ヤセル・ルマイヤン会長(Public Investment Fund, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons)

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 1月31日の朝、PGAツアーのジェイ・モナハン会長がテレコンファレンス(遠隔会議)を開き、米コンソーシアムのSSG(ストラテジック・スポーツ・グループ)とパートナーシップを結んだと発表した。リブゴルフとの統合については、両者の合意が発表されてから大きな進展は見られない。今後どうなるのか。【舩越園子/ゴルフジャーナリスト】

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慌てた様子のリブゴルフ会長

 パートナーシップの締結により、PGAツアーはSSGから最大30億ドルの投資を受け、営利法人「PGAツアー・エンタープライズ」の創設に向けて動き出す。そして、一定条件を満たした約200名のPGAツアー選手が、株主となって経営に参加することになる。米メディアからの情報によると、モナハン会長からの発表を耳にした選手たちは「みな納得した表情で頷いていた」という。

ヤセル・ルマイヤン会長(Public Investment Fund, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons)

 和やかに受け止められたこのテレコンファレンスとは対照的にひどく慌てた様子を見せたのは、リブゴルフを支援するサウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」を率いるヤセル・ルマイヤン会長だった。

 ルマイヤン会長はリブゴルフ選手たちに向けて緊急声明を出し、「PIFは今後も将来的な投資の可能性などに関してPGAツアーとの討議を続けていく」と声を上げた。

 なぜルマイヤン会長は大慌てでそんな声明を出したのか。おそらく、リブゴルフ選手やその周囲が不安や疑問を覚えないよう予防線を張り、すでに首を傾げている人々の疑念を早急に払拭しなければという焦燥感に駆られたのではないだろうか。ルマイヤン会長があからさまに慌てた様子を見せたのは、リブゴルフが創設されて以来、初めてのことだ。

 そして、そんなルマイヤン会長の狼狽ぶりを傍目にした米ゴルフ界の人々は、「ひょっとすると、これはPGAツアーの大逆襲の始まりではないか?」と囁き始めている。

昨年6月に統合合意を発表

 ここ数年、世界のゴルフ界ではあまりにも多くのことが次々に起こり、少々混乱気味ではないか思うので、これまでの経緯をざっとおさらいしてみよう。

 潤沢なオイルマネーを擁するPIFを後ろ盾にして、2021年にグレッグ・ノーマンがリブゴルフを創設したとき、PGAツアーは「新参者のツアーに何ができる?」と言わんばかりに過小評価した。

 しかし、マネーパワーは想像以上だったようで、リブゴルフが2022年6月から試合を開催し始めると、PGAツアーのスター選手が次々に移籍。するとPGAツアーは焦り出し、「マネーにはマネー」で対抗しようとあの手この手で策を講じ始めた。

 だが、マネー合戦では歯が立たないことを悟ったPGAツアーのモナハン会長は、ほぼ独断でPIFのルマイヤン会長と水面下で交渉を開始。そして2023年6月、モナハン会長とルマイヤン会長は「統合合意」を電撃的に発表した。その内容には、PGAツアーがPIFからの投資を受けて営利法人「PGAツアー・エンタープライズ」を創設することや、その会長にルマイヤン会長が就き、その下にモナハン会長がCEOとして就任することなどが含まれていた。

 しかし、一方的に発表された内容にPGAツアー選手たちは激怒し、モナハン会長の信頼は一気に失墜。その後はPGAツアーの理事会が主体となってPIFや外部団体との討議や交渉を行なってきた。

「統合話は立ち消え?」

 そして今年1月31日、モナハン会長によって発表された「重大事項」の内容は、新たな営利法人「PGAツアー・エンタープライズ」を創設するというものではあったが、PGAツアーがパートナーシップを結んだ相手はPIFではなくSSGとされた。

「えっ? PIFはどこへ行った?」「PGAツアーとPIFとの統合話は立ち消え?」「交渉の輪からPIFは押し出された?」

 そんな疑念を払拭するため、ルマイヤン会長は大慌てで声明を出し、PGAツアーとの関係や将来的な協業の可能性が消えたわけではないことを強調したのだろう。米メディアも「PIFからの追加投資はありうる」と今のところは報じている。だが、「おそらく」という言葉が付されており、今後、何がどう転ぶかはまったくわからない。

 PIFのルマイヤン会長が慌てた様子を見せたことからもわかる通り、ここへ来てPGAツアーがわずかに優勢に転じ始めたという印象を受けたことだけは確かである。

続く対立

 昨年6月にモナハン会長とルマイヤン会長が満面の笑顔で統合合意を発表したとき、両者の対立は終焉し、ゴルフ界に平和が訪れるのだと多くの人々が思ったことだろう。しかし、現実はそうはならなかった。

 米国が長年「世界一のプロゴルフツアー」として誇ってきたPGAツアーがサウジ勢力と手を取り合うことを、米国の誰もが素直に喜んだわけではない。その証拠に、米国の議会や政府はいち早く動き出し、何かしらの法律違反に相当するのではないかという「あら探し」的な視線で現在も調査を行なっている。

 PGAツアーの理事会が主体となって進めてきたPIFとの交渉は難航し、昨年12月31日に設定されていたデッドラインは延長された。それと前後して、PGAツアーのスター選手の代表格だったスペイン出身のジョン・ラーム はリブゴルフへ移籍。つい最近も英国出身のティレル・ハットンや米国のトップアマがラームに引っ張られるようにしてリブゴルフへ移るなど、リブゴルフによる選手の引き抜きは相変わらず続いている。

 2024年のリブゴルフの日程は、発表されているだけでも4試合がPGAツアーのシグネチャー・イベントと同週にぶつけられている。そんなふうに依然としてPGAツアーとリブゴルフの対立が見て取れる昨今、両者が手を取り合ってプロゴルフ界が統合される日は本当に到来するのだろうかと首を傾げる向きは多かった。

 その矢先にモナハン会長によって発表されたのが、PIFではなくSSGとのパートナーシップ締結だった。そのためルマイヤン会長は「交渉の輪からPIFが押し出された」という見方が広がることを懸念し、大慌てで声明を出したのだろう。

選手の姿勢にも変化

 ルマイヤン会長が声明に記しているように、今後、PIFから追加投資が行なわれ、PIFを加えた3者の統合が成立する可能性はどの程度あるのか。

 PGAツアー選手の動向に目をやれば、かつてアンチ・リブゴルフの急先鋒だった北アイルランド出身のロリー・マキロイは、昨秋、PGAツアーの理事職から辞任し、あれほど“口撃”していたリブゴルフを今では賞賛するようになっている。

 リブゴルフへ移籍した選手がPGAツアーに「出戻る」ことに対しても、「誰かが誰かに罰を科すことは難しいから、罰則は設けず、彼らの復帰を歓迎したい」と語るなど、すっかりリブゴルフ寄りの姿勢に変わっている。

 だが、穏やかな人柄で知られるPGAツアーのリッキー・ファウラーは、「リブゴルフ選手は自分で決断して移籍したのだから、彼らがPGAツアーに戻る際には大なり小なり罰を科すべきだ」と珍しく強硬姿勢を見せ始めた。ナイスガイで知られるジョーダン・スピース も、PIFからの追加投資に対する意見を米メディアから求められると「それは必要だとは思わない」ときっぱり言い切った。

 ファウラーとスピースの強気の発言から伝わってくるものは、PGAツアーとしての安堵と自信だ。SSGとその財力を味方に付けた今、PGAツアーはもはやPIFのお金の力に頼らずとも安泰になったということなのだろうか。

 そうだとすれば、SSGとパートナーシップを結んだことは、この2年超、PIFのマネーパワーに押されっぱなしだったPGAツアーがようやく逆襲に出たことを示しているようで、PIFが入る隙はなくなったように感じられる。

 だからこそPIFのルマイヤン会長は、そうした見方を否定するために大慌てで声明を出したのだろう。ゴルフ界の統合、ゴルフ界の春は、まだまだ遠そうである。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部