保険金不正請求問題に揺れるビッグモーター(写真:つのだよしお/アフロ)

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中古車大手ビッグモーターの保険金不正請求問題をめぐる損保ジャパンの対応について、親会社のSOMPOホールディングスは2024年1月16日、社外調査委員会の調査報告書を公表した。

組織的な保険金の不正請求が疑われる中、ビッグモーターの整備工場への事故車の「入庫紹介」を他の損保会社が停止しているにもかかわらず、損保ジャパンのみが再開を決定してしまった「判断ミス」から大きな企業不祥事に発展した経緯を、役職員へのヒアリングに基づき詳細に記している。

売上高や市場シェア偏重で顧客軽視

この問題は、事故車両の損傷修理にかかる保険金請求に関して、ビッグモーターが故意に事故車両を傷つけるなどして修理費用を水増しする手口で、虚偽、架空または過大な内容の不正請求を損保ジャパンに対して繰り返し行っていた、というものだ。

報告書は、損保ジャパンが属するSOMPOグループの組織やガバナンス体制などの事実を踏まえ、不正請求問題の具体的な対応状況を確認。問題が起きた原因を「人的要因」と「制度的要因」の観点から分析し、再発防止策を提示している。

そして、トップライン(売上高・営業収益)やマーケットシェアを偏重して自社都合や代理店対応に重きを置くあまり「真の顧客利益」を重視していなかったことや、リスク認識および危機対応の前提としての「想像力の乏しさ」があったことなどについて、経営陣の責任を厳しく問うている。

一方、ビジネスパーソンの立場で最も気になるのは、現場で働く人たちの対応だろう。ビッグモーターが組織的な不正を行っていることを、損保ジャパンの現場で気づいた人はいなかったのか。いたとして、その情報はなぜ上層部にきちんと伝わらなかったのか。

この点について報告書は「経営層と現場役職員との意識の著しい乖離」と題した項目で、損保ジャパンの保険金サービス部門の現場担当者は、ビッグモーターの整備工場の修理品質が低いことや、サンプリング調査等により全国的に不正請求が広がっている可能性があることを認識していた、と明記している。

しかしそのような情報は、物損統括や保険金サービス部長には上げられていたものの、それより上位の幹部には報告されないままでストップし、経営層にまで共有されることはなかったとしている。

「保険金サービス部門の発言力が営業部門に比して乏しかった」

上位幹部に問題が報告されなかった理由は、次の2つだ。

1つ目は、保険金サービス部門においては、顧客目線で整備工場の品質を見極めることよりも「営業部門の意向を過度に配慮する傾向があった」うえ、「保険金サービス部門の発言力が営業部門に比して乏しかった」ためだ。

2つ目は、保険金サービス部門の経験が豊かな取締役はほとんどおらず、「保険金サービス部門に現場の役職員の持ち合わせている情報や意見が経営層に伝わりにくかった」ためだ。

いずれからも、顧客軽視、営業重視の価値観がうかがえる。売上高や市場シェアを追求するあまり、事業の中核となるはずの顧客価値がおろそかになり、営業部門の発言力が過度に強まることは、他の会社でもみられることだ。

また、ビックモーター担当営業部においても「ビッグモーターが営業上重要な大型代理店である」ことから、ネガティブな情報を見聞きしても取り立てて経営層に伝えることをしなかったという。

もうひとつ気になるのは、コンプライアンス部門がなぜ機能しなかったのかという点だ。これについて報告書は「内部統制システムの不備及びコンプライアンス体制の機能不全」という「制度的要因」があったとする。

報告書は、事故車の「入庫紹介」の運用に関して、顧客被害が発生するおそれのあるコンプライアンスの重要案件ともなれば、保険金サービス企画部の担当役員が法務コンプライアンス部との合議のうえで決済し、さらには他社動向も踏まえて経営会議や取締役会にも付議して、より高次の意思決定を行うべきだったと指摘する。

しかし、事務分掌(役割分担)が不明確であったことも災いして、こうしたシステマティックなプロセスが取られることはなかった。

「お粗末と言わざるを得ない」

報告書によると、損保ジャパンの事務分掌では、法務コンプライアンス部が取り扱う「不祥事件」とは、保険代理店等の不祥事件を指すと解釈されていた。

そのため、保険代理店兼整備工場による保険金の不正請求は「あくまで保険募集人でない整備工場の行員によるもの」なので、法務コンプライアンス部は自己の所管ではないと認識していたという。

一方で、保険金サービス部はリスク対応へのリテラシーが乏しいうえに、社内力学上の立場が相対的に弱く、ビッグモーターという重要な取引先を失いかねない営業部門に、コンプライアンスの観点で多くを求めるのも現実的ではなかった。

報告書は「損保ジャパン内で、責任をもって主体的に対応する意思及び能力を持った部署等が判然としておらず、コンプライアンス体制が機能不全を起こしていたことが、最大の制度的要因ではなかったかと思われる」としている。

とはいえ、会社にとって大きなリスクとなりかねないコンプライアンス上の問題が浮上すれば、事務分掌を超えて協議を提案する人がいてもおかしくない。この点について報告書は「人的要因」のひとつに「役職員に見られる主体性の乏しさ(縦割り思考、他責思考)」をあげている。

そして、損保ジャパンの方針決定のありかたを「お粗末と言わざるを得ない」と断じ、「当時そのことに異を唱えたり疑問を呈したりする役員が誰一人としていなかったことは誠に残念でならない」としている。