都知事選情勢調査「蓮舫、小池に肉薄」のデタラメ「石丸2位当予測はNHKだけ」…いい加減データを報じた新聞テレビに反省なし

写真拡大

 7月7日投開票の東京都知事選は現職・小池百合子氏の圧勝で終わった。しかし選挙期間中に各メディアが実施した世論調査を巡っては「デタラメ」ともとれる報道が相次いだ。例えば、TBSは<小池百合子氏がやや先行><蓮舫氏が追い上げ><石丸伸二氏が続く展開>と報じていたが、40万票近く離れた2位と3位も正しく分析できてないところか、小池氏の圧倒的リードすらも把握できていなかった。作家で元プレジデント編集長の小倉健一氏が問題点を解説するーー。

蓮舫氏3位を選挙期間中に示唆していたのは、経済アナリスト・佐藤健太氏のみ

 開票結果がでて、もう忘れてしまった人も多いのかもしれないが、私は、一つ、どうしても拭い切れない違和感をいまだに持っている。それは、都知事選の始まる前、序盤、中盤、終盤と折につけ発表された都知事選、各新聞・民法、NHKの情勢調査のことだ。

 私の記憶する限り、蓮舫氏が3位になることを選挙期間中に示唆していたのは、経済アナリストの佐藤健太氏のみだ。実際、どんな予測がされていたかを振り返ってみたい。

 まずは投開票の結果だ。数字はすべて(%)。

小池百合子 42.8(2,918,015票)

蓮舫 18.8(1,283,262票)

石丸伸二 24.3(1,658,363票)

NHKはしっかり調査できていた

 小池氏は蓮舫氏の2倍の得票をとっており、また、蓮舫氏は3位と予測されていた石丸氏にも票差で25%もつけられ惨敗を喫している。

 まずおおよそ当たっていたメディアから。NHKだ。<NHKが選挙期間中の9日間、東京都内の29か所から30か所の投票所で期日前投票を済ませた有権者2万1112人を対象に行った調査では、小池氏が石丸伸二氏や蓮舫氏らほかの候補を上回りました><また、日ごとの結果を見ても調査した9日間すべてで小池氏が、ほかの候補者を上回りました>(NHK首都圏ナビ『東京都知事選挙 2024 開票結果は 投票率 都政への評価と今後は』7月7日)と大規模な調査をしていることがうかがえる。同記事に掲載されたた図(https://www.nhk.or.jp/shutoken/articles/101/008/00/images/e54268dc-87f6-4072-b829-3c25b9db5886.jpg)をみると、石丸氏が蓮舫氏を選挙期間を通じて上回っていることがわかる。

NHKはさすがだが「これって受信料の正しい使い道なの?」

 NHK選挙班が予測したされる票読み、フライデーデジタル(7月3日)によれば<6月30日(日)までの期日前投票のデータとしてNHKが算出したとされる数字では『小池45 石丸25 蓮舫20』>であった。

 NHKは投票前にかなり正確な予測ができていたということになる。「さすがはNHK!」と言いたいところだが、数時間経てば結果が明らかになるであろう選挙にここまで膨大なコスト(有権者2万1112人に対面での聞き取り調査)を注ぎ込むのは「あり」なのだろうかといった疑問が残る。私たちの受信料……嗚呼。

 次に「正解」に近かったのは、読売・日テレだ。<6月28~30日、都内の有権者を対象に、無作為に作成した番号に電話をかける方法で実施した。有権者の在住が判明した1283世帯で、743人から回答を得た。回答率は58%>という調査をした。その実数値についてはフライデーデジタル(7月3日)が<日テレの調査とされる『小池43 蓮舫19 石丸16』という数字が実態に近いと感じる>と報じている。この数値は、筆者が手に入れた数字とも合致する。

 小池氏の得票率、蓮舫氏の得票率では正解だったが、石丸氏の得票率は大きく外れてしまっている。ただし、記事では<小池百合子氏(71)が先行><蓮舫氏(56)、広島県安芸高田市前市長の石丸伸二氏(41)が追う展開>となっており、記述に間違いはなかった。2位、3位が3ポイント差ではこの書き方は適切という判断なのであろうし、その判断は正しかったことになる。

NHK、読売以外は「メチャクチャ」なことを報じていた

 次からがめちゃくちゃになってくる。

<電話調査は毎日新聞、東京新聞、TBS、東京MXテレビ、フジテレビ、共同通信の6社が合同で、東京都の有権者を対象に実施。固定電話で523人、携帯電話で515人の有効回答を得た>という6月29、30日に実施された調査だ。日経新聞はこの調査に参加していない模様だが、紙面(6月30日)では<共同通信社は29、30の両日、東京都知事選の電話調査を実施し、取材を加味して情勢を探った>としている。

 各新聞は、<取材結果も加味して中盤情勢を分析した>のだという。

 記事中の書き方については、以下だ。

共同通信の調査であるが、あまりにも結果とかけ離れた調査となった

共同通信

<小池百合子氏(71)が一歩リード><蓮舫氏(56)が続き><石丸伸二氏(41)が激しく追い上げる展開>

TBS(毎日新聞)

<小池百合子氏がやや先行><蓮舫氏が追い上げ><石丸伸二氏が続く展開>

東京新聞

<小池百合子氏(71)がややリード><蓮舫氏(56)が続き><石丸伸二氏(41)が追う展開>

フジテレビ(産経)

<小池百合子氏(71)が一歩リード><蓮舫氏(56)が続き><石丸伸二氏(41)が激しく追い上げている>

 このあたり、選挙情勢における用語使いを知っておく必要がある。Webサイト「政治山」の画像(https://seijiyama.jp/wp-content/uploads/2014/12/senkyojosei1.jpg)などを参考にすると良い。この図を補足するならば、「追う」と「続く」はほぼ同義だが、石丸氏情勢の説明に「追い上げる」という言葉を用いたために、表現のかぶりを避け「続く」としているわけだ。

 この共同通信の調査であるが、あまりにも結果とかけ離れた調査となった。小池氏の圧勝を予測できず、石丸氏の人気も捉えられることができない。もっとも酷いのは蓮舫氏で、この書きぶりから3位となることは決して読み取れない。

 ここまで結果と違う調査の公開は、害悪でしかない。筆者の印象として、「NHKは正確」、読売新聞に「間違いはない」、共同通信と一緒に調査した各メディアは「ハズレすぎ」という感じだ。

一体何のためにこんなデタラメな調査をしているのか

 ちなみに、8年前の情勢調査を読み返すと<毎日新聞(16年7月25日) 元防衛相の小池百合子氏(64)がリードする展開で、元総務相の増田寛也氏(64)とジャーナリストの鳥越俊太郎氏(76)が追う。ただ、3割以上が投票先を決めておらず情勢はなお流動的だ>となっており、こちらは今回の読売ぐらいの誤差で報じている。

 歴史的に見ても、新聞の序盤や中盤における情勢調査の精度は、それほど高くないことが多かった。このような調査は、新聞記事のスペースを埋めるためのもの(いわゆる「埋め草」)としての役割を果たしていたのではないだろうか。新聞の電話調査では、その精度には限界があったのが否めない。

 さらに現在においては、こうした報道は、新聞社や報道機関はオンライン上でのページビュー(PV)を稼ぐことが主要な目的となっているように見受けられる。この変化により、情報の信頼性や正確性よりも、いかに多くの読者を引き付けるかが重視されるようになっている。

世論調査と選挙結果と大きく乖離「真摯に反省を」

 共同通信を中心とした「各社共同での調査」に関しても、各新聞社が独自の調査を行わず、共同調査の結果に依存している点から、その熱意や真剣さが感じられない。これは、各社がコスト削減や効率化を優先していることの表れであり、結果として得られるデータの質が低下に対して、関心を払っていないのではないか。

 結局のところ、実際の選挙結果に近いデータを得るためには、期日前投票や投票日当日に投票所の前で待ち構え、有権者に対してどこに投票したかを直接尋ねるなど、徹底した調査が必要である。これによって初めて、選挙結果の実数に近づくことが可能となる。しかし、現実にはこのような調査を行うことは多くの労力とコストがかかるため、投票日当日を除いて(NHK以外で)実施されることは少ない。

 今回、世論調査の結果が実際の選挙結果と大きく乖離してしまったことを真摯に反省し、その原因をきちんと総括する必要がある。この反省を踏まえた上で、読売新聞の方法論が比較的優れているとされるが、それでもなお修正が必要である。特に、期日前投票に関する取材を徹底的に行い、より正確なデータを収集することが求められる。