2月初旬の株価急落後、旧村上ファンドがあおぞら銀行の株式を急速に買い増している(記者撮影)

あおぞら銀行がアクティビスト(物言う株主)に狙われている。大量保有報告書によれば、2月27日時点で旧村上ファンド系のシティインデックスイレブンスと野村絢氏の保有比率が計8.9%に達し、筆頭株主に躍り出た。

シティらによる急速な株式取得の背景には、何があるのか。アクティビストに詳しい関係者間でささやかれているのは、「とある銀行」との再編劇だ。

1カ月で急速に買い増し

シティらがあおぞら銀株の取得を始めたのは2月2日。前日に発表された赤字決算を受けて、株価が3年ぶりの安値圏に突入した日だ(経緯はこちら)。

翌日以降も市場内でほぼ毎日買い進め、2月27日までに推計200億円以上を投じている。

急速な買い増しの狙いは何か。典型的なのは、経営改革や株主還元の強化を求めて経営陣と対話をしたり、株主提案を提出したりすることだ。あおぞら銀と同様に、シティおよび野村氏が株式を取得した、石油元売り大手のコスモエネルギーホールディングスはその好例だ。

シティらは2022年4月に大量保有報告書を提出後、コスモ経営陣と対話を繰り返すが平行線をたどる。その後コスモ株を約20%まで買い増し、役員選任をめぐって会社側と激戦を繰り広げた。株主総会では会社提案が可決され、シティらは2023年末に持ち株を岩谷産業に売却し、手仕舞いした。

シティらによるあおぞら銀株の取得スピードは、コスモ株よりも速い。「投資及び状況に応じて経営陣への助言、重要提案行為を行う」という保有目的も同じだ。だが、あおぞら銀はコスモなど過去の投資先企業とは異なる事情を抱えている。

1つ目が「銀行法」の壁だ。議決権ベースで20%以上の株式を握るには、金融庁の認可が必須だ。50%超なら銀行持ち株会社に移行する必要があり、難易度は一層高まる。アクティビストが20%のハードルを突破できる可能性は低く、株式の買い増しによる経営権の奪取をちらつかせ、会社側に譲歩を迫る戦略は採りづらい。

自己株取得の余力なし

2つ目が出口戦略だ。例えばジャフコグループは2023年2月、自己株取得によってシティなどが保有していた株式約19%の大部分を買い戻した。買い付け価格にプレミアムを付与して株式を手放させる手法は、アクティビストに狙われた事業会社がしばしば用いる。

ところが、あおぞら銀は前述の赤字決算が原因で、自己株を取得できるほどの財務余力に乏しい。2024年3月末の自己資本比率(CET1比率)は6.6%程度となる見込みで、会社側が規律とする7%を下回る。同行は財務基盤の強化を理由に、今2024年3月期の下期配当を無配としており、アクティビストの保有株を高値で買い取る道理も立たない。

買うにも売るにも壁が立ちはだかる、あおぞら銀への投資。それでも、シティらは株価が反発した2月21日以降も市場内で取得を続けており、現在の株価で売却しても大きなサヤは抜けそうにない。

アクティビストに詳しい関係者は、「当初から第三者への転売が念頭にあるのだろう」と指摘する。買い手候補として名前が上がるのは、SBIホールディングスだ。


SBIHDは2021年12月、新生銀行を子会社化した(撮影:今井康一)

SBIHDは子会社としてSBI新生銀行を抱え、同行が抱える公的資金の返済に追われている。そこであおぞら銀との協業を通じてSBI新生銀の収益力を高め、公的資金返済への道筋をつけるという見立てだ。

SBIHDはSBI新生銀の株式を62.5%保有している。前述した銀行法の20%ルールはおろか50%ルールさえ突破した実績のあるSBIHDなら、将来あおぞら銀をグループに取り込むことも不可能ではない。

過去にも筆頭株主の受け皿に

SBIHDには、筆頭株主から多量の銀行株を引き取った過去がある。2020年、福島県郡山市を地盤とする大東銀行の株式約17%を都内の不動産会社から取得した。

SBIHDの取得理由は表向きこそ純投資だが、自らの地銀連合に組み入れたい意図は明白だった。だが、「大東銀がSBIHDとの連携を頑なに拒んだ」(地銀関係者)ために交渉は進まず、SBIHDは2023年2月に全株を別の事業会社に転売した。

一方、あおぞら銀とSBI新生銀は同じ旧長期信用銀行として”兄弟関係”にあるだけでなく、2009年7月には「合併」で合意もしていた。実現すれば当時の資産規模で国内6位の銀行となるはずだった。

だが、思惑のズレから翌2010年5月に交渉は打ち切られた。2010年3月末時点の自己資本比率は、あおぞら銀の15.2%に対して新生銀(現SBI新生銀)は6.3%。資本の厚いあおぞら銀に主導権を握られることを新生銀が懸念した。

地方銀行との連携を深めたいあおぞら銀と、リテール業務を拡大したい新生銀という路線の違いも浮き彫りになった。


2009年7月、経営統合で合意したあおぞら銀のブライアン・F・プリンス社長(左)と新生銀の八城政基社長(右、ともに当時)(撮影:尾形文繁)

破談から14年が経ち、両行の立ち位置は一変した。あおぞら銀の自己資本比率が6%台にまで落ち込む一方、SBI新生銀は3月に第三者割当増資を行い約10%まで回復する見通しで、主導権は後者に移った。加えてSBI新生銀はリテールのほか、SBIグループが出資する地銀との協業も推進しており、あおぞら銀との相乗効果は当時より生み出しやすくなっている。

村上氏と北尾氏、浅からぬ付き合いも

村上世彰氏と北尾吉孝氏には浅からぬ付き合いがある。2021年にSBIHDが新生銀にTOB(株式公開買い付け)を行った際には、株主だったシティも応募している。2023年9月の非公開化後には、同じく旧村上ファンド系のエスグラントがSBI新生銀の株主として名を連ねる。

関係者によれば、村上氏はSBI新生銀の非公開化に先立ち、株主として残る旨をSBIHDの北尾氏に伝えていたという。あおぞら銀株の取得についても、「すでに村上氏は北尾氏に売却の話を持ちかけている」(市場関係者)と指摘する向きもある。

アクティビストの暗躍によって、メガバンクでも地銀でもない第三勢力の結集となるか。

(一井 純 : 東洋経済 記者)