ロリー・マキロイのHPより

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 ゴルフ界の2024年シーズンはまだ始まったばかりだが、この人の周囲ではすでに4月のマスターズの話題が飛び交っている。「この人」とは、マスターズ制覇を悲願に掲げる北アイルランド出身の34歳、ロリー・マキロイのことだ。【舩越園子/ゴルフジャーナリスト】

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「今年こそは」マスターズ優勝

 メジャー4勝を含むPGAツアー通算24勝の実績を誇り、世界ランキングでは2位に付けるマキロイだが、マスターズだけはどうしても勝てないまま歳月が流れている。メジャー4大会では、2011年に全米オープンで勝利して以降、12年には全米プロ、14年には全米プロと全英オープンで勝利を挙げた。残るマスターズも制覇すれば、キャリア・グランドスラムの達成となる。

ロリー・マキロイのHPより

 そのマスターズでは勝利を目前にしたことも過去にはあったが、最高順位は22年大会の2位。グリーンジャケットを羽織るチャンピオンの儀式は、いまだ経験できずにいる。そして、マスターズのみならず他のメジャー大会も、14年以降、勝利から遠ざかっている。そんなマキロイには、時間的、年齢的な焦りも生じているのではないだろうか。

 22年にキックオフしたリブゴルフとPGAツアーの対立が激化していく中、PGAツアー理事の一人として「アンチ・リブゴルフ」の旗振り役を務めてきたマキロイは、昨年11月に突然、理事を辞任し、周囲を驚かせた。

「一人のプレーヤーとして、やるべきこと、やりたいことがある」

 その「やるべきこと、やりたいこと」がマスターズ制覇、キャリア・グランドスラム達成を指すことは、誰もが想像できる。マスターズ出場は今年で16度目。「今年こそは」と強い想いを抱いているマキロイが、そのための秘策を米メディアに明かした。

「今年はもっと多くの試合に」

 近年、マキロイは、新年早々にハワイで開催されるPGAツアーの大会には出場せず、ドバイで開催される欧州のDPワールドツアーの2試合に挑むことが恒例化している。それはドバイに別邸を持つマキロイが、「自分の家から通って試合に出たい」と考えてのことで、毎年の彼のルーティーンのようになっている。

 今年も1月11日から14日に開催されたドバイ・インビテーショナルに出場し、初日から62をマークして好発進。新年初戦でいきなりの優勝が期待されたが、最終日の大詰めで3パットや池ポチャを喫し、英国出身のトミー・フリートウッドに1打差で敗れた。

 続く今週(1月18〜21日)はヒーロー・ドバイ・デザート・クラシックにディフェンディング・チャンピオンとして臨んでいる。そして、ドバイでの2試合を終えると米フロリダ州の自宅へ戻り、ようやくPGAツアーにおける彼の初戦を迎える。

 米スポーツイラストレイテッドによると、今季のPGAツアーにおける試合出場スケジュールを問われたマキロイは、こう答えたそうだ。

「今年はマスターズまでに、今まで以上に試合に出る。とりわけマスターズの前週は、自分のゴルフがいい状態にあることを確認するためにも、必ず出場したいと思っている。これまでは毎年、4月のマスターズまでに6〜7試合しか出ていなかったけど、今年はもっと多くの試合をこなし、マスターズが今年の9試合目か10試合目になるようにしたい」

 より多くの試合に出ることで調子も気持ちも上げていき、体調も整え、すべてを最高の状態に高めたところでマスターズを迎えたい。それが今、マキロイが考えているマスターズ優勝のための「秘策」ということなのだろう。

「そうすれば、マスターズのときに僕は、今までよりシャープな状態になっているはず。そして、自分のゴルフの状態も正確に把握できているはずだ」

 ドバイから米国に戻ったマキロイがどの試合に出場するかは容易に推測できる。2月1日から始まるAT&Tペブルビーチ・プロアマ、2月中旬のジェネシス招待、3月上旬のアーノルド・パーマー招待はいずれも賞金総額2000万ドル、3月中旬のプレーヤーズ選手権は賞金総額2500万ドルが用意されるシグネチャー・イベントゆえ、これら4試合に出場することはほぼ間違いない。

 シグネチャー・イベントではないレギュラー大会であっても、大観衆が詰め寄せて賑わう2月のWMフェニックス・オープンや、「フロリダの自宅から通える」という3月のコグニザント・クラシックにも、ひょっとすると出場するのではないかと見られている。

 そして、マスターズ前週のバレロ・テキサス・オープンに出場すると、年初のドバイ2試合を含め、マスターズは彼にとって「今季10試合目」という計算になる。

明け方まで泣き続けた

 たくさんの試合に出場して心身ともに上向かせ、マックスの状態に持って行くという考え方はとても精力的で前向きだ。だが、かつてマキロイがオーガスタ・ナショナルで味わったあまりにも苦すぎる経験を考え合わせると、そのせいで彼はいろいろなことを「考えすぎ」「構えすぎ」「意識しすぎ」になっているのではなかと思えてくる。

 そう、マキロイはグリーンジャケットを羽織りかけるほど、勝利に迫ったことがあった。

 あれは彼が3度目のマスターズを迎えた11年大会だった。マキロイは最終日の前半を終えた時点でも、依然として単独首位を走っていた。しかし、折り返し直後の10番でティーショットを大きく左に曲げ、ボールはコース外の民家の庭まで飛んでいってしまった。そのホールでトリプルボギーを叩いたマキロイは、12番では4パットしてダブルボギーを喫し、ガラガラと崩れ落ちていった。

 終わってみれば、最終日は80の大叩きで15位タイ。その夜、明け方まで母国の父親と電話で話し続けたそうで、「ロリーは泣き続けた」と彼の父親が後に明かしている。

 あの経験がトラウマになっているのかどうか。以後、マキロイは「オーガスタ・ナショナルはゴルファーにとってはディズニーランドみたいな場所だ」と笑顔で語っているものの、そのディズニーランドはいつまで経っても彼の夢を叶える楽園にはならず、むしろ苦い思い出ばかりが増えていく。

 15年大会は単独4位、20年大会は5位タイ、そして22年大会は単独2位。「あと少し」「あと一歩」がなかなか進めず、挙げ句の果てに昨年の23年大会は予選落ちとなり、彼は唇を噛み締めながら無言で去っていった。

「短いほうのリストに…」

 あるとき、米ゴルフダイジェスト誌のインタビューで「あなたは自分がグリーンジャケットを羽織るに値すると感じているか?」と問われたマキロイは、こう答えたそうだ。

「僕は何に対しても、自分が何かに値するなんて思ったことはない。ゴルフというゲームから十分すぎるものを授けてもらっているのだから、何であれ、自分自身で獲りに行かなきゃいけない、稼ぎに行かなきゃいけないと思っている。『メジャー・タイトルを、あと1つ獲ればグランドスラム』というリストには何人もの選手が、そして僕も名を連ねている。でも、僕は『メジャー4大会すべてのタイトルを獲った人』という短いほうのリストに自分の名前を載せたい」

 現在、グランドスラム達成者は、ジーン・サラゼン、ベン・ホーガン、ゲーリー・プレーヤー、ジャック・ニクラス、タイガー・ウッズのわずか5人。そこに、ロリー・マキロイの名前が6人目として加わることになるのかどうか。

 マキロイも、そしてゴルフファンも、大いに身構え、ドキドキしながら、4月のマスターズ開幕を待つことになりそうである。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部