12月中旬、コネクトエリア浜松では、荷台部分を着脱できる「スワップボディ車」が運転席部分の交替を行っていた(記者撮影、一部加工)

新東名高速道路の浜松サービスエリアに隣接する、2150坪の広々としたスペース。真っ白い照明が周囲を照らす中、午前0時にかけて大型トラックが続々と集まってくる。

ここはコネクトエリア浜松と呼ばれる「中継輸送」の拠点、関東と関西からやってくるトラックの待ち合わせ場所だ。中継輸送は途中で荷物を交換するなど、複数のドライバーがリレー形式で輸送を担う仕組みを指す。

1泊2日の運行を日帰りにできる

物流業界は、2024年4月から時間外労働の上限規制が課せられ、長距離ドライバーの人手不足が深刻化する「2024年問題」を目前に控える。各種規制で長距離運行が難しくなる中、中継輸送はドライバーの負担を減らす作戦として、一段と注目されている。

従来の輸送方法では、1人のドライバーが1日かけて目的地へ荷物を運び、荷下ろし後に車内で睡眠をとる。新たな荷物を積んで、再び出発地に戻るという流れで、1泊2日の行程が基本になっていた。

中継拠点では、大阪から来たトラックと東京から来たトラックが待ち合わせし、荷物を交換する。そして、大阪から来たトラックは大阪へ、東京から来たトラックは東京の拠点へ帰っていく。日帰り勤務が可能になるため、拘束時間・労働時間の短縮につながるのだ。


浜松サービスエリアは東京インターチェンジ(IC)から224キロメートル、大阪・吹田ICから246キロメートル。所要時間はそれぞれ3時間前後で、ほぼ中間地点に当たる。拠点を構えるには申し分のない場所だった。

コネクトエリア浜松で行われていた中継方法は主に2通り。1つは単に車両を乗り換える方法だ。ドライバーは声を掛け合い、簡単な連絡をしながら、リュックサックなどの手荷物を持って乗り換えていた。

もう1つは荷台を交換する方法だ。トレーラーの場合は、貨物部分の「トレーラー」を牽引する運転席部分の「トラクタ」を切り離して入れ替える。運転席部分と荷台部分を着脱できる「スワップボディ車」の場合も同様の作業を行う。それぞれ、作業はほんの数分で済む。

基本は関東や関西方面から、同時刻を目指して運行する。交通状況によっては到着が前後するため、早く到着したドライバーは荷台の交換の準備を進めつつ、休憩をとって相手を待つ。

トラックドライバーの休憩は原則、4時間ごとに30分以上とるよう厚生労働省の「改善基準告示」で定められている。休憩をとる場所としても、浜松はちょうどいいポイントなのだ。

毎日50台程度が利用

コネクトエリア浜松はNEXCO中日本と地元の遠州トラックが整備し、共同で管理・運営している。開設は2018年だ。ドライバー不足を見据えたものだったが、当時、運送会社の反応は鈍かった。声をかけても「そうですか・・・・・・」と、関心を寄せる会社は少なかったという。


コネクトエリア浜松の0時の予約率はほぼ100%だという。同時刻の浜松SAは休憩中のトラックで満車状態。空きスペースを探して周回するトラックの姿もみられた(記者撮影)

ただし、一部の大手では、協力会社を含めて中継輸送を活用しようという機運もあり、いくつかのグループが利用するようになっていく。1回あたりの利用料金は平均で900〜1000円。荷主からコスト増の理解を得るというよりも、自社で利用を決断できる大手が導入していったわけだ。

開業から5年、徐々に利用も増え、現在は毎日50台程度が利用している。収支も黒字に近づいてきたところだという。

遠州トラック・営業企画課長の榑松(くれまつ)弘充氏は「中継輸送をするようになったドライバーからは『以前の泊まりの運行には絶対戻りたくない』という声を聞いている。静岡に拠点を持たない運送会社に声をかけたり、大手からも協力会社に施設を紹介してもらったりするなど、利用を拡大していきたい」と語る。

低温物流大手・ニチレイロジグループ本社はコネクトエリア浜松を利用する大手の一社だ。同社の自社戦力のドライバーは約150人ほど。つまり、輸送の大半は協力会社が担っている。

そこで、現在は全国約80の拠点も活用し、中継輸送を軸とした作業効率化を進めている最中だ。同社の協力会社は約100社あり、例えば東京から名古屋の輸送は東京の会社に、名古屋から大阪へは名古屋の会社に輸送を依頼している。

梅澤一彦社長はこう語る。「東京、浜松・名古屋、大阪、広島、九州と拠点をつなぎ、トレーラーを活用した中継輸送ができるようになった。東北にも延長したい。長距離運行はドライバーの負担が大きく、嫌がる方もいる。協力会社も含めて働き方を改善し、収入も落とさないようにしたい」。

中継輸送を実施するのは全体の16%のみ

大手を軸に広がる中継輸送だが、まだ業界に浸透しているとは言いがたい。2021年の国土交通省の調査で、中継輸送を「実施している」と回答したのは全体の16%だった。

国交省は全85ページにわたる成功事例集を作成するなど、周知徹底を進める。「2024年問題を前に、中継輸送はより注目されている。自社の営業所で行う例が多いが、サービスエリアや道の駅で行われる例もある。今後も普及を促進していきたい」(自動車局貨物課)。

中継輸送には緻密な運行管理はもちろん、安定した量の荷物や拠点が必要だ。中小は難しく、大手がリードする形で浸透していくことになるだろう。コネクトエリア浜松にみられるように、道路管理者と運送会社、さらには競合同士など、会社の垣根を越えた協力関係が、今後のカギになりそうだ。

(田邉 佳介 : 東洋経済 記者)