三井不動産はオリエンタルランドの大株主だが、同社株保有の意義が問われている(記者撮影)

アクティビスト(物言う株主)で知られるアメリカ投資ファンドのエリオット・マネジメントが、三井不動産の株式を取得したことがこのほど明らかになった。関係者によれば、エリオットは発行済み株式の2.5%強を保有しているという。

東芝やソフトバンクグループ、大日本印刷と名だたる日本企業に対して、経営改善を求めてきたエリオット。今回照準を定めたのが、三井不が保有するオリエンタルランド(OLC)の株式だ。

アクティビストの登場によって、半世紀にわたった三井不とOLCの関係に終止符は打たれるだろうか。

同業に劣後する資本効率

2023年3月末時点で、三井不が保有するOLC株は約2200万株、簿価にして約5000億円に上る。エリオットはOLC株を含む有価証券や低稼働資産の売却を原資に、1兆円規模の自己株取得を求めており、両者はすでに協議の場を設けているようだ。エリオットによる保有の有無や対話状況について、三井不はコメントをしていない。

かねて日本企業への投資を行っているエリオット。関係者によれば、三井不に関心を抱いた直接のきっかけは、2023年4月に就任した植田俊社長の姿勢だという。

「ROE (自己資本利益率)は重要な KPI (重要達成度指標)であり、ROEをどのように維持・向上させていくかが重要な課題だ」。“デビュー戦”となった2023年5月の決算説明会で、植田社長はこう強調した。資産の入れ替えを通じた資本効率の改善や、株主還元の強化を訴える植田社長の姿勢に、エリオットは着目した。

同業に劣る三井不の資本効率も、エリオットを呼び寄せる一因となった。2023年3月期の三井不のROEは6.9%。対する同業他社は三菱地所が7.9%、住友不動産が9.4%、野村不動産ホールディングスが10.1%。資本効率を引き上げるには遊休資産の放出が必要だ。そこでやり玉にあがったのが、長らく眠っていた多額のOLC株だった。

OLCは1960年、浦安沖の埋め立て工事を目的に設立された。その時出資した一社が三井不だ。OLC上場直前の1996年9月時点で、三井不は株式の38%を保有する筆頭株主だった。

徐々に疎遠になっていく三井不

だが、その後は徐々に疎遠になっていく。2000年から筆頭株主の座を京成電鉄に譲り、その後も保有比率は漸減。2010年には取締役の派遣もやめ、持ち分法適用会社からも外れた。

直近の保有比率は6%未満にまで下がった。現在、三井不は東京ディズニーランドやシーのスポンサーを務めるものの、OLCとの取引は局所的にとどまる。


エリオットが三井不株を取得した時期も絶妙だった。2023年3月期決算において、三井不はOLC株の区分を政策保有から純投資へと振り替えた。

三井不の広報担当は「2022年度末に『純投資⽬的』と『政策保有目的』の基準を明確化し、OLC株の保有目的を前者と定義した。(純投資目的ではあるものの)アセットへの投資と同様、当社の本業の投資だ」とコメントした。

【2024年2月15日16時52分追記】上記の記述に三井不動産のコメントを加えました。

議決権行使助言会社の方針も考えられる。

アメリカのインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、政策保有株が純資産対比で20%以上を占める場合は経営トップの人事案に反対することを推奨している。2023年3月末時点の財務状況で試算すると、OLC株が政策保有株のままだった場合、三井不の政策保有株は純資産対比で20%を超える。

折しも、2023年6月の株主総会で役員人事の上程を予定していた三井不は、機関投資家から反対票が集まる事態を懸念して、OLC株を政策保有目的から外した可能性がある。一方、純投資目的への移行は、エリオットの売却要請に説得力を与えた側面もある。

では、過去にエリオットが投資した企業はどんな対応を取ったか。

2023年1月にエリオットによる株式保有が明らかになった大日本印刷は、3月に中期経営計画の骨子を発表した。ROE10%(2023年3月期7.9%)などを達成する方策として、3000億円規模の自己株取得を行う方針も掲げた。株式市場は好感し、同社の株価は急騰。エリオットも「取り組みを称賛する」との声明を出した。

この点、2025年3月期を最終年度とする現在進行している三井不の中計については、計数目標を1年前倒しで達成する公算で、三井不は年内にも新たな経営計画を発表する見通しだ。エリオットの要求にどこまで呼応するかに注目が集まる。

有事に発展するとエリオット有利か?

目下、エリオットと三井不との面談は穏健に進んでいるようだが、万が一不調に終わった場合、決着の場は株主総会へと移る。

2023年に株式を取得したアメリカのセールスフォースに対して、エリオットは役員派遣の準備を進めていた。セールスフォース側が人員削減や自己株取得の方針を公表したためにエリオットは矛を収めたが、投資先企業の対応に満足しなければ、株主提案も辞さない武闘派で知られる。

市場関係者は「(役員派遣などの)『有事』に発展した際はエリオットが有利だ」と指摘する。

三井不の株主構成を見ると、株主提案に賛成票を投じやすいとされる海外投資家が過半を握る。反面、金融機関や取引先など会社側に融和的な株主の存在感は高くない。委任状争奪戦に発展すると、多くの株主がエリオット側につく可能性がある。

OLC株をめぐっては、筆頭株主である京成電鉄もイギリス投資ファンドのパリサー・キャピタルから売却を求められている。京成電鉄も三井不同様、OLCの創設に携わった一社だ。単に生みの親という以外に、多額の株式を保有する合理性を説明できなければ、資本で結ばれた縁を断ち切ることは避けられない。

(一井 純 : 東洋経済 記者)