疲れているからといって寝てばかりいると、体のあちこちに悪影響が…(写真:buritora/PIXTA)

休養とは「寝ること」だと思っていませんか?

疲労研究の第一人者で医学博士の片野秀樹氏によれば、単に体を休めるだけでは50%程度しか疲れはとれません。フル充電するには、あえて自分に軽い負荷を与え、「活動→疲労→休養」というサイクルに「活力」を加えた「攻めの休養」をとることが大切です。

寝すぎることが疲労回復の妨げになるのはなぜか。片野氏がこのほど上梓した『休養学:あなたを疲れから救う』より抜粋・編集してお届けします。

体の機能がどんどん低下

上手な休養のためには「寝すぎない」ことを意識する必要もあります。

理由は2つあります。まず、必要な睡眠時間は人によってまちまちです。睡眠の長さは時間で計ることができますから、平均を出そうと思えば「6時間」とか「8時間」などと算出することが可能です。OECDのデータによると、日本人の睡眠時間はだいたい7時間ちょっとという平均値が出ています。


しかしそれはあくまで平均値にすぎません。3時間睡眠で十分な人がいる一方で、できれば10時間寝たい人もいます。逆に3時間で十分な人が、10時間寝ようとしてもストレスになるばかりでしょう。

疲れているからといって寝てばかりいるのがよくない理由の2つめは、休んでばかりいると体の機能が衰えてくることです。つねに適度に動かしていないと、能力がだんだん下がっていきます。

「ベッドレスト」という言葉があります。いわゆる安静にしている状態を指し、横になっているけれど眠っているわけではなく、横になって休養をとっている、寝転がるという意味です。

入院しているときなどがまさにこの状態にあたります。食事ももってきてもらえるし、場合によってはトイレにすら行かなくてもいい。体の内部で生理的な活動をおこなっているけれども、生活上の活動はほぼ止まっている状態です。

ベッドレストの状態が必要以上に長引くと、体の機能はどんどん低下します。

実はたった1日、寝て過ごすだけでも、骨格筋という体を動かす筋肉の中の筋タンパクがおよそ0.5〜1%減少するというデータがあります。

筋肉量は20歳くらいがピークで加齢とともに下がっていき、70歳くらいでおよそ6割に減少します。若さや元気を保つためには体を動かしたほうが体力を維持できます。現代人は、仕事中はどうしても座っていることが多くなります。自分の体力をなるべく高い位置に保つには、休日は体を動かすことを心がけてください。

睡眠と自律神経

自律神経を整える意味でも、寝過ぎはよくありません。自律神経は交感神経と副交感神経の2種類があり、昼と夜の交代制ではたらきます。

1日24時間を、昼と夜の2つにわけてみましょう。朝6時から夕方の6時までが昼間、夕方の6時から朝6時までを夜間とすると、昼間は交感神経が優位の時間帯です。

朝、目が覚めるのは交感神経が優位になり、コルチゾールという興奮系のホルモン物質が分泌されるから。おかげで血圧も少しずつ高くなってはっきりと目が覚めシャキッと活動できるようになります。お昼ごろは活動に最適な体調になって、考える速度や動作の速度が最高に速くなります。体温も1日でいちばん高い状態です。

夕方を迎えると、交感神経から副交感神経にスイッチします。徐々に睡眠誘発ホルモンであるメラトニンが脳の松果体というところから出て、体の深部体温が1.5度〜1度下がると眠くなってきます。睡眠中、副交感神経がしっかりはたらくと、性ホルモンや成長ホルモンなどが盛んに分泌されます。体温は朝方に一日の中で最低になります。

そして再び朝になります。このように私たちの体は1日のサイクルを刻んでいるわけです。生物としてのリズムに反した生活をしていると、当然疲れやすくなり、自律神経も乱れて、負のスパイラルに突入してしまいます。

自律神経がはたらくサーカディアンリズムに沿って、規則正しい生活を送ることが自律神経を整えることになります。これが活力を高める第一歩です。

睡眠のリズムを整える3つの方法

中には「よく眠れない」という人もいるかと思います。

いったん睡眠のリズムが狂うと、なかなか寝つけなかったり、昼間に眠気が襲ってきたりと、思いどおりにならないものです。

しかし、調整する方法がないわけではありません。現在、医療で使われている睡眠薬には大きく分けて恒常性調節系、覚醒調節系、体内時計系の3種類があります(図表)。


(出典:『休養学』)

それぞれの薬が体のどこにどんなふうに作用するかという効き方を知れば、薬を飲まなくても、どうすれば眠りにつきやすくなるか、自分の場合は何が安眠を妨げているのかが理解できるようになるでしょう。

まずは「恒常性調節系」とでもいうべき方法です。恒常性調節系という名称は、人間は眠くなったら寝るのが恒常的なサイクルなので、そこからついたのでしょう。

興奮して寝つけない人にはGABAという気持ちを落ち着かせる神経伝達物質を処方して、「もっとリラックスして、落ち着いてゆっくりお休みなさい」と働きかけて、恒常性をとりもどそうとする方法です。最近、チョコレートやガムにGABAが入っている商品をよく見かけますね。
   
 要は、薬を飲まなくても気持ちが落ち着くようにすればいいわけです。「興奮して寝られないことが多い」という自覚のある人は、寝る前に交感神経を刺激するようなことは避け、副交感神経を高める工夫をするといいでしょう。

(片野 秀樹 : 博士(医学)、日本リカバリー協会代表理事)