ジョン・ラームのInstagramより

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 リブゴルフの今季初戦が2月2〜4日の3日間、メキシコのマヤコバで行われる。しかし、これまでとは異なるリブゴルフの変化に、迷走を始めている様子が見て取れる。【舩越園子/ゴルフジャーナリスト】

【写真】テキーラの原料巨大な「アガベ」を収穫するジョン・ラーム

統合するPGAツアーは迷走

 昨年6月、PGAツアーのジェイ・モナハン会長とリブゴルフを支援するサウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」のヤセル・ルマイヤン会長によって、両者の統合合意が電撃的に発表された。

 統合発表の直後から米ゴルフ界では「リブゴルフの未来は危うい」という見方が広がった。発表の時点で、リブゴルフの指揮権はグレッグ・ノーマンCEOからモナハン会長に移され、モナハン会長によってリブゴルフが解体される可能性さえ指摘されていたからだ。

ジョン・ラームのInstagramより

 しかし、両会長による一方的な合意発表に憤慨する声がPGAツアーの選手から一斉に上がり、モナハン会長の信頼は失墜。今ではモナハン会長がリブゴルフの運命を握るという見方自体が影を潜め、むしろ長年のタイトル・スポンサーだったファーマーズ・インシュランスとウェルズ・ファーゴの降板が決まったPGAツアーの迷走を案じる声も聞こえ始めている。

 リブゴルフとの統合に関しては、その後はPGAツアーの理事会が主体となって討議を重ねている。その結論がどうなるにせよ、リブゴルフの2024年シーズンが予定通り開催されることは昨夏に発表されていた。

ラームが移籍

 リブゴルフの特徴は、個人戦とチーム戦を同時進行で行なう競技方式にある。4人1組、計12チームの全48人が、ショットガン方式で各ホールから同時スタートするフォーマットが創設当初から採用されてきた。

 それはPGAツアーを筆頭とする従来のプロゴルフツアーとはまったく異なるリブゴルフならではの斬新な競技方式とされてきた。ところが、ここへ来て、リブゴルフにある問題が浮上した。

 推定3億ドルとも6億ドルとも言われる破格の移籍料を支払って、昨年12月、ついに獲得した世界ランキング3位のジョン・ラームの「座る椅子がない」という事態を迎えてしまったのだ。

 米メディアによると、ラームは「自分のチームを持つ」ことを移籍の条件として提示していたが、全12チームにはそれぞれキャプテンが鎮座している。そして昨年からリブゴルフでは、各チームを共にビジネスをする仲間と位置づけるフランチャイズ化が開始された。そのため、ノーマンCEOから請われてリブゴルフにやってきたビッグスターのラームであっても、既存のチームやキャプテンのテリトリーをおびやかすことはできない。

12チーム→13チーム

 そこでリブゴルフは、ラームをキャプテンとする13番目の新チームを作ることを決断。創設時からの「4人1組×12チーム=計48人」というフォーマットは変更され、今季から「4人1組×13チーム=計52人」の選手が競い合うことになった。

 ラームがキャプテンとなった13番目のチームの名前は「Legion VIII」。名付け親のラームによれば、古代ローマ帝国の軍隊の名前に由来するのだそうだ。

 新チームを作るとなれば、当然ながらキャプテンのラーム以外にあと3人の選手が必要になる。そこで白羽の矢が立てられたのが、PGAツアーのティレル・ハットン だった。

 ハットンは32歳の英国人選手で、DPワールドツアーで6勝を挙げ、PGAツアーでも2020年のA・パーマー招待を制した世界ランキング16位のトッププレーヤーだ。ハットンは1月24日、2月上旬のWMフェニックス・オープンに「出場する」と語っていたが、わずか5日後の29日にリブゴルフへの移籍を発表した。

 ハットンがこれまでPGAツアーで稼いだ賞金の合計額は約2200万ドルだが、米スポーツイラストレイテッドによると、リブゴルフからオファーされた移籍料は6300万ドル。生涯獲得賞金の3倍近いビッグマネーが、ハットンの手のひらをあっという間に返させたと見られている。

トップアマがいきなりリブゴルフに

 そして、残る2人の選手のうちの1人は、昨年末にリブゴルフで初開催されたプロモーション・イベント(予選会)を突破したジンバブエ出身の26歳、キーラン・ビンセント。日本ツアーやアジアツアーに出ていたスコット・ビンセントの弟で、兄のスコットはすでにリブゴルフ選手としてケビン・ナのチームに所属している。

 気になるのは、最後の1人となったテネシー大学2年生の米国人アマチュア、弱冠19歳のカレブ・サーラントだ。彼は世界アマチュアランキングでトップ10に数えられるトップアマの1人だ。昨年はライダーカップのアマチュア版であるウォーカーカップに米国代表として出場するなどビッグ大会で活躍してきた。

 そんなトップアマが大学を中退していきなりリブゴルフにデビューすることは、将来有望なヤングプレーヤーがPGAツアーを頂点とするゴルフ界のピラミッドに目もくれず、リブゴルフを選んだことを示している。

デビューの経緯に疑問も…

 米国のトップアマがPGAツアーを経験することなくいきなりリブゴルフでプロデビューした例は、サーラント以前にもすでに2例ある。

 アリゾナ州立大学出身で世界アマチュアランキング9位だったダビド・プイグが2022年シーズンからリブゴルフに加わり、オクラホマ州立大学在学中で同ランキング2位だったエウヘニオ・チャカラもプイグに続いた。

 若く優秀な才能がリブゴルフへと向かうことは、本人たちが望んで決めているのだろうから、周囲が引き留めたり咎めたりすることはもちろんできない。だが、今回のサーラントに関して言えば、彼が突然、テネシー大学を中退し、プロに転向してリブゴルフでデビューすることを決めた経緯が不透明であることに疑問を覚えずにはいられない。

ラーム自ら勧誘

 昨年末の予選会を勝ち抜いてリブゴルフの出場資格を手に入れたビンセントや日本の香妻陣一朗らは、正当にリブゴルフにクオリファイした選手たちである。

 それならば、サーラントはどうやって何の資格でリブゴルフ選手になったのか。米ゴルフウィーク誌によると、ラームは契約メーカーなどを通じてサーラントと知り合い、連絡を取り合っていたとのこと。

 ラームやハットンのようなトッププレーヤーが高額な移籍料によって勧誘されることは「さもありなん」だが、まだプロとしての実績ゼロのアマチュアが、移籍料はさておき、一選手による勧誘によってリブゴルフに引き入れられ、そしてデビューできるのだとすれば、昨年から開催された予選会は形骸化してしまう。そして、あの予選会は世界ランキングの対象ツアーとして認めてもらうために形式的に行なっただけだと思えてくる。

 ラームを獲得したがゆえに本来の「4人×12チーム=計48人」体制を壊し、「4人×13チーム=計52人」を擁するリブゴルフに様変わりしたこと、そして人数合わせの勧誘が成立してしまうところに、プロゴルフツアーとしての脆弱性を感じずにはいられない。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部