高橋大輔が魅せたエンターテイナーの才 ダブルアクセルも披露し鍛え上げた肉体は芸術的
1月19日、東京・ダイドードリンコアイスアリーナでアイスショー『プリンスアイスワールド』東京公演が開幕した。ミュージカルとの融合で、ブロードウェイの世界を氷上に再現し、フィギュアスケートの可能性を示している。
『Birds/MAKEBA』を披露した村元哉中(右)と高橋大輔
「大人数でみんなと絡みながらやっていくというのは、むちゃくちゃテンションが上がります」
ショー前半のトリを飾る『Welcome to the Moulin Rouge Medley』のナンバーで、高橋は颯爽と登場している。
2005−2006シーズン、シングル時代に用いていた『ロクサーヌのタンゴ』に乗って、集まった観客を魅了。宣言していたとおりにダブルアクセルも成功させ、場内を盛り上げた。
「ソロで滑っていた時は、情景を思い浮かべながら滑っていたんですが。今回は前半に女性、後半には男性と絡んで、最後にみんながバッと出てくるのは同じ楽曲でも新鮮で。よりいっそうパワーを感じられて、すごく楽しかったですね」
高橋はそう振り返ったが、20年近く前に滑っていた曲を違った形に昇華させるところに、スケーターとしての歴史と技量を感じさせた。
終盤、高橋がひざをついて右手を氷にかざすと、氷が割れるような照明の演出になっている。音楽と光と一体になれるのは、エンターテイナーの才能だろう。
そこから華麗なステップを踏むたび、ひび割れは大きくなって、彼が手をかざすと、一斉に他のスケーターが飛び出す。曲の盛り上がりと重なる演出で、迫力を感じさせた。【不可能を可能にしてきた軌跡】
高橋はいつも過去と今を結びつけ、未来をつくり出す。たとえば、アイスダンサーとしてのラストシーズンに『オペラ座の怪人』で全日本選手権優勝を果たしたが、それはシングル時代、2006−2007シーズンの世界選手権で初めてメダルを勝ちとった時のプログラムだった。
「(ミュージカルで一番印象的なのは)『オペラ座の怪人』で。何度見ても見入ってしまう。大好きで、自分にとっても特別なプログラムで。いつかスケート(の舞台など)で世界観を表現できれば最高だなと。難しいとは思いますけど、できたらいいなって常々思っています」
高橋はそう言うが、新たなバージョンの『オペラ座の怪人』も十分あり得るだろう。彼はそうやって不可能と思われたものを可能にしてきた。
シングル時代には、五輪メダル、世界選手権とグランプリファイナル優勝を日本男子として初めてもたらし、世界のフィギュアスケートの潮流を変えている。そして、2018年には4年ぶりに現役復帰を遂げ、全日本選手権2位の快挙。
さらに2020年からはアイスダンスに転向。関係者の下馬評をひっくり返し、世界の舞台で日本勢歴代最高のスコアをたたき出したのである。
"パイオニア高橋"の進化は止まらない。
ショー後半、高橋は村元哉中と今季つくったプログラム『Birds/MAKEBA』で、アイスダンサーとして舞っている。リンクに響く蠱惑(こわく)的なボーカルに合わせ、村元とひとつに溶け合いながら艶やかに体を動かした。
それぞれ身のこなしが美しく、どこから活写してもさまになった。スローテンポをきれいに見せるには、筋肉の一つひとつまで思いどおりに動かせないといけない。
後半に入ってリズムが上がると、高橋はダンサーの力量を見せた。世界のトップテンに迫ったふたりの調和は美しく、ダイナミックなリフトも入った。
アフリカの部族が用いるような極彩色の上着とパンツの衣装、黒いシャツの隙間から見える鍛えた腹筋は、その躍動を引き立てた。野性的というか、アフリカの大地を匂わせ、心のままに、という解放感があった。
アイスダンサーとしての集大成だが、これも進化のプロセスのひとつと言えるか。
ーー雑誌『anan』で、アイスダンスでカップルを組んだ村元さんとふたりで表紙を飾りましたが、その感慨を教えてください。
その質問に、高橋は「難しいですね」とうなりながら、丁寧にこう答えている。
「(昨年5月の現役引退発表の)3シーズン前、哉中ちゃんと一緒にふたりでの撮影があったんですけど、その時はすごくぎこちなかったんです。それが今回は自然に、お互い何も言わずにスムーズにポーズがとれて。3年でいろんな経験をたくさんしてこられたんだなと、あらためて思いました」
ふたりの結成会見があった2019年9月、のちに「かなだい」と親しまれるふたりは初々しかった。「何かポーズをとってください!」というカメラマンの要求に対し、高橋はどぎまぎ。すでにアイスダンスの第一人者だった村元にエスコートされていた。
それが現役引退会見のフォトセッションでは、村元と息を合わせたリズムダンス『コンガ』のポーズを堂々と決め、動き出しそうな躍動感があった。
また、先日の『プリンスアイスワールド』公開練習後の取材では、自ら率先して盟友の小林宏一をリード。背筋の筋肉が美しくカーブを描き、太ももやふくらはぎの筋肉が上品に隆起し、芸術的ですらあった。
高橋は今も成長のアルバムを残し続ける。今回のアイスショーもひとつの転機か。探究者は模索し、生まれ変わる。
アイスショー『プリンスアイスワールド』東京公演は1月21日まで開催されている。