部下に間違った命令を下して、もう命令しないと誓った著者が実行した新しいリーダーシップとは(写真はイメージ:razihusin/PIXTA)

状況をわかっていないのに「わからない」とは言えず、部下に間違った命令を下したことはないだろうか。自分の間違いが部下の前で露見したとき、あなたならどんな行動を取るだろうか。

突如として米海軍の潜水艦「サンタフェ」の艦長となったマルケ氏も、部下の前で間違いを犯してしまったリーダーだった。そこからマルケ氏は、「命令しない」ことを決断、チームの成果を飛躍的に上昇させた。

なぜそんなことができたのか。マルケ氏の近刊『最後は言い方』から紹介しよう。

私は自分が特別だと思っていた。そう思い始めたのは高校生のときで、まわりの誰よりも優秀な成績を修めたことがきっかけだ。その思いは米海軍兵学校時代も続いた。

何よりも勝つことが大事だった私

海軍兵学校を卒業し、海軍の潜水艦部隊に艦長として配属されると、私はこんなふうに誤解した。


こんなに早く出世できたのだから、私はまわりに比べて観察力や自制心に優れ、責任感が強くて思考力が高く、周囲に気配りができるに違いないと。

認めるのはつらいが、当時の私は、ともに働く人たちよりも仕事ができる(そして単純に優秀である)とかなり本気で思っていた。

私のものの見方が歪んでいると示す兆候はたくさんあった。それらに目を向けなかったことがいまも悔やまれる。

パフォーマンスこそすべてという考えのもと、私は誰も寄せつけない強者の仮面をかぶった。

人生が激しい競争だとするなら、私は部下にどんな苦難を強いてでも勝とうとしたと思ってもらって間違いない。

当時の私のように、序列のなかの役割に自分を同化してしまうとどうなるか。

自分が成し遂げたことが適切に評価されていないと感じるたびにイライラする

周囲と感情的な距離を置き、どんな犠牲を払ってでも弱さを見せないという働き方になり、孤独や虚しさに苛まれる。

昇進や表彰は誇らしかったが、本当に大切な何かが私には欠けていた

2つ目のモーターは存在しなかった

私のキャリアは、思いがけず遠回りを強いられた。

原子力潜水艦「サンタフェ」の艦長が急に辞任し、突如として私がその後任を務めることになったのだ。当時サンタフェは士気もパフォーマンスも低い艦として有名で、艦隊の笑いものとなっていた。

通常なら、リーダーとしての力量を証明しにかかるところだが、それはあくまでも、その艦について把握している場合の話だ。

実際には、私はそれまでの12カ月間、別の潜水艦を引き継ぐ準備をしていた。つまり、サンタフェについて何もわからない状態で、艦長に就いたのだ。

海に出た初日、乗員も私も互いを品定めしていた。私は本能的に艦長という役割に同化し、身体に染みついている行動をとってしまった。そう、乗員に命令を与え、その命令に従わせた

私は2つ目のモーターを稼働させろと命じた。だが、サンタフェはモーターがひとつしかない艦なので、その命令は技術的に実行できない。

命令を受けた士官は直ちに「2つ目のモーター稼働」と復唱したが、その命令は無意味だと彼はわかっていた。そしてやる気なく肩をすくめると、その命令を実行に移せと指示を出し、私の間違いはみなの知るところとなった

この瞬間、私の人生が変わった。

今回のような明らかなミスをしでかしたとき、艦の士官がそれを指摘してくれると信頼できなければ、どうなるだろうか。誤って人を殺しかねないし、自分たちの命すら危うい。

私は、この状況をどうにかする必要があった。

私がそれまでに受けたリーダーシップ研修は、リーダーの意思決定のやり方と、決めたことをチームに実行させる方法を教えるものばかりだった。

だが、そうして学んだ解決策は、サンタフェで間違った命令を下したときには何の役にも立たなかった。

それもそのはずだ。問題は、間違った命令を下したことにあるのではなく、そもそも私が命令を下したことにあるのだから。

たった1年で生じた劇的な変化

みなの前で私の間違いが露呈したその日、私はサンタフェの士官たちとこんな約束を交わした。私は今後、一切命令を与えない。その代わり、われわれの目的は何で、何を成し遂げようとしているかを伝えると。

士官たちは、今後は艦長からの指示を待たないことに同意した。

今後は指示を待たず、彼らのほうから、目的をどのように成し遂げるつもりなのかを私に伝えるようにする。この変更により、使う言葉が少しばかり変わることになる。

士官たちは、「艦長、○○の許可をお願いしたいのですが」ではなく、「艦長、これから○○をします」と言うようになる。

そして、私たちは握手を交わし、それぞれの職務に戻った。

それから12カ月が過ぎ、サンタフェはある記録を樹立した。33名の優秀な水兵が、翌年の再乗艦願にひとり残らず署名して海軍に残ったのだ。また、海軍に要請されるあらゆる任務において、優秀な成績を修めた。

そればかりか、潜水艦操作の視察検査を受けたときには、歴代最高得点を叩き出した。解雇者はひとりも出していない。にもかかわらず、サンタフェのパフォーマンスと士気は、たった1年で、どちらも最低から最高に跳ね上がったのだ。

そうなったのは、士官や水兵に対する上からのプレッシャーを強くしたからではない。逆に私が一歩下がり、彼らが私に歩み寄るようにしたためだ。その結果、1人のリーダーと134人の部下は、自ら行動し考える135人のリーダーとなった。

この素晴らしい結果を残せたのは、スキルや知識が向上したためでも、「職務に身を捧げた」ためでもない。

海軍の規則の一部に手を加えたのは事実だが、ごく些細なものだ。海軍は、われわれの手がほとんど及ばない仕組みになっている。

スケジュール、割り当てられる主要な任務、昇進、技術的な要件、法的義務、手順や方針のほとんどについて変えることができないし、艦に乗る人員すら変更はきかない。

リーダーシップは言葉から始まる

ただし、艦内で互いにどのような話し方をするか、どんな言葉を使うかは自分たちで決めることができる。それを始めるのは私からだ。


結局のところ、リーダーシップは言葉から始まる

私が乗員たちとのコミュニケーションで使う言葉を変えると、彼らが私に話しかけてくるときの言葉や、乗員どうしが話すときの言葉も変わった。話すときに使う言葉が変わると、艦内の文化も変わった。

文化が変わったことで、われわれが生み出す成果にも変化が現れた。使う言葉を変えたら、世界が変わったのだ。

サンタフェで起きた変化の詳細について知りたい人は、私の前著『米海軍で屈指の潜水艦艦長による「最強組織」の作り方』を読んでもらいたい。

サンタフェで、私のプライドはへし折られた。私は自分が思うような特別な人間ではないと思い知らされたのだ。

(L デビッド マルケ : 米海軍攻撃型原子力潜水艦「サンタフェ」元艦長)