(写真:y.uemura/PIXTA)

仕事・お金・健康・生きがなど50歳を過ぎると、今後の不安がどうしても頭をよぎります。不安を感じる原因は、じつは「脳の老化」からもきています。脳には“意欲”をつかさどる部位=「前頭葉」がありますが、これは40〜50代頃から萎縮し、老化し始めます。そのため、意欲も衰えてしまうのです。

前頭葉が働くのは、経験したことがないことに向き合ったとき。本稿では会社などで「アウトサイダー」と付き合うことや、仕事以外の人脈を広げることが、新たな刺激につながる理由を和田秀樹さんの新著『50歳からの脳老化を防ぐ 脱マンネリ思考』より、一部引用・再編集してご紹介します。

50代になったらアウトサイダーと付き合う

会社に所属していると仕事の名目でいろいろな業種の人と会えます。50代ともなれば、いままでの経験からすでにさまざまな人脈ができているかもしれません。でもそのほとんどは仕事を通じた付き合いですから、取り引きや交渉が終わってしまえば付き合いも終わります。名刺だけの人脈はあっても意外に中身は薄いのです。

そこでこれからの10年は、できるだけ「アウトサイダー」との付き合いを心がけるようにしてください。

アウトサイダーというのは、たとえば社内でいえば「変わり者」のことです。組織や集団の外にいて、何となくみんなと距離を置いているような人間です。「彼はマイペースだから」「彼女はよくわからない人だから」と声を掛けるのをためらわせるような人のことです。

あるいはどんな派閥やグループにも属さない人たちです。「同じチームだから」「リーダーの言うことだから」といった理由で同意したり支持するのでなく、所属に関係なく自分が納得できる意見や主張には同意します。対立するグループであっても納得すればその意見を支持します。

そういう人間は「お前はどっちの味方なんだ」と仲間に反発されますが、「いいものはいい」「悪いものは悪い」という明快な基準で判断しますから動じません。いわゆる属人ではなく、属事、「誰が言ったか」より「何を言ったか」で判断しますからブレないのです。

つまりここでいうアウトサイダーとは、しっかりした自分の物差しを持っている人ということになります。リーダーや身内の意見に振り回されるのでなく、あくまで自分の判断で行動する人です。

アウトサイダーと付き合うべき理由

なぜわたしが、そういう人たちと付き合おうと勧めるのか説明します。

定年後はもう、自分の興味や楽しみ、あるいはやってみたいと思うことだけに突き進んでいいからです。周囲に合わせる必要はないし、嫌いな人間と付き合う必要もありません。

ところが現役時代に、周囲の意見に合わせる習慣が身についてしまうと、定年を迎えても何となく周りの評判とか序列にこだわってしまいます。「この人はみんなの評判もいいしリーダー役だから付き合ったほうが得だろう」といったような感覚です。

反対に周囲があまり関わろうとしない人、ちょっと個性の強い人やクセのある人は避けてしまいます。「たぶん、いままでにいろいろあったんだろうな」と想像するからです。

でもその人を「面白そうだな」とか「個性的だな」と感じたらつき合ってみればいいし、話が合って「一緒にやってみるか」となったらやってみればいいのです。そういう自分にとって刺激的な人や意欲を掻き立ててくれるような人こそ、どんどん新しい世界を拓いてくれる可能性があるからです。

50代はまだまだ身体の老化が進む年齢ではありません。少なくとも筋力や運動機能といった日常生活に欠かせない体力は変わらず維持しています(筋肉の量そのものでいえば、50代は20代に比べて10%の低下にすぎません)。

ハードワークが続けば「齢かな」とか「疲れやすくなったな」と感じることは増えてきますが、現役のビジネスパーソンであるかぎり、毎日の通勤や帰宅、仕事中の歩行距離だって筋力維持には十分な運動量になるからです。

それもそのはずで、車の移動が多い地方の勤め人に比べて都会(首都圏)の勤め人は自宅から最寄り駅、通勤の乗り換え、ターミナル駅での歩行とかなりの距離を毎日歩きます。しかも通勤ラッシュの時間帯はみんな急ぎ足ですから、周囲に合わせて歩けば結構な運動量になります。

リモートワークばかりが問題なワケ

定年を迎えていちばん変わる生活は通勤がなくなることでしょう。週に5日、毎日厭でも30分からときには1時間ほど早足で歩いていた習慣がなくなります。自宅にいればほとんどが座っていますが、職場にいれば社内を動き回ったり外出したりします。昼休みも含めてなんだかんだと歩き回っているのです。

それが全部なくなったら運動量は激減します。たまの外出や休日の遠出ぐらいではとても追いつかないのです。しかも60代後半から70代ともなると、使わない筋肉はどんどん失われていきます。気がついたときには少しの歩行で息が上がったり、歩いても足元がフラフラするようになります。

加えていま、コロナの影響もあって在宅でのリモートワークが増えています。現場の仕事や販売・接客のような仕事は別として、事務系の仕事は出社を必ずしも義務付けられてはいません。やってみればそれで仕事は回るとわかってきましたから、束縛や社内の付き合いを嫌う若手社員には歓迎されていますが、50代は必ずしも喜べません。

なぜなら毎朝の通勤や退社後の寄り道も含めて、一日の運動量が大幅に減ってしまうからです。本人は「楽だな」と思うかもしれませんが、職場では気を張って自宅ではくつろぐというON/OFFの切り替えがなくなって、一日が何となくホッとできない時間になってしまいます。これで精神的にかえって疲れてしまうのです。

しかも出社しなくなれば必然的に会話が減ります。雑談のような気楽な会話でも人と話すことで気分が軽くなったり笑ったりします。同僚との飲み会のようなストレスを発散させる機会も減りますからだんだんうつっぽくなる人が増えてきます。

そういうときでも、定年後の20年に自分がやりたいことや楽しみな世界を見つけている人は、在宅のままでもON/OFFを切り替えることができます。「ここまでは仕事」「さあ、ここからは好きな読書だ」と切り替えることで、同じ一日、同じ部屋にいても変化をつけることができるからです。

リモートワークというのは、運動量や会話の減少に加えて一日の中の変化を奪っていくということは心に留めておいたほうがいいでしょう。

会社以外の人間関係を少しずつ広げる

リモートワークはコロナが5類に移行されても一定の定着を見せています。職種はある程度限られますし、出社と在宅の比率もさまざまですが、通勤に時間のかかる首都圏では約4割の定着率になっています。

それによって社内での会話が減って前頭葉への刺激が弱まる懸念はありますが、必ずしもそうとは言い切れません。

ある50代の会社員は近所に顔見知りが増え、話し込むことが多くなったと言います。

「通勤がないから昼休みに近所を散歩したり、その日の仕事が終われば駅前の商店街に出かけたりする。そこで何となく話しているうちに急に親しくなったりします」

これはあると思います。自宅近所の同世代というのは、家族構成が似ていたり同じころにマイホームを購入していたりします。子どもがいれば同じ小学校を卒業していたり共通点が多いのです。

でも女性は奥さん同士の会話やネットワークができたりしますが、男性は近所に住んでいてもほとんど付き合いがありません。

違う会社、職種の人のほうがざっくばらんになれる

しかも仕事もまちまちですから、いろいろ話してみると「へえー!?」と驚くようなことがいろいろ出てきます。趣味が同じだったり、ときには大学が同じだったりするとたちまち仲良くなります。


そういうときはむしろ、違う会社、違う職種同士のほうがざっくばらんな話ができます。近所とわかればつぎの約束もしやすいし、趣味が同じとわかれば「こんど一緒に釣りにいきましょうか」となります。

そういう友人ができると、定年後も気楽な付き合いができます。何かやってみたいことができれば声を掛けて一緒に楽しむこともできるでしょう。

ただし注意したいこともあります。

近所の付き合いというのは、あまり近づきすぎると遠慮がなくなって負担に感じることもあるからです。言うまでもないことですが、話してみて自分が楽しいと感じる人、共感できることの多い人と付き合えばいいのであって、近所だからという理由で仲良くしなければいけないということではありません。

(和田 秀樹 : 精神科医)