ネット広告は、すでに生成AIによって「量産」されはじめている(写真:metamorworks/PIXTA)

2023年におけるAIの話題は、もっぱらChatGPTをはじめとする「生成AI」が中心であった。一方で、「生成AI」とよく耳にするが、実際のところビジネスの現場でどう使われているのか、イメージしにくい人も多いのではないだろうか。

本記事では、生成AIがどのようにビジネスを進化させるかを描いた『AIナビゲーター2024年版』より一部を抜粋・再構成のうえ、生成AIが広告業界に与える影響ついて解説する。

ネット広告と非常に相性がいい生成AI

ネット広告は、すでに生成AIによって「量産」されはじめている。


そもそもネット広告には、Yahoo!などのポータルサイトや新聞・雑誌などネットメディアの広告枠を指定して出す「純広告」と、複数のメディアにネット広告を一括で出してくれる「アドネットワーク」などの「運用型広告」があるが、現在は後者が主流になっている。

これには、複数のアドネットワークとメディアを横断して広告枠を買い付けられる「アドエクスチェンジ」というサービスの登場によって、今までは「アドネットワーク単位」か「メディア単位」でしか買い付けられなかった広告枠が、より細かく、適正な価格で手に入れられるようになったことが関係している。

その結果、ネットユーザーが目にする広告は爆発的に増えた。

しかし、ネット広告はユーザーの属性や興味・関心によって「パーソナライズ」されているため、ユーザーに飽きられるまでのサイクルが、極めて短期化している。一度見た広告は、すぐにクリックされにくくなるため、頻繁に「新しい広告との入れ替え」が行われているのだ。

当然、広告制作を今までのように「人手のみ」でやっていては間に合わないため、白羽の矢が立ったのが生成AIという訳だ。

では、インターネット広告会社は、どのように生成AIを活用しているのだろうか?

いくつかの報道で、ChatGPTなどの生成AIの技術によって、すでに広告制作プロセスの大半が自動化されていることが報じられている。これにより、バナー広告やリスティング(検索連動型)広告に代表されるネット広告において、商品・サービスの魅力や特長を端的で分かりやすい文章で表現するキャッチコピーを、大量に自動生成することが可能になっている。加えて、広告映像の編集作業の一部を担うようにもなってきている。

大手インターネット広告会社のサイバーエージェントは、AIの活用にいち早く取り組んできた。

同社はネット広告の効果を予測・最大化する「極予測AI」というサービスを立ち上げ、ユーザーの特性にあわせて配信する広告コンテンツの切り替えが可能な「ターゲティング広告」に広く活用してきた。つまり、AIを活用してユーザーの年齢や性別といった属性情報、興味・関心、広告に使われる画像などを考慮したキャッチコピーの自動生成と効果予測をすでに両立していたということだ。

同社の発表によれば、この極予測AIで効果予測を行って配信したネット広告は、通常よりも広告の効果が1.5倍も向上する事例が出ているとのことである。

同社はそのような効果を得るために、大規模言語モデルを独自に開発している。今までは作りたい広告に関連するデータをその都度収集し、AIに学習させていたが、現在は大規模言語モデルであらゆるデータを学習させておき、僅かな学習でも高品質な結果が出力できるようになっているという。

その極予測AIに満を持して実装されたのが「大規模言語モデルを活用した広告(キャッチ)コピー自動生成」機能である。これは、自社開発した大規模言語モデルとChatGPTのAPIを、既存の広告自動生成システムと組み合わせることにより、ターゲットに合わせたキャッチコピーを生成することを可能にしたものだ。つまり、広告を「効果を予測しながら」制作し、その場で質を高めていけるようになったということである。

バーチャルな営業活動に使われていく

では将来、生成AIは広告会社の業務をどのように変貌させていくのであろうか。

まず考えられるのは、リアルな「人」が担当している営業関連業務が、バーチャルなAIに取って代わられるということである。

現在、営業部門のスタッフが多くの労力を割いているのが、クライアントへの広告の提案、クライアントとの打ち合わせのアポ取り、日程調整などである。これらすべてをAIが完遂してくれるという未来は、すぐそこまで来ている。

それ以上に、コロナ禍でZoomなどのWeb会議が当たり前になり、PCやタブレット端末の画面に向かって会議することへの抵抗感が解消されたため、会議の相手が「人」である必要もなくなってきている。つまり、静止画やアバターに向かって会議することが増えているため、バーチャルなAIと対話することにも抵抗が薄れてきているのだ。

生成AIで提案内容を説明するための文章を作成して、ボーカロイドソフトで読み上げることは今でも簡単にできている。今後は生成AIに簡単なプロンプト(命令)を与えるだけで、クライアントとその提案内容に即したバーチャルな人物やキャラクターなどが生成され、場に応じてベースとなる声色やトーンなどを自動で選択したり、説明に適切な抑揚を付けたりするようになるだろう。キャッチコピーや映像といった「人の感性に訴えかける」商材である広告は、元々バーチャルな営業活動と相性がよいのだ。

生成AI時代における広告会社の商機は2つ

広告会社の業務は今後、大まかに「デジタルシフト」と「コンサルティングシフト」という方向に変革が求められるだろう。

デジタルシフトとは、ネット広告および広告関連システム開発といったデジタル関連業務に加えて、データサイエンスの知見を加味したデータ分析と将来予測業務に、より強く舵を切ることである。

そしてコンサルティングシフトとは、クライアントの経営課題にまで踏み込んだ施策の立案や、広告の成果の先にある売上や利益の確保といった実ビジネスへの貢献活動に、「広告ビジネスの枠を超えて」踏み込んでいくことである。

デジタルシフトに必要な広告会社の機能は、インターネットメディアとのリレーション構築能力と、ネット広告関連システムのインテグレーション能力である。かつてはテレビや新聞、雑誌といったマスメディアとの信頼関係構築に注力していたが、今後はグーグルやYahoo!、メタなどの大手プラットフォーマーの広告エージェント(代理人)としての役割をまっとうすることが、今以上に求められてくるだろう。

そして、コンサルティングシフトとは、データサイエンティストのようなスペシャリストによる高度な分析をもとにした、新規ビジネス開発のようなコンサルテーションである。これまで広告会社は、商品・サービスなどの認知度向上や、利用頻度を高めるためのムーブメントを起こすことを期待されてきた。しかし、今ではネット広告やSNSなどを活用して、自主的に広告やプロモーションを行うクライアントが増えてきている。今後は広告と同時にクライアントの売上・利益の向上や業務改革を実現するといった付加価値を付けないと、ビジネスチャンスは先細る一方だろう。


(広瀬 安彦 : 野村総合研究所 エキスパート研究員)