2025年の殿堂入りが確実視されるイチロー氏

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ステロイドの時代に“原点回帰”の功績も

 アメリカの野球殿堂は1月24日に今年の殿堂入りを発表し、レンジャーズなどでプレーしたスラッガー、エイドリアン・ベルトレ氏、強打の元捕手ジョー・マウアー氏、ロッキーズ一筋で通算2519安打のトッド・ヘルトン氏の3人を選出した。全米野球記者協会に10年以上在籍する記者による投票で、史上初の野手での満票選出がなるかどうかが注目されていたベルトレ氏は95.1%で、わずかに届かなかった。

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 来年はいよいよ日本人初の野手のメジャーリーガーであり、主にマリナーズで「安打製造器」として活躍したイチロー氏(50)の番である。シーズン最多262安打の大リーグ記録を樹立するなど通算3000安打の金字塔を打ち立て、米野球最高の栄誉を、資格1年目に日本人として初めて手にすることが確実視されている。焦点はベルトレ氏が逃した史上初の偉業の成否だが……。

2025年の殿堂入りが確実視されるイチロー氏

 投票経験がある記者を含め、多くの米球界関係者からは「イチローでも満票は難しいだろう」との声が相次ぐ。その背景を探ると――。

 今回、得票率が断トツだったベルトレ氏は現役時代に通算3166安打、477本塁打を放っている。いずれもイチロー氏を凌ぐ数字で、3000安打はドミニカ共和国出身選手としては初の快挙だった。MVP1度、オールスター戦選出は4度、シルバースラッガー賞は4度、ゴールドグラブ賞は5度と輝かしい実績を誇る。

 これに対し、イチロー氏は、MVPがベルトレ氏と同じ1度で、オールスター戦は10度、シルバースラッガー賞は3度、ゴールドグラブ賞は10度と勝るとも劣らない。これらの受賞歴に加え、「ステロイドが蔓延し、ホームランによる大味な野球が全盛だった時代に、野球の原点と言えるスピードを持ち込んだプレーは鮮烈でした。凡打を安打にする俊足のほかにも(レーザービームと呼ばれた)強肩が武器で、大リーグに野球本来のスリリングな魅力を取り戻させた足跡は非常に意義深いことだったと思います」(米大手マネジメント会社の代理人)。

 現代のメジャーで、日本人選手の道を切り開いたのは1995年にドジャース入りした野茂英雄氏だが、渡米した2001年当時、通用するのは至難の業とされた野手でのパイオニアは紛れもなくイチロー氏である。満票でも不思議ではないように感じられる。

イチロー氏に足りないモノとは

 かねて一部の米メディアでは、イチロー氏の満票選出を阻む唯一の要素は「日本人であること」との報道が出た。イチロー氏もマーリンズ時代の17年に「氷やコインを投げられ、実際に何度か頭に当たった。耳にしたくないようなことも言われた」とファンによる自身への差別的な言動に言及している。ダルビッシュ有投手(パドレス)は敵選手からも差別的行為を受けた。

「アメリカ社会にアジア人への差別は根強く残っています。マー君(田中将大投手=楽天)がコロナ禍で日本球界復帰を決めたのも、お子さんが学校で差別的なイジメで身に危険を感じたからです。殿堂で投票する記者の中にも少なからず、アジア人を手放しで認めたくない人はいるでしょう」(同代理人)

 しかし、この代理人によると、イチロー氏が満票を逃すとすれば、「人種的な理由」ではないという。

「今は逆に人種的なことで票を投じなかったと受け止められるリスクが記者にある。そういった意味ではイチローさんが日本人であることが有利に働く可能性すらある。イチローさんの満票に唯一、足りない要素があるとするならば、プレーオフでの実績、ワールドシリーズでのチャンピオンリング、さらに言えばワールドシリーズでのインパクトある活躍です」

リベラ氏が満票だった納得のワケ

 イチロー氏がプレーオフでプレーしたのはマリナーズでメジャーデビューした01年と、ヤンキース時代の12年の2シーズンのみ。いずれもリーグ優勝決定シリーズどまりで、ワールドシリーズではプレー経験がない。キャリアの多くを低迷したチームで過ごした。

 大リーグ史上ただ一人、19年に満票選出を果たしたマリアノ・リベラ氏はメジャー歴代最多の652セーブを挙げた。全てヤンキースという特殊な球団で、クローザーとして試合の勝敗の責任を一身に背負ったものだ。ワールドシリーズ制覇は5度も貢献した。

「手厳しいメディアの評価に常にさらされている名門球団で、個人としてもチームとしても突出した成績を残しました。もちろん薬物にも無縁でした。パナマ出身で15年にアメリカに帰化したことに関係なく、リベラのレベルまで来て初めて、うるさい記者にケチをつけられなくなるのではないでしょうか」(同代理人)

 野球の本場の米国でのプレーオフは、日本のクライマックスシリーズとは比較にならないほどの価値、注目度がある。「ミスターオクトーバー」の言葉を引くまでもなく、プレーオフで活躍してこそと言える。大谷翔平が勝つことに固執し、展望が見えないエンゼルスからドジャースに移籍したのも、米国ではワールドシリーズ覇者こそが至上の価値であることを切実に感じたことの裏返しでもある。

松井氏の実績があれば満票は確実だったか

 ワールドシリーズで日本人選手の活躍と言えば、松井秀喜氏である。ヤンキース時代の09年のワールドシリーズで3本塁打、8打点と神懸かり的な好成績を残し、日本人で初めて最優秀選手(MVP)に輝いている。ヤンキースはいまだ、その年を最後に頂点に立っていないだけに、その功績は色褪せない。

 前出の代理人はこう惜しむ。

「イチローさんが所属していたチームは勝てませんでしたから……。ランニングホームランを放った(07年の)オールスター戦のMVPでは(満票の)決め手にはならないでしょう。イチローさんに松井さんのようなワールドシリーズでの実績があれば、満票は確実だったかもしれません」

 過去に高得票率で殿堂入りした野手では、ヤンキースの主将で一時代を築いたデレク・ジーター氏が20年に99.7%、若き日のイチローさんが憧れたケン・グリフィー氏が16年に99.3%といずれもわずかに満票に届かなかった。日本人初の殿堂入りの快挙に、花を添える満票はイチロー氏でも至難の業のようだ。

デイリー新潮編集部