「スピード400」はトライアンフをスポーツブランドとして決定づけた1930年代のロードスター「スピードツイン」をオマージュした最新モデルだ(写真:Triumph Motorcycles Japan)

開発に5年、ユーザーが本当にほしいバイクを作った――。

トライアンフの2024年モデルとして新たに加わった新型400ccシリーズの国内試乗会で語られた言葉だ。

英国で1902年に創業した世界最古級のモーターサイクルブランドとして知られるトライアンフ。ボンネビルをはじめとする名車の数々を生み出し、マン島TTレースでの勝利やスピード記録を打ち立て、カルチャーの分野でも世界的なムーブメントを作り出してきた。

国内においても2023年の国内販売台数は前年対比で21%増の4108台の大台に乗り、2019年からの5年間で2倍に増やすなど好調ぶりが伝えられた。ユーザー層も幅広く、多様な世代に着実に浸透してきていることがうかがえる。

スピード400/スクランブラー400が登場


メディア向け発表試乗会ではトライアンフモーターサイクルズジャパン代表の大貫社長によるプレゼンテーションが行われた(写真:Triumph Motorcycles Japan)

そんな機運を捉えたかのようなタイミングで今回投入されたのが、「スピード400」と「スクランブラー400X」。現行トライアンフの中では最少排気量モデルであり、普通二輪免許で乗れる唯一のモデルとなっている。開発に5年を費やしたというこのシリーズ、世界中のユーザーの意見を聞いてゼロから作り始めた完全新設計のブランニューモデルだ。


スクランブラーとはかつてオフロードバイクがなかった時代に不整地を走るための改造を施したバイクのこと。「スクランブラー400X」はその現代版だ(写真:Triumph Motorcycles Japan)

聞こえてきたのは、「スタイリッシュで軽快で扱いやすく、乗っていて楽しくなる。コスパに優れ、それでいてトライアンフの伝統や品質を感じさせるバイクがほしい」という声だったとか。そこで今回、トライアンフではあらゆる年齢や経験のライダーが自信を持って楽しく操れることを目指したという。同時にクラスをリードする性能や最新テクノロジーを投入し、トライアンフの伝統的なスタイルと品質で仕上げてきた。

「スピード400」はトライアンフの古きよき時代を彷彿させるロードスターモデルであり、一方の「スクランブラー400X」も1950年代のファクトリーレーサーのDNAを受け継ぐ正統派モデルとして誕生した。

【スピード400試乗】シングルスポーツらしい軽快さ


完全新設計の水冷単気筒エンジンはあえて空冷風のフィン付きシリンダーヘッドとするなど伝統的デザインを取り入れた(写真:Triumph Motorcycles Japan)

新400シリーズのために新たに開発された「TRシリーズエンジン」は、20世紀初頭に活躍した単気筒レーサー「トロフィー」にちなんで名づけられた。最高出力40PS/8000rpmを叩き出す水冷単気筒DOHC4バルブ排気量398ccエンジンはショートストローク設定で、シングルエンジンとしてはかなりの高回転高出力型。その名に恥じないハイスペックぶりである。


「スピード400」は優れた動力性能と軽量コンパクトな車体、充実した足まわりによってハイクオリティな走りを実現。都会のスプリンターだ(写真:Triumph Motorcycles Japan)

ワクワクしながら試乗開始。慎重にクラッチミートしてみるが意外なほど極低速からトルクフルで、アイドリングからでも発進できるほど。低中速から粘りのあるトルクと弾けるサウンドが耳に心地よい。加速中の回転上昇もスムーズで、アクセルを開ければレーシーな甲高い音とともにピーク8000rpmまであっという間に吹け上がる。

とはいえ、実用域では5000rpm〜6000rpmぐらいでシフトアップしていくのがスムーズで、豊かな中速トルクに乗って流すのが気持ちいい。卸したての新車にもかかわらず、6速ミッションのタッチも節度感があって滑らか。減速しながらの連続シフトダウンでもスリッパークラッチが過度なエンブレをきれいにいなしてくれる。


DRL装備のヘッドライトや薄型フラッシャーを含むすべての灯火類はフルLEDタイプになっている(写真:Triumph Motorcycles Japan)

足まわりもハイグレードだ。前後サスペンションは倒立ビッグピストンフォークに外部リザーバーとプリロード調整付きのモノショックに加え、ブレーキもフロント4ポットラジアルキャリパーに前後ABS仕様と充実。サスペンションのストローク量はフロント140mm、リア130mmと標準的だが、しなやかな動きと適度なコシ感もある。快適性とスポーティさを併せ持つストリート向きの幅広い設定になっているようだ。


ゴールドの倒立フォークやアップマフラーがスポーツマインドを刺激する。都会に溶け込むデザインだ(写真:Triumph Motorcycles Japan)

タイヤも前後17インチに太過ぎないサイズ(前110/後150)で、車重171kgと250cc並みの軽量な車体はハンドリングも軽快。1377mmを切るショートホイールベースを生かしてタイトなコーナーもくるくると曲がる。もうひとつ、スロットルバイワイヤーや切り替え式トラクションコントロールなど、電子制御に関しても上級モデル並みに充実している点も注目だろう。


交差点やタイトコーナーなども得意なシチュエーション。軽快なフットワークで街中をスイスイ走る(写真:Triumph Motorcycles Japan)

そして特筆したいのが足着きのよさ。シート高790mmはスポーツネイキッドとしてかなり低めで、単気筒ならではのスリムな車体と相まって日常での乗り降りや取りまわしにストレスを感じない。


回転数やギアポジションなど多様な情報を表示するデジタル液晶ディスプレイを組み込んだアナログメーターを装備(写真:Triumph Motorcycles Japan)

また、見た目的にもヘッドライトやウインカーを含むフルLEDタイプの灯火類や、多機能LCDスクリーンを内蔵したアナログスピードメーターは高級感があり、タンクまわりのグラフィックもお洒落。こうしたスマートな都会的センスもトライアンフならでは。400ccだからといって手抜きはない。

【スクランブラー400X試乗】ツーリング向きの乗り味


「スクランブラー400X」の大柄な車体と長い足、ゆったりとしたライポジはロングツーリングにも向いている(写真:Triumph Motorcycles Japan)

一方の「スクランブラー400X」だが、オンロードもオフロードも楽しく走れる両刀使いのキャラクターに仕上げられているのが特徴だ。エンジンは共通だが専用フレームと長めのホイールベースが与えられ、前後サスペンションのストロークも150mmと足長。フロントホイールも19インチに大径化するなど不整地での走破性を高めているのが特徴だ。また、ハンドルバーも高く幅広でステップバーも立ち乗りに適した形状にするなど、滑りやすいダートでのコントロール性を重視したライディングポジションになっている。


フロント19インチの大径ホイールならではの安定性と落ち着いたハンドリングはオンロードでも魅力的(写真:Triumph Motorcycles Japan)

実際に試乗できたのはオンロードのみだったが、跨ってみるとシートが高め(835mm)で車体もひとまわり大柄な印象。そのぶん、上体が起きたゆったりしたライディングポジションでハンドリングも鷹揚(おうよう)だ。とくに19インチホイールにはφ320mmの大型ディスクブレーキが付いているためか、フロントまわりにどっしり感があり、それはそれで高速コーナーでは安定感につながるので悪くはない。ロングサスのおかげで乗り心地も上質だ。


ナックルガードや縦2段アップサイレンサー、セミブロックタイヤなどの装備にスクランブラーらしさが宿る(写真:Triumph Motorcycles Japan)

エンジンのフィーリングは同じだが、マフラーの違いなのか排気音はオフ車らしい弾けるサウンドに。また、「スピード400」と共通装備のトラクションコントロールと「スクランブラー400X」専用にオフロードモード切り替え可能なABS(完全オフも可能)も搭載されているなど本格的。

こうして細部まで見渡してみると、走りも装備も「スピード400」とは別物。高速道路で移動しながら気が向いたら林道にも入っていけるロングツーリング向きのモデルである。バイク旅が好きならこちらがおすすめだ。機会があればぜひオフロードにもトライしてみたいと思う。

400ccでトライアンフという選択肢


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トライアンフ伝統のスタイルと乗り味を現代的なセンスで再現した「スピード400」とオンもオフも楽しめる都会派デュアルパーパスの「スクランブラー400X」。乗ってみると両者のキャラクターは明確にわかれていた。価格はスピード400が69万9000円、スクランブラー400Xが78万9000円(ともに税込み)と値頃感もある。多くのライダーにとって現実的な選択肢に入りそうだ。

(佐川健太郎 : モーターサイクルジャーナリスト)