日経平均株価は4万円突破が目前。どこまで上がるか真剣に考えていたら「どこまでバブルが続くのか」が見えてきたような気がした(撮影:梅谷秀司)

このところ平日に株価がどんどん上がるものだから、つい気になって休日の競馬に身が入らない。この連載を10年以上も続けてきて、今までに一度もなかった事態である。

1989年当時の株価こそ「正気の沙汰」じゃなかった


この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています【2024年1月5日編集部追記】2024年1月1日、山崎元さんは逝去されました。心から哀悼の意を捧げ、ご冥福をお祈りします)。記事の一覧はこちら

それもそのはず、日経平均株価は2月22日、終値で3万9098円となって約34年ぶりに最高値を更新した。

当欄の相棒(持ち回り連載執筆者)である小幡績先生(慶應義塾大学院教授)は「日本株は誰が何と言おうと、やっぱり暴落する」(2月24日配信) とおっしゃる。

けれども、ありうるシナリオとして当のオバゼキ先生も予想したとおり、株価はその後も高値を更新しつづけ、3月1日には4万円まであと約10円と迫った。

この調子がいつまで続くのか。以下は若干の思考実験である。

新高値となった翌2月23日、日本経済新聞朝刊の一面は壮観であった 。「大はしゃぎ」と言っていいくらいだが、何しろ日経平均を算出している当事者なのだから、それくらいは必然かもしれない。この日の一面に描かれていた比較が興味深かった。

           1989年12月   2024年2月
時価総額        606兆円      943兆円
PER(株価収益率)   61.7倍      16.5倍
PBR(株価純資産倍率) 5.6倍       1.4倍
経常利益額       38兆円      95兆円
時価総額のGDP比 1.41倍 1.42倍
世界時価総額の日本比率 37% 6%

要するに日経新聞は、「2024年の株価はバブルじゃないですよ。1989年とは違って正当な評価なんですよ!」と強調したいのであろう。それは確かに一目瞭然で、今の常識から考えると1989年当時の株価は正気の沙汰とは思われない。

そして興味深いのが最後の項目だ。最高値をつけたとはいえ、日本株の時価総額は世界のわずか約6%にすぎない。34年前に比べれば6分の1のシェアに低下している。思えば世界の金融市場と言えば、当時はニューヨークと東京とロンドンくらいだったのだ。日本の株価が暴落して、ようやく「往って来い」になる間に、海外市場は大きく成長していたのである。

上海や香港、シンガポールなどの市場が成長したことはもとより、とにかくアメリカ市場の成長がすごかった。今では、全世界の時価総額のざっくり半分近くを占めている。

とくに新興企業向けの株式市場であるナスダックでは、マイクロソフトやアルファベットなどのハイテク企業が急成長を遂げた。今では「GAFAM」改め、「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる銘柄群が育っていることはご高承のとおりである。

景気が悪いのに、この株高を信じてもいいのか

さらに経済規模を比較してみると、1989年の日本の名目GDPは3.1兆ドルで、当時の世界全体(20.2兆ドル)に占める比率は約15.5%もあった。それが2022年実績で見ると、世界のGDPがぴったり100兆ドルと5倍増になっているのに、日本はほとんど成長がなくてわずか4%のシェアに低下している。

日本経済がもたもたしている間に世界はすっかり先に行ってしまったという話は、年初の拙稿「2024年は自分の資産をもっと外貨に換えておこう」 (1月6日配信)で述べたとおりである。

問題は、足元のこの株価を信じていいのか、である。そもそも日本経済、このところあまりいいニュースがない。景気が悪いのに株価だけ上がるというのはおかしくはないか。

2月の月例経済報告では、内閣府は景気の基調判断を3カ月ぶりに下方修正している。個人消費は悪いし、設備投資も計画ほどには進んでいない。1月の鉱工業生産も前月比7.5%の低下となった(ほとんどは品質不正に伴うダイハツ工業の工場停止のせいだが)。

そして、2月15日に公表された2023年10〜12月期GDP速報値は、実質では前期比マイナス0.1%成長となった。規模が小さいとはいえ、2四半期連続のマイナスということは「テクニカル・リセッション」である。

しかも内訳を見ると、外需が+0.2%で内需は▲0.3%である。さらに外需のプラスも、輸出の伸びよりは輸入の減少によってもたらされている。つまり、中身が悪いのである。

やっぱり「米国株高」と「円安」が牽引

では、なんで景気が悪いのに株価が高いのか。まずは、「日本企業は海外で稼いでいるので、国内景気が悪くても関係ないんです」という説明が考えられる。実際に時価総額で上位を占めるのは、トヨタ自動車、ソニーグループ、ソフトバンクグループなど海外比率の高い企業である。

次に「実質GDPは伸びなくても、名目GDPが伸びている」という見方もできるだろう。昨年10〜12月期の名目GDPは年率換算で596.4兆円と、ほぼ600兆円に達している。物価上昇で個人消費は苦しんでいるけれども、商品価格を上げられるようになったお陰で企業決算は好調である、というわけだ。

ただし、上記のような苦しい言いわけを考えるよりは、単純に「日本株は米国株に連動しているだけです」と言ってしまうほうが楽であるし、真実にも近そうだ。何しろ米国株は史上最高値圏。日経平均が最高値となった2月22日も、早朝にエヌビディアの好決算が公表されたことが上昇の引き金となったのではなかったか。

加えて円安の追い風もある。年初の時点では、「アメリカでは3月にも利下げが始まる」というのが市場コンセンサスだったが、あまりに同国の物価や雇用のデータが強いから、利下げ観測の時期はどんどん後ずれしている。

逆に日本側では、「3月か4月にはマイナス金利が解除されるだろう」という認識が強まる一方で、日本銀行が「その後も『どんどん利上げ』は考えにくい」と盛んにメッセージを流しているので、年内は緩和的な環境が続きそうである。

つまり、足元の日経平均の上昇は「米国株高」と「円安」に牽引されたものと考えていいだろう。面白いことに、TOPIX(東証株価指数)の最高値は1989年12月18日の2884.80ポイントであったが、こちらはあと175ポイントほど割安となっている。

何となれば、日経平均はハイテク関連の値ガサ株の影響を受けやすく、それが円安も相まって追い風を受けている。逆に、TOPIXは時価総額が大きい銀行、電力、不動産など内需関連株の影響が大きい。こちらは円安では買われにくいので、日銀の金融政策転換待ち、ということになる。

こんなふうに整理してみると、このあとの株式市場は「日経平均が下げてTOPIXが上がる」という調整が行われるように思えてくる。日銀の金融政策正常化は間もなく始まるはずだ。逆に、アメリカの利下げも年内のどこかで始まるだろう。となれば、足元の円安はいずれ修正される。日経平均よりもTOPIX狙いに妙味がある、ということになるのではないか。

今の「AIブーム」は本物なのか

以下はまったくの個人的偏見なのだけれども、筆者は今のアメリカのAI(人工知能)ブームがどうにも腑に落ちない。そもそもエヌビディアという1社の決算があれだけ相場に影響力を持つこと自体が、どこか不健全なのではないか。オバゼキ先生は前出の記事で「バブルのお代わりは3度まで」 という名文句を残したが、確かにちょっと虫が良すぎる気がする。

なにより筆者は、話題のチャットGPTの収益モデルが今も不透明なまま、という点に納得がいかないでいる。とりあえずハード面の開発は必要だから、それこそエヌビディアのような半導体関連の株価が天井知れずになっている。

しかるにそれは、「ゴールドラッシュの際に、ピッケルとシャベルを売っている業者は確実に儲かる」のと同じ理屈であって、肝心の金鉱が見つかるという保証はどこにもないのである.

先日、こんな話をしていたら、某外資系金融マンに見事に論破されてしまった。「だからいいんじゃないですか。チャットGPTの収益モデルがわかったら、利益が計算できるようになるから夢がなくなる。金鉱が見つかるかどうかわからないから、期待が生じて相場が上がるんですよ」。

なるほど、それはまったくお説どおりである。ただし、それって見事に「バブルの論理」なのではあるまいか。というより、これはAIに限ったことではなくて、新しい産業が誕生するときに繰り返されてきた議論なのであろう。

問題は今のAIブームが本物か否か。とりあえずの結論は「ハイテク相場の夢に賭けるならば日経平均を、金融政策の正常化に期待するならTOPIXを見よ」ということになる。くれぐれも投資は自己責任で、というお決まりの文句を付け加えて、この思考実験は終了するのである。

(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末の競馬を予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)

ここから先はおなじみの競馬コーナーだ。

3日は中山競馬場で、弥生賞ディープインパクト記念(G2、距離2000メートル、芝コース)が行われる。皐月賞と同じコースで行われるトライアルレースだが、年の瀬にこれと同じコースで行われるホープフルステークス(G1)ができてから、位置付けが悩ましくなってきた。

とくに今年は、ホープフルステークスで牝馬レガレイラが勝っている。そのとき2着となったシンエンペラーが弥生賞に出走するが、はたしてどこまで信用できるのか。

この時期の3歳馬は18歳の甲子園球児のようなものだから、過去の実績はあまり当てにならない。「自分が気に入った馬を素直に狙えばいい」というのが筆者の経験則である。

皐月賞トライアルレース、弥生賞の本命は「あの馬」で

ということで、狙いはファビュラススター。3頭いる無敗馬の中では一番遅れてきた馬である。何より父方の祖父がシンボリクリスエス、母方の祖父がグラスワンダー、という点にロマンを感じている。

うちの近所の柏市松ヶ崎城跡の河津桜はすでに満開になっている。当日の天気が良ければ、中山競馬場で観戦するのもよさそうだ。

※ 次回の筆者は小幡績・慶應義塾大学院教授で、掲載は3月9日(土)の予定です(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(かんべえ(吉崎 達彦) : 双日総合研究所チーフエコノミスト)