BYDは「仰望U9」の発売によりスーパーカー市場に参入、大衆車メーカーのイメージ刷新をもくろむ(写真は仰望ブランドのウェブサイトより)

中国のEV(電気自動車)最大手の比亜迪(BYD)は2月25日、超高級車に特化した新ブランド「仰望(ヤンワン)」の第2号モデルとなるスポーツカー「U9」を発表した。メーカー希望価格は168万元(約3513万円)からと、BYDの製品ラインナップのなかで飛び抜けて高価なクルマだ。

同社はもともとエントリークラスからミドルクラスのEVおよびPHV(プラグインハイブリッド車)を得意とし、競合メーカーを圧倒する価格性能比の高さで市場シェアを拡大。過去数年で中国市場におけるトップメーカーの地位を固めた。

とはいえ、BYD車の価格は大部分が30万元(約627万円)以下で、利益率が高いとは言えない。そんななか、同社は(利益率の改善を目指して)より高級なクルマの開発に力を入れており、そのイメージリーダーとなる新ブランドの仰望を立ち上げた。

ライバルはポルシェやベンツ

仰望は、販売価格が100万元(約2091万円)を超える超高級車の市場にターゲットを絞っている。2023年11月に発売した第1号モデルの「U8」はSUVタイプのPHVで、メーカー希望価格は109万8000元(約2296万円)からだ。

BYDが2月に公表したデータによれば、U8の1月の月間販売台数は1652台。発売後の累計販売台数は3653台に上り、この価格帯のクルマとしては好調な売れ行きを見せている。

中国市場で販売されている高級SUVのなかで、販売価格が100万元を超えるモデルは多くない。U8の競合車種としてはドイツのポルシェ「カイエン」、メルセデス・ベンツ「GLS」、イギリスのランドローバー「レンジローバー」などがあるが、いずれも伝統的なエンジン車だ。

U8に続いて投入されたU9は(エンジンを搭載しない)純EVのスーパー・スポーツカーであり、価格はU8の1.5倍を超える。

いわゆる「スーパーカー」の分野には、イタリアのマセラティ「グラン・トゥーリズモEV」やイギリスのロータス「エヴァイヤ」などの純EVがすでに存在する。それらの価格は前者が198万8000元(約4157万円)、後者に至っては2000万元(約4億1823万円)を超える。


BYDは電動車の技術力を基盤に、新時代のラグジュアリー・ブランドの創出を目指している。写真は仰望ブランドの第1号モデル「U8」(同ブランドのウェブサイトより)

スーパーカーの市場では、ブランドの認知度とイメージの高さが極めて重要だ。新興ブランドの仰望が成功をつかむには、中国および世界の富裕層に対して独自のブランドイメージを訴求しなければならない。

中国の国海証券は2023年6月に発表した調査レポートのなかで、イタリアの「フェラーリ」を事例にしたスーパーカー・ビジネスの分析を行った。それによれば、フェラーリは自社のブランドイメージ(の維持と向上)を競争力の核心に位置づけている。

1000億円超を投じレース場を建設

フェラーリは、世界的な自動車レースに参戦することでブランドの独自性をアピールし、価格と利益率が極めて高いクルマの販売を可能にしている。それにより得られる分厚いキャッシュフローを新車開発に惜しみなく投入し、競合メーカーと差別化したクルマを世に送り出し続けるという「好循環」を形成していると、国海証券のレポートは述べている。


本記事は「財新」の提供記事です。この連載の一覧はこちら

BYDは、同社が誇る電動車の技術力により、新時代のラグジュアリー・ブランドを創り出せると考えている。とはいえ、スーパーカーという狭き市場で成功するには、(競合ブランドと差別化するための)文化的な要素やレース参戦の実績などをブランドにまとわせることが欠かせない。BYDには、それらにゼロから取り組むことが求められている。

同社の創業者で董事長(会長に相当)を務める王伝福氏は、1月に開催したイベントの際に「自動車レース専用のサーキット施設の建設に50億元(約1046億円)を投じる」と宣言した。BYDはレース場だけでなく、レーシングカーの開発やドライバーの育成などにも投資とサポートを行い、中国における自動車文化の醸成を後押ししていくという。

(財新記者:戚展寧)
※原文の配信は2月26日

(財新 Biz&Tech)