TU Delft OPEN PublishingやMIT Pressなどの学術論文掲載サービスでは、何万ものプレプリントおよび査読済み論文が掲載されています。しかし、近年の研究で、査読済み論文の掲載割合が減少傾向にあることが確認されています。この要因について、ソフトウェアエンジニアのダニエル・ビンガム氏が解説しています。

Why isn’t Preprint Review Being Adopted? | The Road Goes On, Thoughts and Essays by Daniel Bingham

https://www.theroadgoeson.com/why-isnt-preprint-review-being-adopted



学術論文掲載サービスにおいて査読済み論文の掲載数が減少傾向にあることは、ハワード・ヒューズ医学研究所のミケーレ・アヴィサール・ホワイティング氏らの論文によって示されています。

arXivのようなプレプリントサーバーでは、査読が実施されていない論文の掲載数が右肩上がりに上昇しており、ビンガム氏によると、2023年のarXivでは年間2万本もの論文が掲載されているとのこと。以下は、arxivに掲載された論文の種類と総数を示したグラフです。2021年の時点で、年間18万本もの論文がサーバーに掲載されていることがわかります。



一方で、査読済み論文の数と増加率を示した表が以下のもので、本数自体は着実に増えているものの、増加率は伸び悩んでいることがわかります。

年査読済み論文の数査読済み論文の前年比増加率201723-201853130%2019317498%2020875176%2021169894%2022270459%2023314416%

これらのサービスでは、一般的な査読方法である「複数人の査読者が論文を査読する」方法に加え、クラウドソーシングによる査読を導入しているものもあります。しかし、それでも査読済み論文の掲載割合が増加しない要因についてビンガム氏は自身の見解を述べています。

・学者には査読を実施する余裕がない

基本的に査読は、今後の自身の論文を評価してもらう代わりに相手の論文を評価する「暗黙の利益交換」を含んだ個人的な関係の下で実施されます。そのため、相手が自分の論文に評価してくれるかわからないクラウドソーシング方式での査読では、査読者がなかなか集まりません。



・査読を行うことによる負担

arXivのようなプレプリントサーバーは、自身の論文を査読なしに投稿することで、より早く研究仲間やコミュニティに研究成果を共有することが可能です。そのため、査読済み論文を掲載したことによって得られる名声は少ないものの、査読というプロセスを省くことで時間やリソースを浪費せずにプレプリントを掲載することができるというわけです。

一般的な学術論文掲載サービスで査読済み論文を掲載するには、プラットフォームにアクセスして、プレプリントを提出する方法を理解、査読を希望するプレプリントを提出する、査読が終わるのを待つといった手間がかかります。一部の学術論文掲載サービスでは、このプロセスを簡略化していますが、それでも投稿者には大きな負担がかかってしまいます。



ビンガム氏はこれらの状況に対し、「プレプリントと査読済み論文を掲載フローに直接統合した新しいプラットフォームを構築する必要があります」と提言しています。ビンガム氏は、学術論文掲載サービスにプレプリントを投稿した後、主に学者からなる編集チームが査読を実施。その後査読済み論文を同じサービスに掲載する、ワンクリックで掲載ワークフローに自身の論文を追加できる仕組みの導入を求めました。