SHIBUYA109店頭イベントスペースでは、他会場にいる人々のアバターとコミュニケーションできる催しを展示。体験希望者の列は横にある階段の2階部分にまで伸びていた(筆者撮影)

若者の渋谷離れと言われ、原宿もシャッターを下ろしたままの店舗スペースが増えて数年経った2023年末。いまや、若者が多く集いつつあるバーチャルなメタバースと渋谷と原宿を結ぶ「バーチャルマーケット2023リアルinシブハラ」が12月16〜17日、開催された。

世界各国、どこに居ながらでも友達と会って話せるメタバースの民が、渋谷や原宿に足を踏み入れたとき何が起きるのか──。筆者の目には若者を中心とした観光振興策として有効なのではないかと映った。音楽フェスのようなポジティブな熱気が、そこにはあったからだ。

渋谷・原宿とメタバースカルチャーの相性は

バーチャルマーケットとは、VRChatなどのソーシャルVR/メタバースサービスを活用したバーチャルな大規模展示会イベントだ。仮想空間内に作られた華やかな企業スペースや個人クリエーターやサークル、コミュニティーのブースがあり、各々がオリジナル作品を展示・販売していることから「バーチャル版のコミケのようなもの」と言う人もいる。

参加者は述べ人数で100万人を超えたこともある規模を誇る。そんなバーチャルマーケットが現実の都市と連携した大規模イベント「バーチャルマーケット2023リアルinアキバ」を初めて実施したのは2023年7月末。記事(リアルで4万人を集めた「VRイベント」の成功要因)でレポートしたように、コロナ禍が一段落して国内旅行需要もインバウンド需要も回復傾向にあった夏の秋葉原で開催。バーチャル内のコンテンツを現実側に持ち込んだ、またはバーチャルの世界を気軽に体験できる展示が多く、どのブースも混み合っていた。

可愛らしい服を身にまとった女性アバターが多く闊歩するVRChatは、オタクの聖地と呼ばれる秋葉原のカルチャーに近い傾向がある。実際に秋葉原で開催されたイベントは相性が良いと感じられるものだった。メタバースにアクセスしている人だけではなく、普段から秋葉原にいる人、観光しにきた人にとっても「バーチャルマーケット2023リアルinアキバ」は親和性が高く、興味深そうに眺めてから会場に足を踏み入れる人も多かった。


渋谷エリアは開業したばかりのShibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)、SHIBUYA109やその周囲にある飲食店。原宿エリアは竹下通りや明治通り、キャットストリート近くの施設が会場となった(画像:公式サイトより)

そんなバーチャルとリアルを融合するイベントが渋谷、原宿エリアで開催される。期待半分、不安半分な気持ちを抱きながら「バーチャルマーケット2023リアルinシブハラ」会場に向かったが、入場する前から不安は杞憂だったと気がついた。

メタバースユーザーを現実の街に召喚


渋谷再開発・渋谷駅桜丘口地区に建てられたShibuya Sakura Stage(右)。JR渋谷駅(左下側)数分、建築中の新改札口からは約30mという立地を誇る(筆者撮影)

11月末にオープンしたShibuya Sakura Stageの3階イベントスペース「BLOOM GATE」は多くの人で賑わい、動くVTuberロボットと話したり、VRChatキャラクターのコスプレイヤーが賑やかしていたりと、誰もが思い思いに展示されていた数々のコンテンツを楽しんでいた。雰囲気はまるで大規模な音楽フェスといったところだろうか。


スクリーンに映しだされたメタバース内のアバターと一緒にパラパラを踊る参加者(筆者撮影)

参加者の傾向としては、男性8:女性2といったところだろうか。新興のインターネットカルチャーはだいたいこれくらいの比率から始まることが多いので、違和感はない。年齢層で見ると、20〜30代が多いと感じる。現実で会うのは初めてというグループも多いようだが、普段からメタバース内で話しているのだろう。すぐに打ち解けている人々も多かった。


極めて人通りが多い、週末のSHIBUYA109前交差点。目に入りやすい一等地に大型スクリーンを設置してアバターを映し出していたことから「VTuberのイベント?」と興味を示す人もいた(筆者撮影)

Shibuya Sakura Stage側は、ほぼこけら落としといえる状況だったために、「バーチャルマーケット2023リアルinシブハラ」目的で訪れた人しか居なかった様子。しかしSHIBUYA109側は、老若男女問わず多くの人が行き交う交差点の前という、目に付きやすい場所にあった。そのため「バーチャルマーケット2023リアルinシブハラ」を知らない人も、いったいどんなイベントなのだろうと興味を示していた。

同じ方向を向いていると感じた「原宿×メタバース」


原宿駅から竹下通りに入ってすぐ、マクドナルドの手前にあった会場(筆者撮影)

SHIBUYA109のコンテンツを体験するには、数十分は並ぶ必要があるほどの賑わいだったため、筆者が見ていたかぎり、通りすがりで試してみようという人はいなかった。しかし原宿エリア・竹下通りの会場は違う。「メタバースイベントがリアルに進出」のキャッチコピーを見た高校生くらいのカップルや、インバウンドで訪れたであろう家族連れ、さまざまな人たちが会場に吸い込まれていった。


まるでデコ電やデコスマホのように、キラキラのストーンでデコレーションされたVRヘッドセット。KAWAIIの追求に限界はないんだと思えてくる(筆者撮影)

派手に見える入り口の飾りやビビッドな色使いも、さまざまなKAWAIIが集っている竹下通りに自然と溶け込んでいる。竹下通りにあるファッションアイテムは定番ものだけではなく個性的なアイテムも多く、カラフルさ、デザインの奇抜さ、面白さで、キャッチーなバーチャルファッションと近いところがある。

竹下通りは自分の好きと思うことに一途な人が集まる場でもあるが、メタバースもそういう側面がある。現実の自分とは違った好きな姿になれることが気に入って、毎日何時間もアクセスしている人がいる。

相性が良い、どころではない。思想の方向性が同一と思えてくる。


アイドル、声優、マンガやアニメとのコラボも積極的に行ってきたビームス。2020年からはメタバースの取り組みも進めてきた(筆者撮影)

明治通りにあるビームス原宿の3階フロアも「バーチャルマーケット2023リアルinシブハラ」の会場の1つとなっていた。ビームスは長らくメタバース側のバーチャルマーケットに出展を続けており、現実で販売するアパレルと同デザインのバーチャルファッションも提供している。そのファッションで訪れていた人もいた。

バーチャルの住民が渋谷と原宿を回遊


キャットストリート近くにあるイベントスペースでは、クリエーターカルチャーというテーマで個人クリエーターやサークルの作品が展示されていた (筆者撮影)

古民家イベントスペースのUNKNOWN HARAJUKUも「バーチャルマーケット2023リアルinシブハラ」色に染められていた。込み入った場所にあるスペースだが、手元のスマートフォンの地図を見ながらこの場所を探し出し、原宿側からも渋谷側からも次々と人が押し寄せてきた。オリエンテーリングの要素もあり、2つの街に点在した会場をすべて巡る人も多かったと思われる。

X(Twitter)を見ると、苦手意識もあり、渋谷も原宿も一生行くことがないと思っていた人も多いようだった。しかし大半は「行ってよかった」というポジティブな感想を紡いでおり、「バーチャルマーケット2023リアルinシブハラ」がバーチャルと現実の街との接点として機能したことを証明していた。

休憩スポットのコラボ飲食店は混み合い、ほかの飲食店には入りづらかったのだろうか、一部の会場の近くで立ち止まってたむろしてしまう人を多く見かけた。主催者側が休憩スペースを用意するというのは現実的ではないが、周囲から苦情がくるのではないかと心配になる。

非公式の形でも地元のコミュニティーや、会場近くに住むユーザーと協力しあって、エリア全体のガイドとなるような、るるぶバーチャルマーケットリアルのようなコンテンツが欲しいとは感じたが、観光振興策として注目されそうな結果になったのではと感じる。

次回はどの都市で開催されるのだろうか。そしてメタバースからどれだけの人が現実空間の観光を楽しむようになるのか、今から楽しみにしたい。


この連載の一覧はこちら

(武者 良太 : フリーライター)