伊藤美誠

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 開催まで半年に迫るパリ五輪。前々回リオと前回東京の両五輪で金を含むメダル四つを獲得、卓球女子初のシングルメダリストの偉業を成し遂げた伊藤美誠(23)が、まさかの代表落ちである。背景にコーチ不在を指摘する声もあるが、その実態を探ってみたところ……。

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【写真】五輪金メダリスト「伊藤美誠」を育んだ実家の様子。リビングには卓球台、そしてトイレにはびっしりと張り紙が…

〈美誠号泣…傷だらけの終戦〉(スポーツニッポン)、〈力尽き涙に暮れ〉(日刊スポーツ)など、1月27日、スポーツ紙は伊藤の代表落ちをこぞって報じた。

 その前日、彼女はパリ五輪代表選出の行方を左右する全日本卓球選手権に出場。女子シングルス6回戦で敗退し、個人としての代表入りが消滅。その後、彼女は人目をはばからず号泣したのであった。

伊藤美誠

 実は卓球界では皆が首をかしげる異様な光景が目撃されていた。

「コーチ不在で負けたとは思えませんが…」

 試合の合間や休憩時間などに選手はコーチから作戦を伝授されるが、彼女はひとりぼっちで水を飲むだけ。傍らにつくベンチコーチの不在が常態化していたのだ。

 卓球コラムニストの伊藤条太氏によれば、

「選手と共に試合会場に入るのがベンチコーチで、試合の合間に助言する以外に、普段の練習での指導も行います。大きな試合でベンチコーチをつけていないのは、トップ選手では極めて珍しい。もともと彼女は自分がやりたいようにやる独立心の強い選手。東京五輪で結果を出し、再スタートを切るのに時間がかかったのと腰痛などのけがで苦しんでいた。私にはコーチ不在が原因で負けたとは思えませんが……」

試合でも二人三脚だった

 確かに伊藤は、約1年前から“卓球を始めた頃の野生の本能を取り戻したい”と話し、コーチをつけず勝負に挑むと宣言してはいた。

すべてを知る男

 だが、外されたコーチは伊藤のすべてを知る男と言っても過言ではない。

 その人物とは、彼女が小学生の頃からの練習相手で、中学生から正式にコーチとなった松崎太佑氏。伊藤の母が代表を務める伊藤のマネジメント事務所でも、彼は取締役として名を連ねるほどで、全幅の信頼を得ていたことがよくわかる。

 ところが、である。同社の登記簿をみれば松崎氏は、昨年11月30日付で取締役を退任。「伊藤美誠担当コーチ」として登録されていた日本代表強化スタッフリストからも、昨年前期以降は消えたのである。

「そんな美誠を見るのが忍びないくらいだった…」

 伊藤が練習拠点としていた関西卓球アカデミーで当時、ヘッドコーチを務めていた大内征夫氏は、

「松崎コーチは、対戦相手の戦績や弱点を細かく記録して分析する能力に長けていた。ベンチに入らなくなった後も、彼は美誠が関西アカデミーに来た際はアドバイスしていたよ。彼女との縁が切れたわけでもないと思う。ただ、東京五輪後は、他の選手が美誠の弱点を徹底的に研究し、攻められる場面が目立っていた。彼女はフォアに来た球をスマッシュして得点にする。これを自慢の“ハエたたき”と呼ぶが、フットワークが落ちテンポも合わず、彼女を怖がる相手がいなくなった。私自身、そんな美誠を見るのが忍びないくらいだったよ……」

 団体戦のメンバー入りも逃して意気消沈の彼女には、今こそ“糟糠のコーチ”の助言が必要に違いない。

「週刊新潮」2024年2月8日号 掲載