中長期経営計画の会見に登壇した堀場弾氏。「将来の社長就任は既定路線」と見る向きが強い(記者撮影)

分析機器メーカー大手の堀場製作所。世界シェア約8割を握る自動車のエンジン排ガス測定装置など自動車関連が看板事業だ。日本の小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星「リュウグウ」の石や砂の化学分析に参加したことでも知られる。

同社の株価はこの1年で急騰している。1年前の7500円前後から足元は1万5000円超と約2倍に。2月は月間で2割上昇し、とくに2月15日は前日比16.8%となる2190円も上昇した。理由は前日に発表した中長期経営計画にあったようだ。


2028年12月期までの今後5年で売上高4500億円、営業利益800億円を目指す。2023年12月期比で売り上げは約1.5倍、営業利益は同約1.7倍にする計画だ。ただ、数値目標のほかにも注目すべき点があった。

計画の「リーダー」は会長の息子

1つは「リーダー」として計画をまとめたのが堀場弾常務執行役員(44)であること。創業家として3代目社長を26年間務めた堀場厚会長(76)の息子だ。

厚氏の後任となった足立正之現社長(61)は、2016年公表の中長期経営計画でリーダーを務めた後に社長に就任した。それだけに弾氏のリーダー起用は目を引く。

弾氏は2004年入社。2008年にアメリカ子会社に出向し、以降はアメリカ子会社社長、水・液体計測分野のサービスを手がける堀場アドバンスドテクノ社長を歴任。2023年からは半導体関連子会社の堀場エステックの社長も務める。2020年からはグループの常務執行役員だ。

社歴は長いものの、新中計の発表に当たって報道陣の前に初めて姿を見せた弾氏。自身が中心となって設定した計画について、次のように力を込めて語った。

「アメリカ子会社やグループの経営を通じ、堀場のポテンシャルは非常に高いと感じている。よりグローバルで『ホリバリアン』(従業員)の能力を生かすことができないかと考え抜いた計画だ」

新中計のもう1つの注目点は、これまでの投資がついに実を結ぶと期待させる中身だったことだ。

看板事業の自動車関連では、自動車の開発やEV(電気自動車)・燃料電池車の試験領域が本格的な収益貢献を始めそうだ。

買収事業がようやく利益貢献

堀場製作所は2015年にイギリスのマイラ社の事業を約8300万ポンド(当時の為替レートで約155億円)で取得、車両開発や走行試験施設の運営を始めた。2018年にはドイツのフューエルコン社を買収、EV用電池や燃料電池の試験装置開発に参入した。

買収を駆使して自動車関連の事業を充実させてきたが、これら新領域での人員確保や生産ラインの増加など先行投資がかさみ、近年の同事業は利益が出にくい状況にあった。2017年にはマイラ社ののれん減損にかかる23億円の減損損失も計上している。

だが2024年には、設備投資で製造能力を3倍にしたフューエルコンの設備が貢献し、水素関連やバッテリーの試験装置の出荷が急増する。新領域が本格的に利益貢献を始める見込みだ。車両開発もEVなど次世代自動車を中心に伸びており、これらが新中計での成長を牽引する。

他方、半導体関連も成長を加速させる。主力製品は「マスフローコントローラー」と呼ばれるガスなどの流体の流量・質量を計測・制御するための小型装置だ。


堀場製作所のマスフローコントローラー(記者撮影)

半導体材料のウェハーを削るエッチング装置など、半導体製造装置に組み込まれている。堀場製作所によれば世界シェアは60%を誇る。半導体製造の設備投資需要が高まる局面でマスフローコントローラーの需要も拡大する。

実際、近年の半導体活況を追い風に半導体関連事業の営業利益は3年前の2.9倍へと拡大。2023年12月期は全社営業利益の86%を同事業で稼ぎ、3期連続での過去最高営業利益の更新に導いた。

半導体市場は搭載点数が増えるEV向けやAIの高度化により今後も拡大していく。堀場製作所は同社史上最大の投資額となる170億円を投じて京都・福知山に半導体向け装置の新工場を建設する。さらに出荷量を増やし需要増に応える。

半導体の製造工程は多岐にわたるが、装置やサービスを展開できる工程を増やすことでも成長を加速させる狙いだ。

新中計ではほかにも、バイオ・医療分野での新事業創出などもうたう。計画通りに進めば、期間中にはこれまでにない速度で事業規模が拡大することになる。

弾氏も口にしたように、堀場製作所はグループの従業員を「ホリバリアン」と呼び、ファミリーの一員と見なしている。創業者の雅夫氏が残した「おもしろおかしく」を社是とし、これを実現できる環境を自社の強みと見なし追求する。

心からおもしろいと感じられる仕事に取り組む中で独創的な技術が生まれ、それが会社の強みになると考える。柔軟で風通しよくあることも重視しており、従業員同士の交流機会が多いことでも知られる。

弾氏は経営力を試される期間

現在、利益柱となっている半導体向けのマスフローコントローラーも、元は大気汚染分析関連の機械を横展開したことから始まった。独自の技術を柔軟な発想で事業化した典型例だ。

独自技術を需要に合わせてすばやく応用できるのが堀場製作所の特徴で、社風自体が成長の源泉ともいえる。事業規模が拡大するにつれて、国内外で子会社や従業員が増える。その中でもユニークな企業文化を守れるかが新中計推進のカギといえそうだ。

新中計のリーダーである弾氏にとっては、計画の実行力やグループ全体を束ねる経営力を試される期間となる。主要子会社の社長を歴任するなどほかの社員とは異なるキャリアを積み重ねていることなどから、弾氏の将来的な社長就任は「既定路線」と見る向きが強い。

創業家社長候補らしい課題が課せられている。

(吉野 月華 : 東洋経済 記者)