昨年末、小石川後楽園で開催された東京都主催の婚活交流イベント

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 昨年12月、東京都はAIが相性診断して交際相手を紹介してくれる「マッチングアプリサービス」の提供を開始すると発表した。都がこの新サービスで売りにするのは、登録者全員に提出を義務付ける「独身証明書」だ。各地で広まる「官製婚活」の最前線はどうなっているのか。都がアプリとは別途、今年度から開催している交流イベントを取材してきた。

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【写真7枚】フリータイムの庭園散策中、いい雰囲気になって語り合う20代の男女たち

茶菓子付きのリアルな婚活パーティーが「たったの1000円」

 年の瀬が迫る先月23日の午後。小石川後楽園内の休み処「涵徳亭」に、着飾った男女64人が集まった。東京都主催の婚活交流イベント「小石川後楽園de縁結び」の参加者である。

昨年末、小石川後楽園で開催された東京都主催の婚活交流イベント

 参加者は18歳から29歳まで、30歳から39歳まで、40歳以上と年代別に分かれて指定された部屋に入室していく。参加費用は茶菓子代込みで1000円。変わっている点は事前に「独身証明書」の登録を義務付けているところだ。既婚者には聞き慣れない証明書だが、独身者のみが本籍地のある役所で発行してもらえる書類である。

「もともとは国際結婚で利用されていたものです。マッチングアプリなどで全く知らない相手を婚活対象とすることが当たり前の時代になり、一般の婚活でも重宝されるようになった。自治体の婚活支援で独身証明書の提出を義務付けるのは珍しく、都は独自の取り組みとして強調しています」(婚活業界関係者)

 それぞれの年代でほぼ同数の男女に分かれて向き合うと、司会者の掛け声で自己紹介が始まった。事前に記入した趣味・年齢などが書かれた自己アピールシートを目の前に座る相手と交換し、一人ひとりと約4分間、順繰りに語り合う。一通りの対面を終えると「ティータイム」。茶菓子を楽しむ。

 休憩前に参加者は第一印象が良かった相手に丸を付けて、運営側に提出する。結果は休憩中に参加者全員にフィードバックされ、後半戦のフリータイムの立ち回りに活かす。

カップルも成立。参加者は「また行きたい」

 だが、全員で休み処を出て庭園内を散策するフリータイムになったものの、意外とみんな大人しくて会話が盛り上がっていない。ポツンと集団から外れて歩いている男性も…。

「まだ若いからですかね。なかなか動きませんねぇ」
「さっき30代の部屋を見たら大盛り上がりだったんですが…」

 やきもきしながら話しているのは、都の生活文化スポーツ局都民活躍支援担当の職員だ。イベントの運営自体は、民間企業に委託して任せているが、都の職員も休日出勤してイベントの成功を見守っているのである。

 最初は不安視されたフリータイムだったが、しばらくすると庭園内のあちこちから笑いが沸き起こるようになった。都の職員たちもホッとした様子。休み処へ戻ると、お待ちかねの「連絡先交換タイム」となる。

 参加者は配布された用紙に、自分の連絡先と気になった相手を3人まで書いて、封筒に入れて運営に託す。もし相手も自分を指名してくれていたら、相手の連絡先が封筒に入って戻ってくる仕組みだ。早速、封筒を開いてニンマリしている参加者もおり、どうやら何組かのカップルが成立したようだ。

 約2時間のイベントを終え、会場を出ていく参加者に感想を聞いてみたが概ね好評だった。

「やっぱり、自治体が運営しているというところに安心感があります。女性にはどうしても既婚の男性が紛れているんじゃないかという不安があるので、独身証明書が必須な点がありがたい。また利用したいと思います」(会社員の20代女性)

「民間の業者だと多額のお金がかかるんじゃないかという心配もあるが、都のイベントだとそういう心配がない」(20代団体職員)

「マッチングアプリでデート商法に巻き込まれるという話を聞いたことがあるが、独身証明書付きなので安心して参加できた」(20代メーカー勤務)

 参加者が口を揃えたのはリアルな世界で、出会いの場が減っているという悩みだ。「コロナ禍で出会いが減ってしまった。出会いを求めて仲介業者を利用する人は周囲でも増えています」(前出の20代女性会社員)。一昔前と違って、「マッチングアプリ」や「婚活パーティー」は婚活の必須ツールになっているのだ。

「民間業者からも歓迎されている」

 生活文化スポーツ局都民活躍支援担当の須山朝子課長はイベントの狙いをこう語る。

「男女の出会いの4分の1が『マッチングアプリ』という民間の調査結果もあります。一方で、マッチングアプリで知り合った人から詐欺被害などに遭う事例もあり、使い始めるのに抵抗感を持つ人は多い。こうしたイベントを通じて、婚活する上での注意点などを学んでもらい、婚活に躊躇していた方が活動を始め、民間の婚活サービスなど自分に合ったものを積極的に活用するきっかけにしてほしいという狙いでこの事業を始めました」

 参加者の婚活意欲を高めることが目的であり、アプリも含めた事業全体でもどれだけカップルが成立し、成婚に至ったかなどの数字は追っていかないと話す。

 とはいえ、これだけの充実したイベントを参加費1000円で実施すれば、民業圧迫にはならないのか。アプリも将来的には有料化する予定というが、来年度以降の本格稼働に向け、先行利用者のみに限定している今年度は無料だ。だが、都はそうした懸念を否定する。

「事業を実施するにあたり、複数の民間事業者にもヒアリングしましたが、都の事業をきっかけに婚活をする人が増えることは望ましいと歓迎されています。実際、婚活をしている未婚者の多くが複数のアプリを併用していると聞いています。都のアプリなどを手始めに、民間の婚活サービスを利用してほしいという考えです。今のところ業界から批判的な意見は頂いていません」(須山氏)

官に頼る抵抗感はないのか

 首都圏でこのような婚活サービスを手がける自治体は、東京都に限った話ではない。埼玉県では、同様のマッチングサービス「恋たま」の運用を18年から開始。こちらはホームページ上で成果を公表しているが、運用開始から5年間で、お見合いが2万9869件、交際が約1万1591件、433件の成婚(1月10日現在)となかなかの結果である。これまで官製婚活というと、地方の自治体が過疎対策も兼ねて取り組んでいるという印象が強かったが、今や都心でも当たり前になってきているのである。

 一方で、男女の出会いを官に委ねることに抵抗を持つ層もいる。民間の婚活サイトに登録している社会人2年目の女性は、「官製婚活はちょっと」と参加をためらう。

「安い行政サービスに頼る男性に対し、年収が低いからでは、とつい勘繰ってしまう。独身であるかどうかももちろん気にはなりますが、年収がマッチしないことには。どうせだったら年収証明書も付けてほしい」

 ドラマのような感動的な出会いを経て結ばれたい。これまで当たり前に世の男女が思い描いてきた結婚観は、もう過去のものなのかもしれない。

デイリー新潮編集部