多くの市民らでにぎわった芳賀・宇都宮LRTの開業日=2023年8月26日(記者撮影)

2023年の鉄道界は、新幹線の開業のような「大物」はなかったものの、地域の交通や鉄道ネットワークの姿を変える注目すべき新路線の開業や延伸があった。

3月18日には、東急電鉄東横線・目黒線と相模鉄道(相鉄)線を新横浜駅経由で結ぶ「相鉄・東急新横浜線」が開業。同月27日には、福岡市地下鉄七隈線が従来の終点だった天神南駅から博多駅まで延伸した。そして8月26日には、日本初の全線新設LRT(次世代型路面電車)として、栃木県宇都宮市と隣接する芳賀町を結ぶ「芳賀・宇都宮LRT」(ライトライン)が走り始めた。

地域の期待を集めて開業した各線。「その後」の姿はどうなっているのだろうか。

予想を下回る新横浜線

首都圏の鉄道ネットワークに新たな変化をもたらしたのが、相鉄・東急直通線だ。2023年3月に新規開業したのは、東急線の日吉駅から新横浜駅を経て、相鉄線の羽沢横浜国大駅までの約10km。東急線側の日吉―新横浜間を「東急新横浜線」、相鉄線側は新横浜―羽沢横浜国大間と、2019年に開業した同駅―西谷間を合わせて「相鉄新横浜線」と呼ぶ。

新規に開業した区間は約10km。これによって相鉄線と東急東横線・目黒線、そして両線に直通する東京メトロ副都心線・東武東上線、メトロ南北線・埼玉高速鉄道、都営地下鉄三田線を結ぶ直通運転がスタートした。直接の乗り入れはないものの、東横線と副都心線を介して線路のつながる西武鉄道を含めると、神奈川・東京・埼玉の1都2県にまたがる7社局14路線、計約250kmにおよぶネットワークが誕生した。


新横浜駅を発車する相鉄・東急新横浜線の1番列車=2023年3月18日(記者撮影)

新横浜駅を経由することから、東海道新幹線へのアクセス路線としても注目される同線。JR東海も新横浜駅6時03分発の臨時「のぞみ」を新設し、東京駅や品川駅の始発列車よりも大阪方面へ早く着けることをPRしている。

では、開業後の利用実態はどうか。相鉄ホールディングスの2023年度第2四半期決算発表時の資料によると、相鉄新横浜線の輸送人員は2023年度上期の計画が1日当たり約8万4000人だったのに対し、実績は約7.9万人と計画値を下回る結果となった。東急新横浜線の輸送人員は第2四半期までの実績が約1340万人で、こちらも計画を約3割下回っている。

相鉄にとっては2019年11月開業の「相鉄・JR直通線」に次ぐ2つ目の都心直通ルート、東急にとっては東海道新幹線と接続する新横浜へのアクセス路線として期待を集めて開業した相鉄・東急新横浜線。定期外客の利用は堅調というが、定期客の利用が定着するまでにはまだ時間がかかりそうだ。


新横浜駅のホームに並んだ都営地下鉄三田線(左)と相鉄の電車=2023年3月28日(記者撮影)

大混雑の七隈線、予測上回る宇都宮LRT

一方、好調なのが3月27日に天神南―博多間約2kmが延伸開業した福岡市地下鉄七隈線だ。同線は2005年2月に福岡市西南部の橋本と天神南を結ぶ約12kmが開業。東京の都営地下鉄大江戸線や大阪メトロ長堀鶴見緑地線などと同じ、リニアモーター駆動によってレールの上を車輪で走る「鉄輪式リニアモーター」の地下鉄で、JR在来線などの一般的な車両と比べてやや小ぶりな電車が4両編成で走る。


福岡市地下鉄七隈線・天神南―博多間開業1番列車の出発式=2023年3月27日(記者撮影)

同線は開業以来、輸送人員が予想を大きく下回る状態が続いていた。当初の1日平均乗車人員の目標値は11万人だったが、2005年4月の1日平均乗車人員は約4万6000人と4割程度で、その後も低迷。天神南駅が繁華街である天神地区の中心から外れており、福岡市地下鉄空港線や西日本鉄道(西鉄)天神大牟田線の駅とも離れていることなどが要因だったとみられる。


七隈線の終点、橋本駅には延伸開業で博多まで28分に短縮されることをPRするステッカーが=2023年3月26日(記者撮影)

だが、博多駅への直結で利用者数は急増。3月に1日当たり約7万5000人だった輸送人員は、延伸開業後の4月には約12万人と一気に1.6倍に。混雑の緩和が課題として急浮上し、8月にはダイヤ改正を実施してラッシュ時の列車を増便するまでになった。約2kmの延伸が大変貌をもたらした。

8月26日には、栃木県宇都宮市と芳賀町に、LRT(次世代型路面電車)「芳賀・宇都宮LRT」(ライトライン)が開業した。同線はJR宇都宮駅東口から市内の清原工業団地などを経由し、隣接する芳賀町の芳賀・高根沢工業団地まで約15kmを結ぶ。


日本で初めて全線を新設したLRT「芳賀・宇都宮LRT」(ライトライン)の車両(記者撮影)

日本で初めて全線を新設したLRTとしても話題を呼んだ同線。開業初年度の需要予測は平日が1日当たり約1万2800人、休日は約4400人だったが、開業後1カ月の実績は平日がほぼ同程度の一方、休日は1万5000〜1万6000人と大幅に予測を上回った。その後も利用は堅調で、11月15日には開業以来の累計利用者数が100万人に達した。

建設費の度重なる増加などで批判を受けたものの、クルマ社会の宇都宮で好調な滑り出しを見せているLRT。開業後の熱気が一段落する2024年からが本番といえる。今後はさらなる増発や快速運転の実施予定なども注目される。


車と並んで道路上を走るLRTの車両(記者撮影)

2024年は北陸新幹線と北急

2024年も新たな路線が開業する。「目玉」となるのは、3月16日に開業する北陸新幹線の金沢(石川県)―敦賀(福井県)間だ。同区間は約125kmで、福井駅や敦賀駅など6駅を新設。東京―福井間は最短で2時間51分と、従来の北陸新幹線・在来線乗り継ぎに比べて約30分短縮される。

初の新幹線開業となる福井県は「100年に1度のチャンス」として、観光振興などに期待を寄せる。一方で並行在来線は第三セクターに分離され、関西方面とを結ぶ在来線特急は敦賀止まりとなり、乗り換えを強いられることになる。

もう1つは北陸新幹線の1週間後、3月23日に開業する北大阪急行電鉄(大阪府)の千里中央―箕面萱野(みのおかやの)間約2.5kmだ。同線は大阪の大動脈、大阪メトロ御堂筋線に直通して一体的に運行しており、箕面市内から新大阪や梅田、難波などへ1本でアクセス可能となる。

新路線の開業は鉄道界にとって明るい話題だが、重要なのは「その後」だ。2023年開業の路線はおおむね好調に推移しているといえる。2024年開業の路線は期待通りの効果を生み出せるか。


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(小佐野 景寿 : 東洋経済 記者)