自身の体型について「初めてこんなに話した」という村上佳菜子さん【写真:荒川祐史】

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「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」2日目 女性アスリートと体重管理/村上佳菜子インタビュー後編

「THE ANSWER」は3月8日の国際女性デーに合わせ、さまざまな女性アスリートとスポーツの課題にスポットを当てた「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を今年も展開。「“つながり”がつくる、私たちのニューノーマル」をテーマに1日から8日までアスリートがインタビューに登場する。さまざまな体験をしてきたアスリートといま悩みや課題を抱えている読者をつなぎ、未来に向けたメッセージを届ける。2日目はフィギュアスケートでソチ五輪に出場した村上佳菜子さん。テーマは「体重管理」。後編では、引退後に13キロ太った体型を指摘されて傷つきながら、笑いに変えてごまかすしかなかった過去を明かした。そして、体型にコンプレックスを抱えながらも「自分を好きになる」という目標を掲げ、ルッキズム(外見至上主義)が課題とされる世の中への願いを語った。(取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 フィギュアスケートを始めた幼少期から「食事は必ず一口残しなさい」と教える母に常に見られ、食事中に母がいなくても“視線”を感じるようになった村上さん。体重コントロールに苦労し、月経不順や疲労骨折も味わいながら、22歳で現役引退するまでスケートにすべてを捧げてきた。

 その反動から、引退後に体型に変化が起きた。

「運動量が100分の1くらいに減ったのに食べる量は増えて。練習漬けで忙しかった時間がなくなり、友達に呼ばれたらスナックでもどこでも“フッ軽”で行っちゃう。そこでポップコーンやポテトチップスを食べながらお酒を飲んで……みたいな感じ。誰も止める人がなくて。痩せるのは大変なのに、太るのは本当に簡単でした(笑)」

 2年間で増えた体重は13キロ。

 新しく服を買っても、ズボンはすぐにパツパツに。体重計は「朝が一番軽いから」と朝に服を全部脱いで乗る。丸くなった顔もメイクで必死にごまかす。「自分が太っていくのを見て見ぬふりしていました」。しかし、本人はそうであっても、周りの反応は正直だった。

 番組のロケ先で接するおじちゃん、おばちゃんに「(顔が)パンパンだね」「凄い太ったね」と言われる。悪気はないし、太った原因は自分にある。まして明るく親しみやすいキャラクター。言い返すわけにはいかない。できるのは笑っておどけることだけ。でも――。

「(キャラクターとの)葛藤はすごくありました」と打ち明ける。

「選手の時から体型の深刻さが染みついているし、傷ついて、自分への自信がなくなりました。こう見えて、とても繊細で傷つきやすくて。ちょっとしたことでも、言われたら傷つく言葉が今もある。(友人との食事でも)『すごい食べるじゃん』とか『たくさん頼んだね』『ずっと食べてるよね』とか言われるだけでもグサッと来る。なんとか笑いに変えて、恥ずかしさから逃れるけど、言われたことはずっと心に残る。だから、『食べるのは悪いこと』って、今も心のどこかで思っています」

 引退後に太ることはトップレベルでなくとも珍しくない。練習量が減ったのに、現役時代と同じような食事量を取る。あるいは引退した解放感から、食事もお酒もさらに増える。生活リズムも不規則に。ルッキズムが社会的課題になっても、村上さんのようにタレントとして表舞台に立つと、避けて通れない面もある。

 明るいキャラクターがゆえに体型の“いじり”も笑いに昇華し、言った側も傷つけている自覚がないのは、一般社会においても深刻な例と言えるだろう。

 ただ、そこはアスリート。転機になったのも、自分の競技だった。出演するアイスショーで動きにキレがなくなったことを実感。テレビの世界では共演するモデルやタレントが細い人ばかり。「テレビって本当に膨張して見えるんです(笑)。ちょっとこのままじゃヤバイって……」。ダイエットを決心し、減量に励んだ。

 もともと基礎代謝が多く、当時の運動量まで戻して食材活も改善。ピラティスも始め、1年間で8キロ減量し、以降もゆっくりと体重を減らしている。

インスタグラムに記した「どんなに頑張ってもぱんぱんの太ももを愛したい」の真意

 こうして減量に取り組む中で、自分の体と向き合う時間が自然と増えた。

 昨年10月に自身の体型について投稿し、反響を呼んだインスタグラムも、それがきっかけだった。食事をしている時の母の監視する視線が嫌で、他人にジッと見られるのが苦手になったこと。引退して13キロ太った体型を指摘されて傷つき、自信を失ったこと。「美しくて綺麗で可愛い」が植え付けられた日本で、太くて短い脚にコンプレックスを持っていること。それでも、そんな自分の体を愛そうともがいていること。赤裸々に自分の体型に想いをつづった上で、村上さんはこう締めくくっている。

「私もどんなに頑張ってもぱんぱんの太ももを愛したいと思います 見て! 私の太ももを!ってね!!!」

 今も悩み、考えながら自分を、体を変えようとしている村上さん。伝えたかったのは、どんな自分でも好きになることの大切さ。

 ダイエットをしても、太ももだけは痩せなかった。「それなら、だらしない太ももより、良い太ももでいよう」と考えを変えた。「太さは変わらなくても綺麗な体でいたいと意識し始めたら、体が変わってきた。メンタルと体は通じているんだと感じます」

 自分を好きになることは「私もまだレベル1くらい」と笑うが、毎年、年末に10個書く翌年の目標のひとつに必ず「自分を好きになる」を入れて、少しずつ「好き」の気持ちを育てようと努力している。友人に最近、言われた言葉にハッとしたという。

 それは「何個も書くより、『自分を好きになる』だけに絞ったら?」というもの。

「結局、自分のことを愛せれば、どんなことをやっても納得いくし、受け入れられるから、と。すごく響きました。あれもこれも……と思うと大変だけど、それだけに特化してやればいい。簡単だけど、私には気づけなかったこと。そのおかげもあって、少しずつ物事も楽しくポジティブに受け入れられるようになってきました」

 そして、ルッキズムが課題とされる世の中に思うことがある。「『太ったね、良かったね』と言う人は普通いないけど、『痩せたね、良かったね』と言う人はすごくいる。『痩せたね』をポジティブに思っている世の中は、私はあまり良くないと思うんです」と疑問を投げかける。

「もちろん、健康上で理由がある方を除けば、痩せたら綺麗になるというのは必ず比例するわけでもない気がするんです。特に日本は細いモデルさんが多いし、体重(の数字)を大切にしすぎる風潮が強い。でも、自分らしく(体を)極めることを褒めてあげてもいいと思う。海外のセレブの方たちを見ても、本人が『美』と思えば、周りも『美』と思う。すぐには難しいけど、日本も人の見た目にポジティブな見方ができるとうれしいなと思います」

「痩せている」と「太っている」の二元論じゃない、自分らしい体形。言うなれば、“他人ウケ”より“自分ウケ”をもっと尊重する価値観が広まるべきなのかもしれない。村上さんも元アスリートらしく「筋肉が好き」と、なりたい自分の体にこだわりを持つ。

「ハムストリング(太もも裏)がボコッと出ている感じが好きで、脚が綺麗に見えるから、私も頑張って育ててます。ふくらはぎの筋肉が嫌な人も多いけど、私は美しいと思う。それでパンプスを履いたら、かっこいい。綺麗な体の定義は人それぞれでいいんです」

 さらに、自分を育ててくれたフィギュア界に変化の息吹も感じている。

「今の若い子たちはポジティブに受け止めている感じ。『いやあ、食べすぎちゃった』みたいな話も明るくする。良い体でいよう、自分の体を愛そうという世界的な流れか、私たちみたいに『サラダしか食べちゃいけない』『ああ、これ食べちゃった』と思う子は少ないし、栄養士さんがつくことも珍しくない。昔は栄養士もトップ選手しかダメというイメージがあったけど、世界の大会に出る前から学べる環境ができていることも大きいです」

今回のインタビューに込めた想い「今こういう状態ですって正直に見てもらいたい」

 1時間近くに及んだ取材。「自分の体型のことをこんなに話したのは初めてです」と村上さん。こうしたインタビューは、アスリートの成功体験から学ぶという文脈になりやすいが、「私自身、まだまだ乗り越えられてないものがある」と言い、彼女らしい言葉でそれを否定する。

「私も悩んだ時は何かを乗り越えた人より、今乗り越えようとしている人の話が聞きたい。乗り越えたからこそ気付かせてあげられることもあるけど、同じようなレベルで悩んでいる人もいる。『私も今こういう状態です』って、正直に皆さんに見てもらって、何か響いて一緒に頑張ろうという気持ちになってくれたらいいなと思います」

 今年1月に婚約を公表し、ポジティブな思考を持つ夫の考えに救われることも多い。11月には30代を迎える。女性として、さらに明るい未来を思い描いている。

「(加齢を)レベルアップと思えば、年齢を重ねていくのも苦じゃない。体型のこともいろんな経験をしたから生まれたポジティブな想いがあるように、年齢も同じこと。楽しんでいろんなことを経験できたらいい。精神年齢が『3歳』と周りに言われるくらいの人間なので(笑)、『私が29歳!?』って一番驚いているんだから、そのままでいたいです。自分が一番、自分の年齢に驚いていたいですね」

 あるがままの自分を愛し、村上佳菜子さんは今、ヘルシーで笑顔に満ちた道を、自分らしく歩んでいる。

(「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」3日目はオンラインイベントを開催)

【フィギュアスケート・村上佳菜子さんの「人生で救われた、私のつながり」】

「私にとっては、山田満知子先生(コーチ)です。先生のもとに最初から最後までいたので。諦めない、初心を忘れないというモットーや、先生のもとにいたからつながった縁がたくさんある。先生と生徒を超えて、それ以上の家族みたいな関係。結婚する時もお父さんお母さんより先生にOKをもらわなきゃと思うくらい(笑)。それくらい自分にとっては大事な人だし、今も何かあったら最初に相談する。今は毎日連絡するようなことはないけど、何かあれば先生とごはんを食べたり体調を気にしたり、そういうつながりをずっと持つことができて感謝しています。あとは(愛犬の)ワンちゃんも私にとっては本当に救われる存在で、これも大切にしているつながりです」

 ※「THE ANSWER」では今回の企画に協力いただいた皆さんに「あなたが人生で救われたつながり」を聞き、発信しています。

■村上 佳菜子 / Kanako Murakami

 1994年11月7日生まれ。愛知・名古屋市出身。姉の影響で3歳からスケートを始める。トリプルアクセルを跳んだジュニア時代から頭角を現し、15歳だった2009年-10年シーズンにジュニアGPファイナル、世界ジュニア選手権優勝。19歳だった13-14年シーズンに全日本選手権で2位に入り、四大陸選手権優勝を経て、ソチ五輪に出場した(12位)。16-17年シーズン限りで22歳で現役引退。引退後はアイスショーに出演する傍ら、バラエティ番組などタレントとしても活躍する。今年1月に一般男性との婚約を発表した。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)