このままテレビから消える?

写真拡大

「当該事実は一切ない」から「事実確認を進めている」へ――。人様を笑わせてナンボの吉本興業が、松本人志の「性加害疑惑」を巡って笑えない初動ミスを犯したのは間違いない。その背景を探ると、ある時期から変化した、吉本と芸人の「歪(いびつ)な関係」にたどり着く。

 ***

【写真】5億5000万円訴訟の松本人志、実際いくら稼いでる? ダウンタウン2人の納税額を見る

 吉本興業は危機管理が苦手な会社である。

 以前、本誌(「週刊新潮」)が“怪芸人”中田カウスの暴力団との交際などについて報じた際には、NHKがカウス出演分の番組の放送延期を決定したにもかかわらず何ら会見等の対応をせず、関係者を唖然とさせた。2019年の「闇営業問題」の時は岡本昭彦社長が5時間半にわたる記者会見を行ったものの、「史上最悪の会見」と揶揄されることに。そして今回、またしても吉本の“危機管理下手”が満天下にさらされたのである。

このままテレビから消える?

 昨年末、「週刊文春」に報じられて以降、各所に甚大な影響をもたらしている「ダウンタウン」松本人志(60)の「性加害疑惑」。記事が出た直後、吉本は「当該事実は一切なく、(略)厳重に抗議」する、としていた。ところが、今年1月24日に吉本が公表した見解では、「当事者を含む関係者に聞き取り調査を行い、事実確認を進めている」と、大きく軌道修正したのだ。

危機管理の四つのステージ

「週刊文春の発売直後に、吉本興業が“当該事実は一切ない”という主旨のコメントを発表したのは、明らかな失敗でした。危機管理は『感知・解析・解毒・再生』という四つのステージに沿って進めるという理論に反しているからです」

 そう話すのは、株式会社リスク・ヘッジ取締役の田中辰巳氏である。

「感知とは、危機を感じ取ったら事実をくまなく知るという作業で、それができていないと次のステージの解析を間違えてしまいます。案の定、吉本は最初にコメントを出した約1カ月後に軌道修正。“真摯に対応します。調べます”とのコメントを出すことになってしまいました。これではまるで松本さんの疑惑が真実であると認めるかのような印象を人々に与えてしまいます」

週刊文春側の言動にも疑問が

 記事が出た直後、吉本はどのようなコメントを出せばよかったのか。以下は危機管理の第一人者である田中氏が考えた“正解コメント”である。

〈読者が不快に感じる内容の報道に直面して困惑しています。事実ならば人に愉快さを提供する企業として由々しき問題と認識しています。ただちに自らの手で調査をしますが、必要に応じて第三者に調査を委ねます。弊社および所属芸人の信用や業務への多大な支障が発生すると思われますので、事実誤認や出版社の商業的意図の有無を公益に照らして記事を精査していきたいと考えています〉

 なるほど、このようなコメントを出してきちんと対応していれば、吉本が企業イメージの低下を最小限に抑えられていた可能性は大いにあろう。

「週刊文春側の言動にも、疑問を感じるものがありました」

 と、田中氏は言う。

 その一つが、松本の記事が掲載された「週刊文春 1月4・11日新年特大号」の発売に合わせて「週刊文春電子版 年末年始 特大キャンペーン」なる割引キャンペーンを実施すると宣言したことだといい、

「さらに、新年特大号が完売となると、週刊文春の編集長は“本当に嬉しく思います”とのコメントを出しました。松本さんの記事があるからキャンペーンを打ったというわけではないのかもしれませんが、この二つのメッセージは裁判において決してプラスには働かないと思います。松本さん側がこの点を法廷で指摘すれば、商業的意図の報道という心証を裁判官に与えかねないからです」(同)

“お礼LINE”の存在

 また、さる司法記者は、松本からの性被害を告白した〈A子さん〉がアテンド役の「スピードワゴン」小沢一敬に送っていた“お礼LINE”に注目する。このLINEは文春の第1報では全く触れられておらず、1月5日に「週刊女性PRIME」が初めてその存在を明らかにした。

「性被害にあった女性がこうした心にもない“お礼”をしてしまうことがあるのは、文春が続報で取り上げている通りですが……」

 と、司法記者は言う。

「裁判では、文春が第1報の記事を書くにあたり、“お礼LINE”の存在を知らなかったのかあえて触れなかったのかが問題になる。ただ、どちらの場合でも、松本側の弁護士や裁判官から追及されることになると思います」

 いずれにせよ、焦点となる女性への性加害だけではなく、「飲み会」までなかったとも受け取れるコメントを出した吉本の過ちは間違いない。

「あんな内容のコメントになったのは、記事に激怒した松本が“事実無根と言うとけ”と言い、それに会社側が従ったからでしょうね。松本から“それでええねん”と言われたら、岡本社長は黙るしかありません。吉本における立場は、岡本社長より松本の方が圧倒的に上ですから」(吉本興業元幹部社員)

“カバンなんか持たんでええ”

 岡本社長はダウンタウンの元マネージャーではある。しかし社長として、少なくとも対等の立場でモノが言えないのはやはり歪な関係と言わざるを得まい。

「昔の吉本では、芸人とマネージャーの間でもっとコミュニケーションが取れていました。怒られたりけんかすることもありましたが、家族的な会社で、芸人に対してモノが言えないということは全くなかった」

 そう振り返るこの元幹部社員に「芸人との付き合い方」を指南したのは、吉本の中興の祖ともいわれる故中邨(なかむら)秀雄元社長だった。

「中邨さんがまだ役員だった頃、私を含む若手社員によくこう言っていました。『芸人のカバンを持つな。芸人を師匠と呼ぶな。この二つを徹底しろ』『お前らは芸人のカバン持ちとちゃう。プライドを持って仕事をせえ』と」

 そんな中邨氏の教えは芸人たちにも浸透していた。

「移動先で私が西川のりおさんのカバンを思わず持ってしまった時、のりおさんが“お前、カバンなんか持たんでええ。そんなん持たんと、もっとおもろい仕事いっぱいとってきてくれや”と気遣ってくれたのを覚えています」

芸人とマネージャーの関係を変えたダウンタウン

 芸人とマネージャーの正常な関係。それが変化するきっかけを作ったのが、

「ダウンタウンの二人と、彼らの才能を見いだして育て上げた大崎洋前会長です。例えば、ダウンタウンの自宅まで迎えに行ったりするようになったのですが、そんな特別待遇はそれまでありませんでした。こうしたやり方が今田耕司などのダウンタウン一派にも広がり、会社全体に浸透していったわけです」(同)

 吉本が当初、「当該事実はない」とのコメントを出したことを「会社の初動ミス」と斬って捨てたのは西川のりおだった。吉本の“古き良き時代”を知る西川は、あえて批判役を買って出ているに違いない。

「週刊新潮」2024年2月8日号 掲載