広汽アイオンは初の海外進出先にタイを選択した。写真は第一陣として中国から輸出された小型EV「アイオンY プラス」(同社プレスリリースより)

中国のEV(電気自動車)メーカーの広汽埃安(広汽アイオン)は1月31日、同社初の海外生産拠点となるタイ工場の建設を開始したと発表した。総額23億バーツ(約95億円)を投じて、年間生産能力5万台の工場を建設する。工事は2期に分けて実施し、第1期の完成は2024年7月を予定している。

広汽アイオンは、国有自動車大手の広州汽車集団が2017年に設立した「新エネルギー車」専業の新ブランドだ。価格性能比の高さを売り物に急成長しており、2023年は前年の1.8倍の約48万台を販売。中国のEVメーカーのなかで、首位の比亜迪(BYD)に次ぐ第2位に浮上した。

(訳注:新エネルギー車は中国独自の定義で、EV、プラグインハイブリッド車[PHV]、燃料電池車[FCV]の3種類を指す。通常のハイブリッド車[HV]は含まれない)

同社は2023年9月、初の海外進出先としてタイを選択。その第一陣として、SUVタイプの小型EV「アイオンY プラス」の輸出を始めた。それから半年も経たず、早くも現地工場の建設に着手した格好だ。

タイで存在感高める中国勢

タイの自動車市場では近年、EVの販売が急速に伸びている。自動車専門メディアのオートライフ・タイランドによれば、タイ市場における2021年のEV販売台数はわずか1900台だったが、2022年はその5.1倍の9700台に、2023年はさらに7.8倍の7万6000台に増加した。

そんななか、タイ市場で大きく存在感を高めているのが中国メーカーだ。2023年の車種別のEV販売ランキングを見ると、上位10車種はテスラの「モデルY」と「モデル3」を除いてすべて中国ブランドだった。

なかでも好調ぶりが際立つのがBYDだ。同社は「アット3」、「ドルフィン」、「シール」の3車種だけで、2023年のタイEV市場で約4割のシェアを獲得した。

「タイのEV市場は新たな急成長のフェーズに入った。(わが社は)このタイミングを逃さずチャンスをつかみ取りたい」。広汽アイオンの国際事業部長を務める陳頑氏は、2023年11月の広州モーターショーの会期中にそうコメントしていた。


広汽アイオンはタイ政府の優遇措置の適用を受けるため、現地生産をスピード決断した。写真はタイ工場の完成予想図(同社の公式SNSアカウントより)

広汽アイオンがタイでの現地生産をスピード決断した背景には、EVの普及と関連産業の誘致を進めるタイ政府の政策がある。

タイ政府が2024年初めに施行した「EV3.5」と呼ぶ新政策では、EVを購入した消費者に対して1台当たり最高10万バーツ(約42万円)の補助金を支給する。だが、輸入車が支給対象になるのは2025年までで、2026年以降は現地生産されたEVに対象が限られることになった。

成長と利益を求めて海外へ

中国メーカーのなかでは、国有大手の上海汽車集団、長安汽車、民営メーカーの長城汽車(グレートウォール)などが、すでにEV3.5の適用をタイ政府に申請して認められた。財新記者の取材によれば、広汽アイオンも申請書類を提出済みであり、タイ政府が審査中だという。


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中国の国内市場ではEVの販売台数の伸び率が鈍化し、価格競争が熾烈になっている。そんななか、多数の中国メーカーが成長空間と利益を求めて、海外市場への進出を加速させている。

広汽アイオンも例外ではない。同社は2024年の販売目標を(前年の約1.5倍の)70万台に定め、2025年には100万台超を目指す。その実現のためには、中国市場でのシェア拡大とともに海外市場の開拓が欠かせない。

(財新記者:余聡)
※原文の配信は2月1日

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