(写真:千和/PIXTA)

2024年4月からトラックドライバーを含む自動車運転業務の時間所定外労働時間の上限規制(年間960時間)が導入され、ドライバー不足問題が一層厳しさを増すことが想定される。これが物流の「2024年問題」である。

この上限規制には罰則規定があるため、年間960時間(目安として月80時間)を超える時間外労働に当たる仕事は「できない・やらない・断らざるを得ない」というシナリオが想定される。

いまだに問題認識できていない企業も多い

だが、実際には現在の物流はドライバーの過剰労働によって成り立っている部分もある。このシナリオが現実のものとなってしまった場合には、「今までどおりモノが運べない」という状況に陥る可能性は小さくなく、これが産業界全体に拡大すると、経済活動の停滞につながりかねない。これが「物流危機」と言われる所以である。


近年の日本の歴史の中で、物流が滞った経験はほぼないため、各産業とも、いまだわが身の問題として捉えられていない状況にあるとみられる。実際、筆者がセミナーなどを行う際も、「何をどうしていいかわからない」という参加企業は少なくない。

だが、2024年問題も含めたドライバー不足問題は、トラック運送事業だけではなく、荷主、産業界を含む日本全体で真剣に目を向けなければならない課題なのである。

今回の上限規制を含む「働き方改革関連法」の制定と関連して、トラックなどの自動車運転者の労働条件の改善を図るために、拘束時間、休息期間、運転時間等の基準を定めた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」も見直しの検討が行われ、4月から適用となる。

その中で、1年の拘束時間(始業から終業までの時間)が、現行の「3516時間」から「原則3300時間」へと短縮される。この年間拘束時間3300時間は、時間外労働の上限規制年間960時間とほぼ同様の水準である。

問題解決には発着荷主との連携が不可欠

1年の拘束時間が「原則3300時間」への改正により、営業用トラック輸送において「不足する輸送能力」の観点での影響の定量的な試算を行った。この試算は、経済産業省などによる「持続可能な物流の実現に向けた検討会」で、当該検討会の委員である筆者が示したものである。


この状況を乗り越えるには、規制の当事者である物流事業者の自助努力が重要であることは言うまでもない。ただし、物流事業者、特にトラック輸送の現場で働くドライバーの仕事の内容は、発荷主との契約、指示に基づくものであり、物流現場の改善には、発着荷主(荷物の出し手と、受け取り手)間の取引条件の見直しが必要不可欠とのことが、前述の検討会の最終とりまとめでは明示された。


具体例をあげれば、卸売業者着荷主先に指定時間通り午前8時に着いても、同じ時刻に20台ものトラックが集中し、荷卸しの順番待ち時間が発生、長い時には荷卸し開始が午前11時になることも。3時間の「荷待ち時間」である。

こうしたケースでは、着荷主がすべての仕入先(発荷主)に午前8時の時間指定をしているならば、いつまでたっても荷待ち時間は解消できない。この改善には、例えば着荷主が仕入先(発荷主)によって指定時間をずらす、すなわち納品時間という発荷主との間での取引条件の見直しが必要となる。

また、手で荷物を1つずつ荷下ろし・運搬する「手荷役」から、パレット(工場、倉庫、コンテナ、トラックなどで荷物を載せる荷役台)荷役に変更することで荷下ろしなどの効率化が望めるが、これも発荷主と着荷主との間で、パレットサイズの統一やパレットの管理、返却などの仕組みを検討、導入してもらわないと実行できない。

このような中、昨年6月に政府から「物流革新に向けた政策パッケージ」が発表された。ここでは「抜本的・総合的な対策を『政策パッケージ』として策定。中長期的に継続して取り組むための枠組みを、次期通常国会での法制化も含め確実に整備」するとしている。

その後、2024年2月13日、物流の持続的成長を図るための法案が閣議決定された。

特に荷主・物流事業者に対しては、1)物流効率化のために取り組むべき措置について努力義務を課し、それについて国が判断基準を策定、2)一定規模以上のものを特定事業者として指定し、中長期計画の作成や定期報告などを義務付ける、3)中長期計画に基づく取り組み状況が不十分な場合、勧告・命令を実施する、4)特定事業者のうち荷主には物流統括管理者の選任を義務付けるーーなどの規制が設けられた。現在会期中の2024年通常国会で、本法律案が可決成立される見込みだ。

荷待ち時間の削減は荷主の理解と協力が必須

今回の改正の影響に関する定量的な試算では、参考として、「荷待ち時間と荷役時間の削減を見込んだ場合、輸送能力の不足の解消が見込まれる」としている。

具体的には、荷待ち時間1時間34分のうち17分短縮、荷役時間1時間29分のうち9分短縮すればよいことなのである。筆者の経験では、現場での理解や工夫で可能なことに思え、運送事業者と荷主の協力にて改善に取り組むことが望まれる。

特に、荷待ち時間の削減については、荷主の理解と協力により改善できる現場が少なくない。

先に記載した8時に集中する荷卸し時間による荷待ち時間の発生事例に加え、例えば荷物の積み込みに指定の午後5時に行っても、製品未完成や検品の遅れ、積み込み車両の集中などにより時間通りに積み込みができず、積み込み開始が午後7時となり2時間の荷待ち時間が発生している現場があるとしよう。

双方のケースとも、ドライバーは荷主に指定された時間に行ったにもかかわらず待たされる。これはドライバーや運送事業者ではどうにもならず、荷主に指定時間通りに積み降ろしができる体制を整えてもらうか、本当に積み降ろしができる時間を指定してもらうか、荷主の理解と協力により実態に合わせた条件へと見直してもらえれば、荷待ち時間の短縮はできるとみる。

「手荷役」がドライバーの負担になっている

ドライバー自らが荷物の上げ下ろしなどを行う、荷役作業もまだ多く現場で手荷役がみられ、ドライバーの労働時間や身体の大きな負担となっている。

大きなロットでの輸送が多いサプライチェーンの川上においても、いまだパレット化が進まないケースが少なくない。つい先日も筆者が立ち会った現場では、農産品の選果場から市場や卸売業者までの輸送において、「10トン車への積み込みが手積みで2時間、荷卸しも納品先で2時間、合計4時間」というケースであった。

この輸送を積み込みも荷卸しも全てパレット化できると、それぞれの荷役時間は30分程度、合計1時間程度で済み、3時間の時間短縮が見込まれるのである。非常に大きな効果である。

荷役作業の改善においても、物流事業者と荷主企業、あるいは発荷主と着荷主の間での物流の取引条件の見直しが必要となる。発荷主と着荷主の間で、どのようなサイズのパレットで回収するななど、どのような運用とするかを決めることで実現できるものだからである。

上記のような個別の物流現場自体を対象とした「個別最適」に加えて、「製造→卸→小売」に代表されるサプライチェーン全体で、無駄な輸送や保管をしない仕組みづくりである「全体最適」への取り組みも極めて重要となる。

当面のポイントである2024年を迎えた。産業界/荷主企業においては、持続的な物流の確保に向けた取引条件や商習慣の見直しに真摯に取り組むべき時期にきている。荷主企業の物流対策の本格義務化へ、経営トップの意思決定が求められる時代である。


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(大島 弘明 : NX総合研究所常務取締役)