決算説明会で危機感を述べた辻永順太社長(画像はオンラインで開かれたオムロンの決算説明会のキャプチャ)

「私は今回の下方修正、この現状に直面し、たいへん強い危機感を抱いている。この状況に陥ったオムロンの本質的な問題が浮き彫りになったとも感じている」

制御機器大手のオムロンが2月5日に開いた四半期決算説明会。辻永順太社長は険しい表情でそう語った。2023年度の業績見通しを修正、純利益予想を前年度比98%減の15億円に引き下げただけに当然のことだった。

昨年4月の年度初めの時点では売上高8900億円(前年度比1.6%増)、営業利益1020億円(同1.3%増)、純利益745億円(同0.9%増)を見込んでいた。

2回目の下方修正で株価は一時ストップ安

昨年10月の中間決算発表のタイミングで、その予想を売上高8500億円、営業利益450億円と大幅に下方修正した。そして今回。売上高8100億円、営業利益240億円ともう一段引き下げた。

予想のさらなる引き下げのインパクトは強く、オムロンの株価は一時ストップ安に。こうなった背景には、同社の進めてきた事業戦略が影響している。

体温計や血圧計などで消費者にもなじみが深いオムロン。だが、そうしたヘルスケア関連の売上高は全体の2割弱にすぎない。

稼ぎ頭は工場のラインで使われるロボットやセンサーなどの制御機器だ。2022年度は全社ベースで売上高の約55%、営業利益の約85%を占めた。辻永社長は昨年4月の就任まで同事業部門のトップを務めていた。

今年度、足を引っ張っているのが、この制御機器だ。同事業の営業利益は年度初めの時点で880億円と増益を見込んでいたが、逆に約8割減益の140億円となる。

大幅な採算悪化の原因について辻永社長は、「ボラティリティ(価格変動)の高いデジタル、環境モビリティ業界に加え、中国市場の投資需要に依存している」との分析を示した。

オムロンのIR担当者も「戦略的に業界のトップメーカーを押さえることに注力してきた。それが今は裏目に出ている」と話す。具体的には、半導体関連やEV(電気自動車)向け二次電池の設備投資に関わる受注において、一部の大口顧客に依存する割合が高いのだ。


「両刃の剣」だった大口顧客依存

制御機器事業部は近年、製品とソフトウェアを組み合わせて顧客に提案するという高付加価値化に力を入れてきた。顧客の課題を基にAI(人工知能)などを活用して、自動化を一段と進化させる新たなアプリケーションを生み出してきた。

一方、こうした高度で複雑なシステムを生産ラインに必要とする企業は、業界の最先端を走る大手に偏りがちだ。そこに深く食い込んでいれば、取引先が好調な時は流れに乗って数字を伸ばせる。

ただ、顧客の偏りは「両刃の剣」でもある。

実際、新型コロナ禍が一段落した2020年度以降、オムロンは右肩上がりで業績を拡大していた。半導体やEV関連などでの旺盛な生産能力増強の需要をうまく取り込み、成長の糧としてきたのだ。

ところが、今年度は中国の景気が低迷。それに引きずられる形で、大口顧客による設備投資の延期や縮小が相次いだ。

年度後半から需要が回復するだろうという見立ても外れ、満足な受注を見込めなくなった。これが大幅な下方修正となった最大の要因だ。

ファクトリーオートメーション(FA)関連の事業環境が良くないのは他社も同じだ。

キーエンスやSMCとの差

センサーなどで大手のキーエンスは、2023年3〜12月までの累計で営業利益が前期比で2.6%減だった。空圧制御機器で世界1位のSMCも2023年度の業績予想を下方修正。営業利益の着地は前年度比で22.2%減となる見込みだ。

その中でもオムロンの下振れはやはり突出している。あるFA関連企業の幹部は「キーエンスやSMCは顧客層が幅広く、特定の分野や地域への依存度が低い。その差が如実に現れている」と指摘する。

オムロン製品を販売する代理店での在庫滞留も痛手となった。

「半導体や二次電池の投資はアップダウンの差が激しい。立ち上がる時は本当に早い」(IR担当者)。そのため、代理店側は早めに在庫を多く確保しておこうと動いていた。コロナ禍によるサプライチェーン混乱が記憶に新しいことも影響した。

ところが先述した理由で顧客からの受注が低迷。代理店で積み上がった在庫の消化はなかなか進まず、オムロンの売り上げにも響いた。代理店在庫の水準が正常化されるのは、2024年度の前半になると同社はみる。

こうした状況を踏まえ、オムロンは2023年10月からの2年間を構造改革期間と位置づけ、制御機器事業の立て直しに取り組むと表明した。ポートフォリオを見直し、特定の顧客や地域、製品への依存からの脱却を目指すという。

オムロンは2月26日、構造改革方針を発表した。制御機器事業を中心に収益を立て直し、ほかの事業も含めて成長基盤の再構築を図る。会社全体では固定費約300億円の圧縮も行い、国内外で合計2000人の人員を削減する方針だ。

制御機器以外の事業も環境は同じ

「顧客起点でのマネジメントや行動が薄まっている、という本質的な問題がある」

2月5日の決算説明会時、辻永社長は反省の弁をそう述べていた。社長就任後、現場の社員との対話や取引先への訪問を通して感じたそうだ。そして「制御機器以外の事業も置かれた環境は同じだ」と強調していた。

コロナ禍やサプライチェーンの混乱に見舞われた結果、自社内部の問題を解決するために人やお金を多く割くようになり、顧客に目が向かなくなっていたという。そのうえで辻永社長はこう力を込めた。

「一度リセットして業務内容を見直し、顧客に向いた仕事に傾注していく必要がある。現場任せにはしない。全社が一丸となり、評価や投資の基準も定めてガバナンスのチェンジに取り組んでいく」

オムロンでは昨年、辻永社長の就任と同時に立石文雄会長が名誉顧問に退いた。その結果、創業家出身の取締役が1933年の設立から初めていなくなった。次代を担う辻永社長にとって、経営手腕が問われる局面だ。

(石川 陽一 : 東洋経済 記者)