マウンティングや知ったかぶりをしても、根本的には何も状況は変わりません。むしろ、中・長期的に見れば大損をしています(写真:mits/PIXTA)

キャリアアップを目指して、新たな環境に飛び込もうと思っても、周りの人に比べて自分が劣っているのではないかと不安になってしまうことはありませんか?

そんなときに気をつけたいのが、「マウンティング」や「知ったかぶり」。インスタントに不安を紛らわせることができる一方で、長期的には失うものが多いのも事実。ではこの不安、どうすれば解消できるのでしょう?

疑問に答えるのは、3万人以上に学び方を教え続けてきた、大人の学びのプロである清水久三子氏。不安を成長に変える方法を伝授します。

※本記事は、キャリアアップするために学びを諦めない大人を応援する新刊『リスキリング大全』より、本文を一部抜粋・再編集したものです。

「独り勝ち」のキャリアアップは実現困難

収入アップのために新たな知識やスキルを身につけようとしている(=リスキリングしている)時、このまま続けて成果が出るか不安になることがある人は少なくないでしょう。


「成功している」ことを装うためにマウンティングや知ったかぶりをすれば、その場では周りの人より優位に立てた気持ちになるかもしれません。しかし、根本的には何も状況は変わっていません。むしろ、中・長期的に見れば大損をしています。

キャリアアップを成功させるうえで最も重要な資産はヒトという無形資産です。ヒトは、リスキリングのスピードを加速させ、成功確率も格段に上げてくれます。

ちなみに「人脈を作れ」「人脈を広げろ」といった表面的な付き合いを推奨する言葉は、あまり好ましくないと思っています。異業種交流会などで闇雲に名刺を集めても、本物の人脈を作ることは難しいでしょう。

人との関係を深め、お互いに信頼関係が築けた時に結果的にできるのが人脈です。「キャリアに有利だから……」という気持ちで誰かと知り合いになろうとしても、あまり上手くはいかないでしょう。

ではどうするかというと、同じ志を持つ仲間を探すのです。同じ領域で学びを深めることを目指していればベストですが、比較的近い領域であれば、お互いのメリットがあり、かつ刺激にもなります。

孤軍奮闘する時間は残されていない!

私は何かを学ぶ時には「一緒にやる人、もしくは興味がある人いないかな……」と探します。これは「仲良しグループで楽しく」という目的ではなく、切磋琢磨してお互いに高め合う人を探すためです。どうしても一人だと挫折しがちな時にも、相手の上達や進捗を見ると、自分も頑張ろうと思えます。

また、その相手が予想外の進展や成長を見せると、「あ、短期間でここまでできるんだ」と、知らず知らずのうちに思い込んでいた自分の限界にも気付きます。一人だとどうしても「初めてだから、こんなものだろう」と自分の成長にキャップをしてしまいがちです。

まずは切磋琢磨できる仲間を探してみましょう。

自分が不慣れな領域ではじめから学ぶとなると、「できていない自分を見られるのは嫌だ……」と思って、一人でこっそりと学ぶ、いわゆる「黙って闇練」になりがちです。

私もその一人でしたが、結果的に上手くいかないことが分かり、今では恥ずかしがらずに、「こういうことを学んでいます」「こういうことを始めました」と宣言するようになりました。

現代はすべての領域において仕事の専門化や高度化が進んでいます。つまり、知らないことは恥ずかしいことでは全くないのです。どんなに成果をあげている人でも、違う領域のことまですべて分かっていることはありませんし、孤軍奮闘で遠回りしている時間はとてももったいないのです。

ついつい、いい格好をしたくなりますが、実はそちらのほうがかっこ悪いといえます。

そもそも、自分が気にするほど、周囲は他人の無知を気にしてはいません。どんなに初歩的なことを聞いても、誰もバカになんてしないのです。むしろ、頼られて気分がよくなるのか、喜んで教えてくれるものです。

自分が知らない・できないという事実を曝け出そうとすると、怖いとか恥ずかしいという感情が出てきます。それでも、その殻を打ち破らなくてはいけません。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」という諺があるように、ちょっと恥を忍んで分からないことをその場で教えてもらうほうが、後々恥ずかしい思いをせずにすみ、得られるものは大きいのです。

自分より優秀な人がいるという幸運に注目

リスキリングをするうえで、次にやらないほうがよいのは、「マウンティング」です。

「マウントを取る」とは見栄をはって相手よりも自分のほうが優位だと見せつけるような言動を指します。知ったかぶりもそうですし、学ぶ過程において「自分はこれくらいできている」と、相手との差をことさらに強調するなどの行為もあります。

リスキリングは学校の勉強や試験とは違います。人との優劣を競うようなことではなく、あくまでも自己変革です。そこで他の人を気にしても意味がありません。確かに自分より、仲間が先行しているとよい刺激になりますが、そこでやるべきことは自分がもっと効率的で効果的なやり方を教えてもらうことです。自分のほうが優れているとマウントすることではありません。

自分より優れた人がいるなら、ラッキーだと思いましょう。そこでマウンティングをしても、「この人は何を言っても無駄だ」と思われて、相手から距離を置かれてしまいます。

そんなことをしていては、キャリアアップは遠のくばかりです。目指すことは効果と効率のよいリスキリングだと思えば、見栄や一時的な優越感を得たいという欲望などに惑わされず、何が一番よいやり方なのかは自ずと見えてきます。

マウンティングは過去に成功体験を持つ人が陥りやすいので注意しましょう。過去の、ある状況下で優秀だった自分に固執し、それを誇示したくなるわけです。新しい領域で、できない自分を認められないために「いや、私は本当はすごいんだ」と言いたくなってしまう心理があります。私自身も新しいことを学ぶ際に、マウンティングしたくなる心理になることもありました。

「ちょっと教えて」で成長が加速する

ある時、自分よりあとからその領域について学び始めた人に、気がついたら追い越されていたことがありました。できないこと自体がかっこ悪いのではなく、早くできるようになるために最短ルートをとらないことが、かっこ悪いのだという気づきを得ました。

ついマウンティングしそうになって「私は……」「俺は……」と言いたくなったら、それをぐっとこらえて、「ちょっと教えてもらえると嬉しいんだけど……」と口にしてみてください

私はこれを口癖にするようになってから、学びの取れ高が倍以上になっただけでなく、スピードも速くなり、信用も得られるようになりました。自分で調べるよりも聞いたほうが早いですし、この人は変な見栄をはらないと思われれば、相手も気持ちよく情報を提供してくれます。

私がこれだけ「自分が勉強していることをオープンにすると、メリットがありますよ」と言っても、なかなか実行に移せない人もいます。オープンにするということは、周囲の指摘や批評の目にもさらされます。すると、どうしても打たれることを恐れてしまうのです。

ここは覚悟が必要です。リスキリングでは、打たれることを避けて通ることはできません。 黙って一人で身につけた知識やスキルでは、みんなにオープンにして叩き上げられたスキルや知識に絶対にかなわないからです。より仕事ができる、より稼げるのは後者です。

自分視点で通用するようなものではなく、他者視点で磨いてもらってこそ、使えるスキルになります。

ダメ出しをされたとしても、それは人格否定ではありません。リスキリングする過程で出会う、講師や仲間、先輩などは、「ここがちょっと分かりにくい」「もっとこうするといいよ」など建設的なフィードバックをくれる人が大半です。「打たれる」ではなく「磨かれている」 と認識を変えてみましょう。

見栄っ張りをやめて本当の学びを得る

では、どのようにしてリスキリング仲間と切磋琢磨していくか、具体的なやり方をお伝えします。ついつい見栄をはったり、マウントしたくなる気持ちを抑えるには、相手に「感謝する」「褒める」「讃える」ことを意識しましょう

何か教えてもらったら「そんなこと知ってる」などと思ってたとしても「教えてくれてありがとう」とお礼を言う。相手が上手くできたときは「いや、私はもっとできるけど」とマウントを取らずに「すごいね!」と褒める。どちらがすごいか競いたくなったら「私たち、結構いいところまでできてるよね」とお互いを讃える。

「感謝」「褒める」「讃える」ができているグループやコミュニティは、非常によい学びの連鎖が起きます。私は様々な研修の中で意識的にこの言葉を受講生たちがお互いにかけあうように声がけをしています。

また自分が学ぶ際にも「素晴らしい!」「ありがとう」「私たち、すごいよね」などを口癖のようにしています。この口癖を真似した人がいたのですが、学びの連鎖が広がって自分も仲間もすごいスピードで成長できたと効果に驚いていました。

そもそも仕事は自分一人でするものではないので、試験のように自分だけ抜け駆けしようとしても本当の学びは得られません。一人だけムスッとしていたり、マウントする人がいるとコミュニティ全体の学びが減ってしまいます。自分を鍛えてくれるのは他人だと思えば自分も貢献しようという気持ちになると思います。

(清水 久三子 : アンド・クリエイト代表取締役社長・人材育成コンサルタント)