも」では、三浦さんの死を巡る陰謀論がQアノンなどの組織と結びついていった経緯について、専門家の分析を紹介している。

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(相談窓口)

・日本いのちの電話連盟
電話 0570-783-556(午前10時〜午後10時)
https://www.inochinodenwa.org/

・よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)
電話 0120-279-338(24時間対応。岩手県・宮城県・福島県からは末尾が226)
https://www.since2011.net/yorisoi/

・厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」やSNS相談
電話0570-064-556(対応時間は自治体により異なる)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_info.html

・いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)
https://jscp.or.jp/soudan/index.html

「週刊新潮」2024年7月18日号 掲載