「何を」ではなく「いかに」食べるか

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 世には食材が溢れ、「何を」食べればいいのか日々悩む。もちろん、健康のためには栄養豊富なものを選ぶべきである。しかし人生100年時代を生き抜くには、それだけでは足りない。食材の栄養を無駄にしないためには……。「いかに」食べるか、それが問題なのだ。【濱 裕宣/東京慈恵会医科大学附属病院栄養部部長】

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【写真を見る】豚のショウガ焼きとしゃぶしゃぶ、どちらが栄養を取れる?

 家族で鍋を囲み、豚しゃぶをいただく。

 寒さが身に染みる冬だからこそ、豚肉を食べるのであればショウガ焼きよりも、より体が温まりそうな鍋を選びたくなる。もちろん、好みの問題ですから、どちらが「正しい」ということはありません。しかし、豚肉の栄養面から考えた場合、お勧めには「答え」があります。

「何を」ではなく「いかに」食べるか

 豚しゃぶか、豚肉のショウガ焼きか、果たして――。

「食べ方」で栄養が失われてしまう

〈こんな問いを発するのは、東京慈恵会医科大学附属病院の栄養部部長で管理栄養士の濱裕宣(ひろのぶ)氏だ。

 単なる「寿命」ではなく「健康寿命」を意識せざるを得ない現代は、健康の基本である食への気配りが欠かせない。

 そこで多くの人は、“万能薬”のようなスーパーフードを求めて詳細な食情報を探し求める。肉を食べるならどんな肉を選ぶべきなのか、老化防止にはどの魚がいいのか、栄養価が高い野菜は何なのか……。

 無論、「何を食べるか」も重要である。一方で、栄養が豊富な食材であっても、「食べ方」によっては、せっかくの栄養が失われてしまうことがある。

「食と栄養」のプロである濱氏が、「What」ではなく「How」の食事術を指南する。〉

過度なダイエットや野菜の大量生産問題

 飽食の時代である現代において、実は日本人は栄養失調の傾向にあります。1950年当時の日本人の平均摂取カロリー(1日)は2098キロカロリーであったのに対し、2018年は1900キロカロリーに減少しているのです。

 過度なダイエットなどの影響もあるでしょうが、同時に、昔と同じ食材を同じように食べていても、摂取できる栄養が減ってしまっている可能性が指摘されています。

 野菜でいえば、大量生産の影響が考えられます。同じ畑で大量に育てるため、土から一気に栄養を吸い取って土壌が痩せてしまう。化学肥料で補おうとしても補いきれず、例えばトマトを1個食べても、昔と今とでは、今のほうが栄養が不足しているということが起き得るのです。

 また、温暖化の影響も指摘されています。23年の夏は歴史的な猛暑でしたが、暑さのせいでネギなどの野菜も細くなってしまい、やはり栄養が減っていると考えられます。したがって、かなり強く意識しないと、とりわけビタミンやミネラルは不足しがちになってしまうのです。

 こうした環境を考えると、食材から効率よく栄養を摂取する「食べ方」が大事になってくるわけです。高齢者においては、栄養不足によってフレイル(虚弱)になる恐れがあるので、栄養ロスを防ぐために、やはり「何を」とともに「いかに」食べるかが健康寿命を延ばすポイントとなってきます。

骨付き鶏肉と酢

 では、冒頭の問いから考えてみましょう。

 豚肉にはビタミンB1が豊富に含まれています。ビタミンB1は糖質をエネルギーに変えてくれるため、不足すると疲れやすくなったり、頭の回転が鈍くなったりします。ビタミンは水溶性で、ゆでると多くのビタミンB1が溶け出てしまいます。ですから、豚肉のビタミンB1を無駄にしないためには、ゆでるよりも焼くほうがいい。というわけで、先の問いの答えはショウガ焼きを選ぶべし、となります。

 なお、豚のショウガ焼きにはタマネギやニンニクを使うのが定番ですが、それらから発生するアリシンはビタミンB1の吸収を高めますので、誰が考えたのかは分かりませんが、非常に理にかなった食べ方だと思います。

 もし、豚しゃぶにするのであれば、シメに残り汁を使っておじやを作るなどして、溶け出したビタミンB1を無駄にしない方法もあります。

 同じ肉でも骨付き鶏肉の場合は、酢で煮ることによって骨のカルシウムが水煮に比べて約2倍溶け出てきますので、より効果的にカルシウムを摂取できます。酢のメーカーが、“お酢を使った骨付き鶏肉のさっぱり煮”を宣伝していますが、そこにはこうした理由もあるのだと思います。

魚を焼く時の注意点

 肉に続いて魚の食べ方としては、やはりお刺身が一番です。イワシやサバといった青魚などの脂には、認知力を改善させる効果があるといわれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が豊富に含まれますが、焼いてしまうとどんどん流れ出てしまいます。従って、焼くのであれば、脂を逃がさないために網焼きなどではなくフライパンなどのほうがいいでしょう。衣をつけてフライにすることでも脂が逃げるのを防げます。

 豚のショウガ焼きのところで触れたニンニクの話を紹介すると、電子レンジで急速に温めると独特の臭みが消えます。これは臭いの元であるアリシンが急激な熱変性によって失われるためですが、アリシンには血液サラサラ効果や抗酸化作用があるため、もったいない。アリシンの元であるアリインは細胞が破壊されることで活性化しますから、ニンニクのレンチンはできたら控え、細かく刻んだりすりおろしたりして食べるのが一番お勧めです。

野菜のあくは捨てる必要なし

 次に、野菜から出る「あく」について説明したいと思います。あくは不要なものというイメージが強いかもしれませんが、栄養摂取の面から考えると、必ずしも「悪」ではありません。

 家庭科の授業で、ゴボウやレンコンを調理する際、水に漬けてあく抜きするように教えられた経験はありませんか? ここには、調理後の「見た目」が大きく影響しているのではないかと思います。あくを抜くと煮た時などに奇麗な色になるからです。

 しかし肉のあくは臭みといわれることがありますが、野菜のあくはうま味であり、捨てる必要はありません。ホウレンソウに含まれるシュウ酸は結石の原因となるためあく抜きなどの注意が必要ですが、ゴボウやレンコンはあく抜きをすることで、抗酸化作用のあるポリフェノールが流れ出てしまうのです。

おでんの大根の栄養はほぼ食物繊維だけ

 また、よく知られているように多くの野菜の皮には栄養が豊富に含まれているので、できれば皮むきはしたくないところです。たしかにニンジンも皮をむかずに醤油で煮たりすると、皮の部分が黒ずんで見た目は悪くなります。しかしニンジンの皮には、皮膚や粘膜の健康を維持し、アンチエイジング効果があるβ-カロテンなどの栄養成分が中心部の倍くらい含まれています。ですから見た目や食感は気にせず、やはりぜひ皮を捨てないでもらえればと思います。ニンジンや大根は、もみじおろしや大根おろしにすれば皮をむかなくても食感は全く気にならなくなります。

 ちなみに大根は、冬の風物詩であるおでんの代表的な具材のひとつです。しかし、大根の重要な栄養成分で、消化不良などに効くジアスターゼは酵素で熱に弱く、50℃を超えると活動が弱くなり、70℃になると働きを失ってしまいます。さらに、大根に豊富に含まれるビタミンCもおでんの汁の中に溶け出します。したがって、実はおでんの大根に残っているのは食物繊維くらいで、ほとんど栄養はなくなってしまっているのです。

ピーマンの種とワタ

 皮と同じく、捨ててほしくないのがピーマンの種とワタです。そこには、血液サラサラ効果があり、生活習慣病予防が期待できるピラジンという成分が最も多く含まれているからです。捨てるのは本当にもったいない。食感を気にする方もいますが、みなさん、シシトウの種はそのまま食べますよね。それと同じことで、ピーマンだけ種とワタを捨てるのは逆に変であると発想を転換することもできるのではないでしょうか。

 例えばピーマンの肉詰めを作るのであれば、ヘタのところを輪切りにしてそこから種もワタも一緒に肉詰めする。焼いてしまえば、種とワタの食感は気にならなくなります。なおピーマンには一般的に熱に弱いとされるビタミンCも多く含まれていますが、ビタミンCを熱から守ってくれるビタミンPも含んでいるため、加熱によってあまり栄養成分が変わらない野菜のひとつです。

納豆ご飯を食べるときの注意点

 酵素の話でいうと、日本人のソウルフードともいうべき納豆に含まれるナットウキナーゼも酵素ですから、50〜70℃でその効果は消失してしまいます。ですから、電子レンジで白いご飯を急速に温めた場合は、すぐにではなく、少し冷ましてからご飯の上に乗せて食べたほうがいいでしょう。

 加熱の点から考えれば、納豆みそ汁や納豆チャーハン、納豆パスタも、納豆を混ぜてから火を通すとやはりナットウキナーゼの効果は消失してしまいます。もちろん、アミノ酸スコア100である大豆の良質なタンパク質は加熱しても消えるわけではありません。しかし、せっかくなら納豆の栄養を存分に摂取したい、少しも無駄にしたくないという方は、加熱を避ける。それが、ひいては健康につながるわけですから。

 肉、魚、野菜……。自宅にいて料理をする機会が増える冬休みの期間こそ、「食材選び」だけでなく「料理・調理法選び」にも気を配ってみてください。健康は食からであり、そして食べ方からでもあるのです。

濱 裕宣(はまひろのぶ)
東京慈恵会医科大学附属病院栄養部部長。管理栄養士。『慈恵大学病院のおいしい大麦レシピ』『その調理、9割の栄養捨ててます!』等の書籍監修に携わる。食材が持つ本来の魅力を大切にすることを目指す一般社団法人「栄養まるごと推進委員会」の理事長も務める。

「週刊新潮」2024年1月4・11日号 掲載